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神にさえ愛されなかった令嬢

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「あたしを誘拐したのはハーネスとあなたってどういうことよ」

「そのままの意味だ」

「どうしてあたしの誘拐にお父さまの従者であるあなたが関わってくるのよ」

あたしの背中に冷たい汗がつたった。
これ以上聞いてはいけない。これ以上このことに踏み込んではいけない。
そう、頭では考えているのに真実を知りたいという願いが口から勝手に言葉を投げかけていく。

「・・・アリスお嬢様をそもそも誘拐するようにいったのは、他ならない旦那様だからだよ」

「・・・は?」

あたしの思考は停止した。
どうして、とか、嘘でしょ?とかそういう考えではなく、ただ頭がその事実に思考を停止した。

「ショックだろうが、紛れもない事実だよ。俺は、旦那様から2つ頼まれた。アリスお嬢様を誘拐する主犯を見つけてくること、そして主犯に協力すること」
男は2本の指を立てて、淡々と話しを続けた。

「ハーネスは、昔の仕事仲間でな。縄と椅子なんかもって歩いていたから声をかけたんだ」

椅子と縄?あたしは何かひっかった。

【誰ですか、あなた】

【こんなところにいたんだな、ハーネス。驚いたよ】

【・・・・・?】

【お前の前職にいたのさ、俺も。姿を消したから死んだかと思ったが、人違いとかじゃなさそうだな、お前、いつも腹にソレ仕込んでるもんな】

「いい儲け話があるってな。こんな話普通は乗ってこないが、ハーネスは乗ってきた。お金に困っていて最期に恩を返したい人がいるとかいって」

【俺はまだあそこと掛け持ちで本業やってんだ、よかったよハーネス、ちょっと協力してほしいことがあるんだ】

【も、もうオレは人殺しはしない】

【違う違う違う、ちょっとしたことだよ。協力してくれ】

【嫌だといったら?】

【お前の居場所を組織にばらす、お前に関わる全ての人が危険な目にあうかもな】

「俺は、ハーネスと協力関係を結び、屋敷を開けたり、侵入しやすくしたりと色々裏手で協力し、アリスお嬢様を誘拐した身代金の金は、ハーネスに全部譲渡することにした」

「・・・おかしいわ」

「そうだな、俺にメリットがない」

【俺の言う通りにお嬢さまを誘拐してくれたら身代金も全部やる。大丈夫、誘拐するフリだけだ。身代金だけハーネスがもらったらすぐお嬢さまを俺が取り返しにくるから】

「俺は、巧みな嘘でハーネスを騙して協力させたんだ」

「ハーネスは、本当にそれに乗ったの?」

「あぁ」

ハーネスは、騙されてあたしを誘拐したってことね。
あの状態ならすぐにでもお金がほしかったんでしょうね。働きたくないっていっていたし。楽な仕事が見つかったって食いついたのねハーネス。

「そしてアリスお嬢様を誘拐した俺は、ハーネスとは別れてこうして旦那様のところへ戻って働いているわけだが、どうして旦那様は、アリスお嬢様を誘拐しろなんていったのか」

「ええ」

「それは―――」

あたしは、その話を聞いて茫然とした。
脳が途中で思考を停止した。顔から血の気が引いていくのがわかった。
知らず知らずのうちに手を痛いくらい握りしめていた。

「というわけだ」

「嘘でしょ?」

「嘘じゃないさ」

「どうして、そんなことをあたしに教えたの?」

あたしの言葉に、男は言った。

「孤児院で生まれた俺にとって親というのは憧れだった。でも、旦那さまに仕えてからその考えが狂っていった。このままじゃ、あまりにも可哀想だからな」

男は、それだけいって扉へと歩いて行った。
本当にそんなことを思っているのだろうか、あたしは疑問だった。

「・・・・・・・」

「じゃあな。大人しくしていてくれ」

男は、ぱたんと扉を閉めた。
あたしは、部屋のベットにぼふんと頭を落とした。

『旦那さまは、元々アリスお嬢様を厄介払いするつもりで誘拐させたんだ。というのも、旦那さまにはもう一人本当の奥さまがいて、その奥さまが近々子供を産んだんだけど、空気のいいこっちで暮らそうってなったらしいんだ。それで、ここで住みたいからアリスお嬢さまを誘拐させて、そのまま帰ってこないようにしようとした。誘拐犯が金のためにアリスお嬢さまを売り飛ばして帰ってこなければ上々だったわけだ』

『だが、少しして事情が変わった。フォーデンハイド家がお世話になっているグランデイ家のアンデイ氏が結婚相手を探しているらしく、フォーデンハイド家の娘を一人紹介するようにいってきたんだ。旦那さまも、別居している奥さまも、自分の大切な娘を差し出したくなかった。だから、急いで誘拐したアリスお嬢を連れ戻させたんだ』

『まともな親ならデブで黒い噂の絶えないおっさんに自分の娘を嫁がせようなんて思わないさ』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あたしは、ベットに突っ伏して小さく呟いた。

「どうして・・・」

あたしは、お父さまやお母さまにとってどうでもいい存在だったんだわ。
最初から、娘だと思ってもらっていなかったんだわ。

『仕方ないじゃない・・・あなたしかいないんだから』

お母さまはそういっていたわ。
そういうことだったのね。
とめどなく溢れた涙は、強く押し付けた枕に沈んでいく。
目を強く閉じると、前にババアに連れ去られたとき助けにきてくれたアイツの顔が浮かんだ。

でも、きっと今度こそ助けてはくれないわ。
あたしは、枕に顔を押し付けて声を押さえて泣いた。
そして、懐かしいハーネスの顔を思い出していた。

***

次の日の顔合わせ、あたしは死んだような目で向かった。
髪は最低限キレイに整えられ、化粧もさせられ、ピンクのドレスを着せられた。

「そんな顔をしてはいけないよ、アリス」

お父さまは、あたしの腕を強くつかんだ。

「・・・・・・」

前日、お父さまお抱えの、教育係の先生に、言葉使いや立ち居振る舞いをみっちり指導されてきたけど、あたしは全く覚える気にならなかった。

「アリス、こちらがアリスの婚約者のグランディ・アンディ氏だ」

「なに!?」

あたしは、紹介された男性を見て大きく目を見開いた。

「ワシに前に無礼を働いた女ではないか」

神様というのは、とことんあたしに厳しいらしい。
そこにいたのは前にハーネスがあたしを売りに行ったと足を止めたひげが生えていてデブな、あたしが見た目通り「気持ちわるいおっさん」と称して唾を吐きかけたおっさんだった。
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