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お誕生日おめでとう、アリス

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「無礼というのは・・・?」

お父さまは、あたしを睨みつけてすぐに笑顔を作っておっさんに向き直った。
おっさんは、じろりとあたしを見た後にやりと笑った。

「いやいや、何でもないさ。いやー本当に可愛らしい。ワシは気に入ったよ」

あたしは、舐めるような目で全身を見られて気持ち悪くて涙が出そうになった。
おっさんは、あたしを射るような目で見て顎ひげを撫でながら言った。

「彼女とワシは結婚するぞ、決まりだ。おぬしもワシのことを気に入っただろう?」

あたしは、応える代わりに俯いた。

「シャイな子でして」

お父さまは、にっこり微笑んだ。
お母さまも後ろで様子を見ているはずなのに、何も言ってこない。
誰も助けてくれない。

「そろそろワシたち2人きりでお話しさせてくれないかの」

「あぁ、ごゆっくり」

「ちょっと、お父さま!」

お父さまに声をかけたけれど、お父さまはそのまま行ってしまった。

「お母さま!」

振り返ると、お母さまも無言で立ち上がっていた。
おっさんのボディガードのような男も無言で席を立った。

「久しぶりだな、ワシに唾をかけたことを覚えているか?」

「・・・・・・」

「見た目だけは本当にタイプなんだが・・・少々素行が悪いみたいだな」

おっさんは、こっちに這って近寄ってきた。あたしは鳥肌が立ち這って後ずさった。

「・・・近寄らないで」

「その生意気な口の利き方、ワシと結婚したらゆっくり調教してやるわ」

おっさんは、下衆な笑みを浮かべてあたしを見つめた。
変態、ロリコン、気持ち悪い、ありとあらゆる悪口があたしの脳内を駆け巡った。
あたしは、こんな気持ち悪い男と結婚しないといけないの?
いや、いやよ・・・いや。

「どうして泣いているんだ?泣く程うれしいのか?はっはっは」

おっさんは、高笑いして立ち上がった。

「誘拐されていたと聞いたが、どうやら本当らしい。誘拐されて人売りに売られそうになったが、人売りも手に負えず捨てられ、ここに戻ってきたといったところか」

筋が通っているけど見当違いね。一歩間違っていたら多分そうなっていたんでしょうけど。

「覚えておけよ、ワシのグランディ家が、お前たちフォーデンハイド家に資金援助してやって、お前たちはここまで大きな財を成すことができたのだからな、ワシはお前にされた無礼を忘れんぞ、一生ワシの家に閉じ込めて可愛がってやるからな」

膝をついて俯いているあたしに、おっさんは絶望的な言葉を吐きかけた。
扉のばたんという音が静かに響いた。
あたしは、絶望的な運命からは逃げられないのだと悟った。

そして同時に覚悟を決めた。
あの男と結婚するまでに、この家から脱出する。
絶対にあんなキモいおっさんと結婚したくない。こんな最低最悪な運命らは何が何でも逃れてやる。

あのクソジジイ気色悪いのよ、なーにが一生閉じ込めて可愛がってやるからな、よ。気持ち悪いのよ!そういうことをいっていいビジュアルなのか考えなさいよ!!
あたしは、昨日一生懸命考えていた。
どうしたらこの家から脱出できるのか、基本的にはここから出ることはできない。
逃げるとしたら、結婚式の日、かしら。

お父さまにも、お母さまにも、もう助けなんか求めない。
どんな手を使ってでもアイツと結婚するという運命から逃れなくては。

あたしは、それからなんとかして来週の結婚式までに逃げる方法を考えていた。
王子様の助けを待つだけのお姫様じゃないんだからね、あたしは。

あたしは、次週の結婚式まで大人しく従ったフリをした。
この家からは逃げることはできない。ハーネスがあたしを誘拐できたのも、お父さまの従者が手助けしたからであって、通常はセキュリティがしいてあるわ。
となると、結婚式の最中しかない。ドレスを着る前、トイレに行くといって逃げてやるわ。

結婚式の前日。

またあのおっさんが屋敷を訪れた。

「随分短い期間で姿勢やら雰囲気やら変わったじゃないか」

おっさんに褒められても全く嬉しくないわ。

「ありがとうございます」

「ワシのところに嫁ぐ決意はできたか?」

「ええ」

あたしは平気な顔で答えた。
おっさんは、少し動揺したのか眉をひそめた。

「随分素直じゃないか」

「お父さまにみっちり仕込まれたのよ」

あたしが言うと、おっさんはお父さまをじろりと見た。

「アリスは誘拐されたということだが、ワシの家は名家だからな。誘拐犯にグランディ家が多額の身代金を支払いアリスを救い出したということで発表させてもらおう、しかもフォーデンハイド家とは繋がりがあるからな」

この期に及んで王子様気どりする気なの?このおっさんはどこまで恥を重ねれば気が済むって言うのよ。
あとさりげなくアリスって呼ばないでよ、気持ち悪いわね。

「じゃあ・・・明日はあたしの結婚式と、誕生日も兼ねているんですからね。誕生日プレゼント、用意しておいてよね」

「アリス!!」

お父さまが大きな声を上げた。
あたしはドレスのすそを掴んで走って部屋に戻った。

***

午前0時。
あたしの誕生日、誰も祝ってくれない。
当然ね、今日はあたしの運命が決まる日、そして誕生日。
もし、逃げられなかったら舌を噛んで死ぬという覚悟もできている。これも一つの逃げ、よね。

明日は早いわ、もう寝ましょう。
誕生日おめでとう、アリス。
愛想笑いでお祝いしてくれる使用人はいない。猫ババにいったらパンを少し多めにくれたりしたのかしら。
あの人に言ったら、なんて嫌味を返してくるのかしら。
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