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助けてもらいます
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私は、一心不乱にバシャバシャ溺れている人影に向かって泳いで行った。
よかったわ、私が泳げて。
理沙だったら、こうはいかなかったでしょうね。
どこの誰だか迷子だか知らないけど、なんであんなところまで流されてんのよ。
溺れている人影がはっきりしてきた、子供だった。
「待って...なさい!いま...助けるわ」
子供、あぁきっとコイツが迷子だわ。
何溺れてんのよこんなところで。
ちゃんと親の言うこと聞いて陸では遊んでなさいよね!
私が必死に伸ばした手をすり抜けて、子供は沈んだ。私は急いで海に潜る。
海の中は真っ暗でよく見えない。
テレビで見た美しい魚たち、あれはなんだったのよ。
手探りでやっと何かに掴む。確かな手応えを感じるわ。これはあの子供ね。
よし、掴んだ。後は上がるだけだわ。
ぐいっと引っ張りあげて急いで水面に上がる。
波が陸の方と逆方向に流れて私たちを押してくる。
足が疲れてきた。
全く、どうなってんのよ。
子供をなんとか引き上げ背負って泳いでいくけれど、なんだか足や体が痺れて感覚がなくなってきた。
「はぁっ...はぁっ...」
息も辛い。
自分で泳ぎなさいよ...このガキ。
子供は気を失っているのかピクリとも動かない。
なんで私、こんなことしてんのよ。
赤の他人のために。
***
「...私達家族は明日食べるものがないのです。祖母が病気で死んでしまいます...どうか、食べ物を分けていただけないでしょうか」
街に行った時、薄汚い、赤の他人のガキが土下座して頼んできたわ。
私はお金持ちだったし、令嬢だもの。
食べ物に困ったことだってなかったわ。
「そう」
「助けてください...どうか、少しでも食べ物を分けてくださらないでしょうか」
「どうして私があんたみたいな小汚いガキを助けないといけないのよ」
「お願いします...私以外にもこの街には貧しい人ばかりで...」
「そんなの知らないわよ。どうしてあんたと私、こんなに生きてる世界が違うか教えてあげましょうか?」
私は、そのガキに微笑んで言ってやったわ。
「生まれた時から運命って決まってるのよ。私は令嬢であんたは貧しいガキ。幸せになれないのならあんたも死にかけの祖母も生まれ変わるしかないわね」
泣いているガキを置いて私は自分の屋敷に帰ったわ。
***
なんで私、こんなことしてるのかしら。
本当に、わけわからないわよ。
重い、疲れた、体が痺れてもう感覚がないのよ。なんで私はこんな見知らぬガキなんかを助けてるのよ。
薄れゆく意識の中で、八木杉と総司が見えた気がした。
「変わったね」
そんな声も聞こえた...ような気がした。
よかったわ、私が泳げて。
理沙だったら、こうはいかなかったでしょうね。
どこの誰だか迷子だか知らないけど、なんであんなところまで流されてんのよ。
溺れている人影がはっきりしてきた、子供だった。
「待って...なさい!いま...助けるわ」
子供、あぁきっとコイツが迷子だわ。
何溺れてんのよこんなところで。
ちゃんと親の言うこと聞いて陸では遊んでなさいよね!
私が必死に伸ばした手をすり抜けて、子供は沈んだ。私は急いで海に潜る。
海の中は真っ暗でよく見えない。
テレビで見た美しい魚たち、あれはなんだったのよ。
手探りでやっと何かに掴む。確かな手応えを感じるわ。これはあの子供ね。
よし、掴んだ。後は上がるだけだわ。
ぐいっと引っ張りあげて急いで水面に上がる。
波が陸の方と逆方向に流れて私たちを押してくる。
足が疲れてきた。
全く、どうなってんのよ。
子供をなんとか引き上げ背負って泳いでいくけれど、なんだか足や体が痺れて感覚がなくなってきた。
「はぁっ...はぁっ...」
息も辛い。
自分で泳ぎなさいよ...このガキ。
子供は気を失っているのかピクリとも動かない。
なんで私、こんなことしてんのよ。
赤の他人のために。
***
「...私達家族は明日食べるものがないのです。祖母が病気で死んでしまいます...どうか、食べ物を分けていただけないでしょうか」
街に行った時、薄汚い、赤の他人のガキが土下座して頼んできたわ。
私はお金持ちだったし、令嬢だもの。
食べ物に困ったことだってなかったわ。
「そう」
「助けてください...どうか、少しでも食べ物を分けてくださらないでしょうか」
「どうして私があんたみたいな小汚いガキを助けないといけないのよ」
「お願いします...私以外にもこの街には貧しい人ばかりで...」
「そんなの知らないわよ。どうしてあんたと私、こんなに生きてる世界が違うか教えてあげましょうか?」
私は、そのガキに微笑んで言ってやったわ。
「生まれた時から運命って決まってるのよ。私は令嬢であんたは貧しいガキ。幸せになれないのならあんたも死にかけの祖母も生まれ変わるしかないわね」
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***
なんで私、こんなことしてるのかしら。
本当に、わけわからないわよ。
重い、疲れた、体が痺れてもう感覚がないのよ。なんで私はこんな見知らぬガキなんかを助けてるのよ。
薄れゆく意識の中で、八木杉と総司が見えた気がした。
「変わったね」
そんな声も聞こえた...ような気がした。
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