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迷子を探してもらいます
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海は冷たくて暑いこの火照った体を気持ちよく冷やしてくれた。
浮き輪でぷかぷかと浮いている理沙と水を掛け合いっこして遊んだり、砂のお城を作ったりして遊んだり。
あのブラック企業の事をすっかり忘れて私は楽しんでいた。
理沙が飲み物を買ってくるからそこにいてねと言って飲み物を買いに行っている間に、私は砂のお城の入り口に穴を開ける作業をしていた。
「迷子のお知らせです。麦わら帽子に、白と青のシマシマのタンクトップを着た6歳くらいの男の子がいましたら、スタッフにお知らせ下さい」
まぁこれだけ広いと迷子もいるわよね。
このお城の入り口はね、こう反対側と正面から手を入れると貫通して手が握れるのよ。私の住んでいた屋敷は、貫通していなかったけれどね。
穴を開けていると何やら周りの女達の
「すごーい!」
「かっこいいー!」
などの声が聞こえた。
何よ、声をした方を見ると八木杉と総司がサーフィンをしていた。
何よあの二人、人気者じゃないの。
サーフィンをしている二人は確かに働いている時とは違いキラキラして見えたわ。総司ばっちり波乗りできてるじゃないの。怖いわアイツ。
相澤がここにいたらきっと私と一緒に砂のお城を作ってくれていたでしょうね。注目浴びるのこりごりって感じでしょうし。
「あの...ごめんなさい」
突然知らない女の人に話しかけられた。年は30歳くらいかしら。水着ではなく水色のワンピースを着て帽子を被った知らない女の人は心底困ったような顔をして砂のお城で遊んでいる私を見下ろしていた。
「何かしら」
「あの...男の子見ませんでしたか?その、麦わら帽子をかぶっていて白と青のシマシマのタンクトップに、茶色いズボンを着た...」
なんか聞いたことあるような特徴ね。
「見てないわ。私はずっとここで砂のお城を作っていたもの」
「困ったわ...全然見つからない...どうしたらいいの...」
両手で顔を覆って泣きそうな顔になっているその女の人に、海の方を見ながら
「海で泳いでるんじゃないの」
「いえ...私がその、お恥ずかしながら過去に海で溺れた経験があって、海に近づけないのです。人も多いし見ていられないかもしれないから、カンタ...いや、うちの子にも近くで砂で遊んだり浅瀬の目の届くところで遊ぶように言っていたんですけど...」
「なんでそんなトラウマを抱えながら海に連れてきたのよ」
「カンタが一度でいいから海に行ってみたいっていうので...でも間違いでした。飲み物を買ってくるから一緒に行こうと言ったんですが、ここで待ってるというので信じて飲み物を買いに行ったら...この付近なんですよ...丁度この辺に...カンタを」
「それ絶対泳いでるわよカンタ」
「でも...」
泣きそうな顔で俯いた知らない女の人に、
「仕方ないわね、私が海に行って探してきてあげるわよ」
「そ、そんな...初対面の方なのに」
「いいのよ。砂のお城も立派なのができたし」
「ありがとうございます...この辺の方に声をかけても、知らないとか、詳しくお話を聞いてくれなかったり...本部の方にも行って呼びかけてもらったんですけど...」
さっきの迷子放送、この人の子供のことだったのね。
「できる限り探してあげるわよ。麦わら帽子にタンクトップに、の特徴は無視した方がいいかもしれないわね。海で泳いでるだろうし」
私はくるりと渾身の砂のお城と知らない女の人に背を向けて海へと向かった。
浮き輪でぷかぷかと浮いている理沙と水を掛け合いっこして遊んだり、砂のお城を作ったりして遊んだり。
あのブラック企業の事をすっかり忘れて私は楽しんでいた。
理沙が飲み物を買ってくるからそこにいてねと言って飲み物を買いに行っている間に、私は砂のお城の入り口に穴を開ける作業をしていた。
「迷子のお知らせです。麦わら帽子に、白と青のシマシマのタンクトップを着た6歳くらいの男の子がいましたら、スタッフにお知らせ下さい」
まぁこれだけ広いと迷子もいるわよね。
このお城の入り口はね、こう反対側と正面から手を入れると貫通して手が握れるのよ。私の住んでいた屋敷は、貫通していなかったけれどね。
穴を開けていると何やら周りの女達の
「すごーい!」
「かっこいいー!」
などの声が聞こえた。
何よ、声をした方を見ると八木杉と総司がサーフィンをしていた。
何よあの二人、人気者じゃないの。
サーフィンをしている二人は確かに働いている時とは違いキラキラして見えたわ。総司ばっちり波乗りできてるじゃないの。怖いわアイツ。
相澤がここにいたらきっと私と一緒に砂のお城を作ってくれていたでしょうね。注目浴びるのこりごりって感じでしょうし。
「あの...ごめんなさい」
突然知らない女の人に話しかけられた。年は30歳くらいかしら。水着ではなく水色のワンピースを着て帽子を被った知らない女の人は心底困ったような顔をして砂のお城で遊んでいる私を見下ろしていた。
「何かしら」
「あの...男の子見ませんでしたか?その、麦わら帽子をかぶっていて白と青のシマシマのタンクトップに、茶色いズボンを着た...」
なんか聞いたことあるような特徴ね。
「見てないわ。私はずっとここで砂のお城を作っていたもの」
「困ったわ...全然見つからない...どうしたらいいの...」
両手で顔を覆って泣きそうな顔になっているその女の人に、海の方を見ながら
「海で泳いでるんじゃないの」
「いえ...私がその、お恥ずかしながら過去に海で溺れた経験があって、海に近づけないのです。人も多いし見ていられないかもしれないから、カンタ...いや、うちの子にも近くで砂で遊んだり浅瀬の目の届くところで遊ぶように言っていたんですけど...」
「なんでそんなトラウマを抱えながら海に連れてきたのよ」
「カンタが一度でいいから海に行ってみたいっていうので...でも間違いでした。飲み物を買ってくるから一緒に行こうと言ったんですが、ここで待ってるというので信じて飲み物を買いに行ったら...この付近なんですよ...丁度この辺に...カンタを」
「それ絶対泳いでるわよカンタ」
「でも...」
泣きそうな顔で俯いた知らない女の人に、
「仕方ないわね、私が海に行って探してきてあげるわよ」
「そ、そんな...初対面の方なのに」
「いいのよ。砂のお城も立派なのができたし」
「ありがとうございます...この辺の方に声をかけても、知らないとか、詳しくお話を聞いてくれなかったり...本部の方にも行って呼びかけてもらったんですけど...」
さっきの迷子放送、この人の子供のことだったのね。
「できる限り探してあげるわよ。麦わら帽子にタンクトップに、の特徴は無視した方がいいかもしれないわね。海で泳いでるだろうし」
私はくるりと渾身の砂のお城と知らない女の人に背を向けて海へと向かった。
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