38 / 48
迷子を探してもらいます
しおりを挟む
海は冷たくて暑いこの火照った体を気持ちよく冷やしてくれた。
浮き輪でぷかぷかと浮いている理沙と水を掛け合いっこして遊んだり、砂のお城を作ったりして遊んだり。
あのブラック企業の事をすっかり忘れて私は楽しんでいた。
理沙が飲み物を買ってくるからそこにいてねと言って飲み物を買いに行っている間に、私は砂のお城の入り口に穴を開ける作業をしていた。
「迷子のお知らせです。麦わら帽子に、白と青のシマシマのタンクトップを着た6歳くらいの男の子がいましたら、スタッフにお知らせ下さい」
まぁこれだけ広いと迷子もいるわよね。
このお城の入り口はね、こう反対側と正面から手を入れると貫通して手が握れるのよ。私の住んでいた屋敷は、貫通していなかったけれどね。
穴を開けていると何やら周りの女達の
「すごーい!」
「かっこいいー!」
などの声が聞こえた。
何よ、声をした方を見ると八木杉と総司がサーフィンをしていた。
何よあの二人、人気者じゃないの。
サーフィンをしている二人は確かに働いている時とは違いキラキラして見えたわ。総司ばっちり波乗りできてるじゃないの。怖いわアイツ。
相澤がここにいたらきっと私と一緒に砂のお城を作ってくれていたでしょうね。注目浴びるのこりごりって感じでしょうし。
「あの...ごめんなさい」
突然知らない女の人に話しかけられた。年は30歳くらいかしら。水着ではなく水色のワンピースを着て帽子を被った知らない女の人は心底困ったような顔をして砂のお城で遊んでいる私を見下ろしていた。
「何かしら」
「あの...男の子見ませんでしたか?その、麦わら帽子をかぶっていて白と青のシマシマのタンクトップに、茶色いズボンを着た...」
なんか聞いたことあるような特徴ね。
「見てないわ。私はずっとここで砂のお城を作っていたもの」
「困ったわ...全然見つからない...どうしたらいいの...」
両手で顔を覆って泣きそうな顔になっているその女の人に、海の方を見ながら
「海で泳いでるんじゃないの」
「いえ...私がその、お恥ずかしながら過去に海で溺れた経験があって、海に近づけないのです。人も多いし見ていられないかもしれないから、カンタ...いや、うちの子にも近くで砂で遊んだり浅瀬の目の届くところで遊ぶように言っていたんですけど...」
「なんでそんなトラウマを抱えながら海に連れてきたのよ」
「カンタが一度でいいから海に行ってみたいっていうので...でも間違いでした。飲み物を買ってくるから一緒に行こうと言ったんですが、ここで待ってるというので信じて飲み物を買いに行ったら...この付近なんですよ...丁度この辺に...カンタを」
「それ絶対泳いでるわよカンタ」
「でも...」
泣きそうな顔で俯いた知らない女の人に、
「仕方ないわね、私が海に行って探してきてあげるわよ」
「そ、そんな...初対面の方なのに」
「いいのよ。砂のお城も立派なのができたし」
「ありがとうございます...この辺の方に声をかけても、知らないとか、詳しくお話を聞いてくれなかったり...本部の方にも行って呼びかけてもらったんですけど...」
さっきの迷子放送、この人の子供のことだったのね。
「できる限り探してあげるわよ。麦わら帽子にタンクトップに、の特徴は無視した方がいいかもしれないわね。海で泳いでるだろうし」
私はくるりと渾身の砂のお城と知らない女の人に背を向けて海へと向かった。
浮き輪でぷかぷかと浮いている理沙と水を掛け合いっこして遊んだり、砂のお城を作ったりして遊んだり。
あのブラック企業の事をすっかり忘れて私は楽しんでいた。
理沙が飲み物を買ってくるからそこにいてねと言って飲み物を買いに行っている間に、私は砂のお城の入り口に穴を開ける作業をしていた。
「迷子のお知らせです。麦わら帽子に、白と青のシマシマのタンクトップを着た6歳くらいの男の子がいましたら、スタッフにお知らせ下さい」
まぁこれだけ広いと迷子もいるわよね。
このお城の入り口はね、こう反対側と正面から手を入れると貫通して手が握れるのよ。私の住んでいた屋敷は、貫通していなかったけれどね。
穴を開けていると何やら周りの女達の
「すごーい!」
「かっこいいー!」
などの声が聞こえた。
何よ、声をした方を見ると八木杉と総司がサーフィンをしていた。
何よあの二人、人気者じゃないの。
サーフィンをしている二人は確かに働いている時とは違いキラキラして見えたわ。総司ばっちり波乗りできてるじゃないの。怖いわアイツ。
相澤がここにいたらきっと私と一緒に砂のお城を作ってくれていたでしょうね。注目浴びるのこりごりって感じでしょうし。
「あの...ごめんなさい」
突然知らない女の人に話しかけられた。年は30歳くらいかしら。水着ではなく水色のワンピースを着て帽子を被った知らない女の人は心底困ったような顔をして砂のお城で遊んでいる私を見下ろしていた。
「何かしら」
「あの...男の子見ませんでしたか?その、麦わら帽子をかぶっていて白と青のシマシマのタンクトップに、茶色いズボンを着た...」
なんか聞いたことあるような特徴ね。
「見てないわ。私はずっとここで砂のお城を作っていたもの」
「困ったわ...全然見つからない...どうしたらいいの...」
両手で顔を覆って泣きそうな顔になっているその女の人に、海の方を見ながら
「海で泳いでるんじゃないの」
「いえ...私がその、お恥ずかしながら過去に海で溺れた経験があって、海に近づけないのです。人も多いし見ていられないかもしれないから、カンタ...いや、うちの子にも近くで砂で遊んだり浅瀬の目の届くところで遊ぶように言っていたんですけど...」
「なんでそんなトラウマを抱えながら海に連れてきたのよ」
「カンタが一度でいいから海に行ってみたいっていうので...でも間違いでした。飲み物を買ってくるから一緒に行こうと言ったんですが、ここで待ってるというので信じて飲み物を買いに行ったら...この付近なんですよ...丁度この辺に...カンタを」
「それ絶対泳いでるわよカンタ」
「でも...」
泣きそうな顔で俯いた知らない女の人に、
「仕方ないわね、私が海に行って探してきてあげるわよ」
「そ、そんな...初対面の方なのに」
「いいのよ。砂のお城も立派なのができたし」
「ありがとうございます...この辺の方に声をかけても、知らないとか、詳しくお話を聞いてくれなかったり...本部の方にも行って呼びかけてもらったんですけど...」
さっきの迷子放送、この人の子供のことだったのね。
「できる限り探してあげるわよ。麦わら帽子にタンクトップに、の特徴は無視した方がいいかもしれないわね。海で泳いでるだろうし」
私はくるりと渾身の砂のお城と知らない女の人に背を向けて海へと向かった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる