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そんなことありませんよ
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人気のない場所で、僕は烏に擬態し、そのまま空へと飛び立った。
空の上、天界には悪魔界と天使界が存在する。雲の上あたりで、僕は本来の自分の姿を開放する。黒い襟がギザギザしたシャツに黒いズボン。黒くてとがった長い爪に黒い翼。
僕はこの姿がキライだ。
天使界の門を通り過ぎる天使たちを横切って、僕は本来の帰る場所である、悪魔界へと戻っていった。
「おう、落ちこぼれ。」
門をくぐり、家路につく途中で、同期のマーチンが声をかけてきた。つり目で赤髪のオールバック。目つきが悪い顔で笑いながら近づいてくる。
「はい・・・」
「ちゃんと仕事してんのかよォ」
「・・・・・」
マーチンは、いつものようにどっかり僕の肩に腕を回してせせら笑った。
「オレたち悪魔の仕事は人間を不幸にすることだろォ?お前全然成績残してないみたいじゃん」
「はい・・・」
「人間を不幸にするのなんて簡単だろうがよォ。脆くて弱くて醜くて汚くて愚かでバカなんだから」
マーチンは、僕の頬にとがった赤い爪の人差し指を突き立てた。
「お前みたいにナ。ア―八ッハッハ」
「・・・・・」
マーチンは悪魔学校の時も僕をこうしてからかってきた。マーチンはクラスでも優秀だった。マーチンは人間の恋路を邪魔するのが得意で、大好きだった。
「ん?・・・」
マーチンは唐突に僕の顔に鼻をよせた。
「な、なんですか」
マーチンは、僕の顔に息が当たるくらい顔を近づけてすんすんと僕の匂いを嗅ぎ始めた。
「な・・なに」
「人間くせえ」
マーチンは、はっきりとそういった。僕は、思わずびくりと体を震わせた。
「なんだ、お前・・・ちゃんと仕事してんのか?」
マーチンは、射るように僕の目に自分の目を合わせて、疑うように聞いてきた。
「あ・・・うん、ちゃん、と」
「そうかよ、そうかよ」
マーチンはへっと笑うと、僕の背中をばしばし叩いた。乱暴で力強くてちょっと痛い。
「お前はとろくせーから人間にどっかで騙されてそうだけどな」
マーチンは、けらけら笑って僕の方を蛇のような目で見た。
「なあ、ルーク。お前」
「ぼ、僕、もう疲れたから行きます。それでは!」
僕は、体を震わせ、泣きそうになりながら家に飛びかえった。誰もいない実家に帰り、僕は自分の部屋に駆け上がった。お父さんもお母さんも、今日は弟に会いにいっている。
『ちゃんと仕事してんのかよォ』
『人間を不幸にするのがオレたちの仕事』
僕は、枕に顔をうずめて泣きそうになるのを必死にこらえた。
僕は、悪魔の落ちこぼれだ。
人を不幸にする才能がない。むしろ、そのことに対して疑問さえ抱いている。
どうして、悪魔は人を不幸にしなくてはならないのだろう。
どうして僕は、他人を不幸にしなくてはならないのだろう。
こんなことを言ったら頭がおかしいといわれるから言えないんだけど、僕はそれを疑問に思っている。
悪魔に産まれたからには、人間を不幸にすることを生業としていかなくてはならないのは、当たり前なのだ。でも、僕はそれがどうしても疑問で、どうしても昔から苦手だ。
授業でも失敗ばかりで、クラスでもいじめられていた。お父さんやお母さんは、僕のことを呆れ、諦め、優秀な弟の方に期待した。
僕は、誰からも期待されない。悪魔として何もできない。両親からも、見捨てられている。
そんな僕はいつしか自由で、人を幸せにすることを生業にしている天使様に憧れを持つようになった。天使様と悪魔は昔から仲が悪く、争いが絶えない。天使様を見かけることができるのは基本的に天界の門だけ。
だから僕はヴィスタ様に出会う前は天使様を見るためによく人間界に行っていた。天界の門を通るとき、憧れの天使様を見ることができるからだ。
悪魔なのに天使に憧れを抱いている。
そんな罪深い僕を、聖職者であるヴィスタ様はすべて受け入れて肯定してくれた。
僕とヴィスタ様の出会いは随分前だ。
空の上、天界には悪魔界と天使界が存在する。雲の上あたりで、僕は本来の自分の姿を開放する。黒い襟がギザギザしたシャツに黒いズボン。黒くてとがった長い爪に黒い翼。
僕はこの姿がキライだ。
天使界の門を通り過ぎる天使たちを横切って、僕は本来の帰る場所である、悪魔界へと戻っていった。
「おう、落ちこぼれ。」
門をくぐり、家路につく途中で、同期のマーチンが声をかけてきた。つり目で赤髪のオールバック。目つきが悪い顔で笑いながら近づいてくる。
「はい・・・」
「ちゃんと仕事してんのかよォ」
「・・・・・」
マーチンは、いつものようにどっかり僕の肩に腕を回してせせら笑った。
「オレたち悪魔の仕事は人間を不幸にすることだろォ?お前全然成績残してないみたいじゃん」
「はい・・・」
「人間を不幸にするのなんて簡単だろうがよォ。脆くて弱くて醜くて汚くて愚かでバカなんだから」
マーチンは、僕の頬にとがった赤い爪の人差し指を突き立てた。
「お前みたいにナ。ア―八ッハッハ」
「・・・・・」
マーチンは悪魔学校の時も僕をこうしてからかってきた。マーチンはクラスでも優秀だった。マーチンは人間の恋路を邪魔するのが得意で、大好きだった。
「ん?・・・」
マーチンは唐突に僕の顔に鼻をよせた。
「な、なんですか」
マーチンは、僕の顔に息が当たるくらい顔を近づけてすんすんと僕の匂いを嗅ぎ始めた。
「な・・なに」
「人間くせえ」
マーチンは、はっきりとそういった。僕は、思わずびくりと体を震わせた。
「なんだ、お前・・・ちゃんと仕事してんのか?」
マーチンは、射るように僕の目に自分の目を合わせて、疑うように聞いてきた。
「あ・・・うん、ちゃん、と」
「そうかよ、そうかよ」
マーチンはへっと笑うと、僕の背中をばしばし叩いた。乱暴で力強くてちょっと痛い。
「お前はとろくせーから人間にどっかで騙されてそうだけどな」
マーチンは、けらけら笑って僕の方を蛇のような目で見た。
「なあ、ルーク。お前」
「ぼ、僕、もう疲れたから行きます。それでは!」
僕は、体を震わせ、泣きそうになりながら家に飛びかえった。誰もいない実家に帰り、僕は自分の部屋に駆け上がった。お父さんもお母さんも、今日は弟に会いにいっている。
『ちゃんと仕事してんのかよォ』
『人間を不幸にするのがオレたちの仕事』
僕は、枕に顔をうずめて泣きそうになるのを必死にこらえた。
僕は、悪魔の落ちこぼれだ。
人を不幸にする才能がない。むしろ、そのことに対して疑問さえ抱いている。
どうして、悪魔は人を不幸にしなくてはならないのだろう。
どうして僕は、他人を不幸にしなくてはならないのだろう。
こんなことを言ったら頭がおかしいといわれるから言えないんだけど、僕はそれを疑問に思っている。
悪魔に産まれたからには、人間を不幸にすることを生業としていかなくてはならないのは、当たり前なのだ。でも、僕はそれがどうしても疑問で、どうしても昔から苦手だ。
授業でも失敗ばかりで、クラスでもいじめられていた。お父さんやお母さんは、僕のことを呆れ、諦め、優秀な弟の方に期待した。
僕は、誰からも期待されない。悪魔として何もできない。両親からも、見捨てられている。
そんな僕はいつしか自由で、人を幸せにすることを生業にしている天使様に憧れを持つようになった。天使様と悪魔は昔から仲が悪く、争いが絶えない。天使様を見かけることができるのは基本的に天界の門だけ。
だから僕はヴィスタ様に出会う前は天使様を見るためによく人間界に行っていた。天界の門を通るとき、憧れの天使様を見ることができるからだ。
悪魔なのに天使に憧れを抱いている。
そんな罪深い僕を、聖職者であるヴィスタ様はすべて受け入れて肯定してくれた。
僕とヴィスタ様の出会いは随分前だ。
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