悪役令嬢を誘拐したら身代金を断られたので大喧嘩しながら同棲中

ガイア

文字の大きさ
上 下
18 / 29

努力は人を裏切らない

しおりを挟む
どうやらオレは小さい頃親に捨てられたらしい。
孤児院でそう言われたとき、オレはいらない存在なのだと思った。
孤児院では、理不尽なことで殴られ、脅され、恐怖で支配される。
弱い奴で、自分で命を断つようなヤツもいた。

大きくなると、銃を持たされ、オレたちは人殺しの訓練をさせられた。
孤児院自体も森の中の町から外れた場所にある人から、人目も届かない。
捨て子だから汚れ仕事をさせるのにぴったりらしい。
訓練の途中で死ぬ奴もいた。
そういうやつは、まとめて焼かれて森の中の適当なところに埋められた。

オレたちは捨てられた存在なのだから何をしてもいいのだそうだ。
皆諦めていたが、オレは子供ながらにふつふつと、この孤児院の『親』とよばれているジジイとババアに復讐をしようと考えていた。
オレの将来の夢はずっと変わらない。
『プロの殺し屋』だった。
この孤児院のジジイとババア、それからオレを殴った全てにヤツを全員殺す、それ以外考えていなかった。

オレは目つきが悪かったから皆に怖がられた。
だが、同じ部屋の『ルーク』だけはオレによく話しかけてきた。

「ハーネス!ハーネス!」

丸眼鏡に、そばかす、下がった眉毛。
よく顔がむかつくというオレと同じ理由で殴られているルークは、全然違うタイプのオレにひっついてくる。
理由は、1つ。
オレたちは夢が一緒だったからだ。

「ここを出たら、2人で孤児院に復讐しよう」

ルークはよく本を読んでいる。殺し屋という職業を教えてくれたのも、ルークだった。
復讐という言葉をルークはよく使った。

ルークもオレも夢のために自主練をしたり、ナイフの訓練や、体力作りを2人で行っていた。よくこんなつらい訓練を自主的に行えるな、なんて言われたりしたけど、オレたちには夢があったから、運命に流されているヤツらとは根本的に違った。
オレたちは、努力のおかげか最初の仕事で見事成功をおさめ、大きな殺し屋のチームに引き抜かれた。
報酬は高いが危険な仕事の多いチームだ。
オレたちはそこで着実に経験を積んでいった。

家も、孤児院の狭い部屋に何人も詰め込まれた部屋ではなくオレたちは同じマンションで部屋を借りてくらしていた。
そんな日々を過ごしていたある日ルークに呼び出された。

「どうしたんだよ。こんな夜中に呼び出して」

ルークに夜中、オレは呼び出された。
ルークは神妙な面持ちでベットに座っている。
オレは、首を傾げながら隣に座った。

「あのさ、僕たち孤児院に復讐するためにやってきたじゃないか」

「ああ」

「僕さ、仕事の報酬を少しずつ貯めていてさ。大きな家を買ったんだ」

「家だと!?」

オレは、驚いて思わず素っ頓狂な声をあげた。

「ああ、あのさ。ハーネス、僕は昔と同じで孤児院の大人たちを憎んでいるよ」

「ああ」

「でも、孤児院の大人たちへの復讐を果たしたら、子供たちが路頭に迷ってしまうだろう?」

子供たちって、孤児院の子供たちのことか。
オレは全くそんなことは考えていなかった。

「16歳から入ってお世話になってきたチームだけど、僕はここから足を洗って子供たちを引き取って育てようと思う。僕は孤児院の大人たちにされた傷はまだ体の至るところに残っているよ。心の傷もね。今あそこにいる子供たちもきっとそうだと思う。僕は今復讐の為に生きている。でも、こういうことって、繰り返してはいけないと思うんだ」

ルークは、オレが考えもよらなかったところまで考えていた。

「抜けられるわけないだろ」

オレは、冷静に答えた。
そして、常にお腹に隠している銃を服の上から触った。
オレは、銃を常に持ち歩いている。いつジジイとババアに殴られても撃ち殺せるように反撃できるように、寝るときも起きるときもずっと。

「復讐が果たされて、チームから抜けたらもう拳銃とは無縁の場所へいこう」

ルークは、オレの腹から銃を素早く抜き取った。

「あっ、返せ」

オレから銃を取り上げられるのなんてルークくらいだ。
オレはいつも気を張っている。ルークといるときだけが心休める時間だった。

「ハーネス。僕たちはいつかこんなものを持たず、殺すとか殺さないとか関係ない世界で気の許せる相手と・・・のんびり毎日を過ごせるといいね」

ルークはオレの銃をくるくるともてあそんだ。
オレは、一緒に過ごすならルークしか考えられなかった。

それなのに。

次の仕事は大きな仕事だった。
次の仕事に限って大きな仕事だった。

「ルーク!!」

ルークがターゲットを殺し損ねて捕まった。
向こうはかなり大きな組織で、ルークは人質としてとらえられていた。
ルークを拷問しているおぞましいビデオレターが届き、オレは頭がおかしくなりそうだった。
泣きながらボスに助けてくれと懇願すると、ボスは、向こうから提示された条件を見て頷いた。

「彼は全然口を割らないらしい。こちらの握っている向こうの組織の機密情報と引き換えに、ルークを開放するように言っている」

「行きます」

「あぁ、急げ」

オレたちは○○ビルの屋上で待っているという向こうの連絡通りヘリでビルの真上へと向かった。屋上はもう少しだというのに、ヘリで見下ろすだけで、まだルークを助けにいけないのが歯がゆかった。

憎い向こうの組織の男とルークが出てきた。ふらふらしていて消耗しきっている。
ルーク、今助けてやるからな。

「ボス、ヘリを」

オレはボスにインカムで言った。

「ヘリを降ろす気はない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

聞き間違いか?
思考が停止した。

「ヘリに乗っている大きな袋があるだろう。それで人質撃ち殺せ、お前は組織の中でも一番銃の扱いが上手いだろう。だからここに連れてきたんだ。この距離ならお前は余裕のはずだ」

確かにオレの助手席には黒くて、大きな銃の袋が乗っていた。これで、ルークをひどい目に合わせたヤツらを撃ち殺す用だろう?これで敵を撃ち殺しても、ヘリが離陸する気配がないから助けにいけない。
オレは、しばらく言葉が出なかった。

「だって・・・人質を開放するって」

「そう言わないとお前はこないだろう。早くしろ」

ボスの声は冷たかった。
部下には優しい人だと思っていた。
でも、違った。
平気で、ルークを見捨てるんだ。この人は。

「む、無理です。殺せません。殺せるわけないじゃないですか」

「殺せ」

「殺せません、殺したくない、そんなことできるわけがない。そんなことをするくらいならオレは・・・」

「殺せ」

「オレは死んだほうがマシだ」

本気だった。
かたかたと体が震えた。ルークが死ぬだなんて考えただけでおかしくなりそうだ。

「元々ここにはデータを持ってきていないんだ。だから約束が果たされなければ彼はどのみち殺される。向こうの組織で酷い殺され方をされるのをまたビデオレターで見るか、君が一瞬で殺してあげるかどちらがいいか君ならわかるだろう?」

最初から取引するつもりなんかなかったんだ。
そうだ、忘れていた。
オレたちはチームでもよく優秀だと言われていたから忘れていた。
オレたちは、元々、そういう役割なんだ。

「大事な友達なんだろう?彼を殺せるのはお前だけだよ。彼のためにお前が彼の息の根を止めてやるんだ。じゃないとこれからもっとひどい目にあう」

ルークの顔が浮かんだ。
心臓はばくばくと脈打っている。
オレは、オレはどうすればいい。オレはどうすればいい。

「・・・・ク・・・ろし・・・くれ」

拷問のビデオレター。目をそらしていた。
モニターから聞こえてきた声。
聞こえないようにしていた。全てを遮断して、見ないように聞かないように思い出さないようにしていた。

「ハーネス・・・僕を殺してくれ」

「殺せ」

ぐったりしたルークがふいに顔をあげた。
ルークは、オレを見上げてふっと微笑んだ。

「たのむよ、ハーネス」

ルークの口がそう、微かに動いた気がした。
オレは、がたがた震える手で袋を掴んだ。

***

あの一見以来、オレは生きる希望を失った。
そして、人を殺せなくなってしまった。
役に立たないオレは、どうせすぐ殺されるだろう。
その前にやることがあった。

帰宅後、空っぽのルークの部屋に行くと引き出しが開いていて手紙が入っていた。
中を見るとオレへの手紙が入っていた。

内容は、今回の仕事で自分が死んだらしてほしいこと。酷い手紙だ。こんな手紙を準備していたなんてな。オレは、手紙に書いてある通り準備を進めた。

***

「た、助けてくれ!!」

ジジイとババアは、オレのことなんて当然覚えていなかった。
そして、何度もオレに助けを求めてきた。
オレたちが何度も何度も助けを求めたって助けてくれなかったくせに。

ジジイとババアを目隠しして縛り、寝室に放った。
オレはバスを借りてきて、子供たちは、うるさいので縛って外に止めてきたバスに放り込んだ。
そして、孤児院に火を放つとオレはバスを動かした。

オレは、手紙に入っていた住所を調べ、ルークの購入した家に孤児院にいた7人の子供たちを連れてきた。
困惑する子供たち。そりゃそうだろう。突如誘拐されたのだから。
一番背の高いガキにオレはルークの手紙を押し付けた。

「こ、これは」

「これに大体のことが書いてある。お前たちをいじめていたジジイとババアはもういない。これからは子供たちで知恵を絞って生きていくんだ」

オレは、今までに仕事で貯めてきた金の入ったカードを、そのまま背の高いガキに手渡した。
子供たちは相変わらず警戒した様子でこちらを見ている。

「沢山金が入っている。頭を使って使え」

「・・・もう、毎日気を失うまで殴られたり、あざができるまで蹴られたり、舌を火ばさみで引っ張られたり、しなくていいってことですか」

「ああ」

「鬼ババたちが僕たちを追ってきたりしませんか?」

「鬼ババたちはオレが退治した。もう恐怖に怯えなくていい」

そういうと、ガキたちは大きく目を見開いた。

「・・・・・・・・」

脳の処理が追い付いていないのか皆は顔を見合わせている。

「オレは頼まれただけだ、礼ならその手紙を書いたルークにいってくれ」

あざだらけの子供たちにそういうと子供たちは静かに涙を流した。
ルークは、よく『復讐』という言葉を使ったが、根っこのところでは孤児院の子供たちを救おうと自分たちみたいな人間をもう増やさないように考えていたんだと思う。

「ありがとうござい・・・ました」

オレは、自分のことしか考えていなかった。これも全部ルークが考えてくれたことだ。
オレは感謝されるような人間じゃない。
ルークと違ってオレはガキが嫌いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元ヤン辺境伯令嬢は今生では王子様とおとぎ話の様な恋がしたくて令嬢らしくしていましたが、中身オラオラな近衛兵に執着されてしまいました

さくらぎしょう
恋愛
 辺境伯令嬢に転生した前世ヤンキーだったグレース。生まれ変わった世界は前世で憧れていたおとぎ話の様な世界。グレースは豪華なドレスに身を包み、甘く優しい王子様とベタな童話の様な恋をするべく、令嬢らしく立ち振る舞う。  が、しかし、意中のフランソワ王太子に、傲慢令嬢をシメあげているところを見られてしまい、そしてなぜか近衛師団の目つきも口も悪い男ビリーに目をつけられ、執着されて溺愛されてしまう。 違う! 貴方みたいなガラの悪い男じゃなくて、激甘な王子様と恋がしたいの!! そんなグレースは目つきの悪い男の秘密をまだ知らない……。 ※「小説家になろう」様、「エブリスタ」様にも投稿作品です ※エピローグ追加しました

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

1/365

Ririsu◡̈*♡.°⑅
恋愛
恋愛未経験の高校2年生の笹塚明里は、お小遣いアップの為に父親の手伝いをすることに。 そのお手伝いとは、父親が経営する芸能事務所のタレントたちのマンションに同居し、家事をすることで…。そこで個性的な5人との同居生活が始まっていく。 ※イラストはいつも依頼している、しぃの様の素敵なイラストです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...