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花見の場所取りに来ています

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「死ね...死ね...呪ってやる...」

憎しみと恨みを込めてブツブツと呟いた。
朝の四時だというのに、何故か人は何人かいて、私はブルーシートの上で寝袋というものに包まり蛹のように身を固めていた。

「どうして私がこんな目に合わないといけないのよ...」

寒いし、暗いし、私みたいに場所取りしてる奴等も私と同様寝袋に包まれて過ごしていた。

「なんでこんなに早くこんなところにいないといけないのよ...」

理沙が私も一緒に、といったけど寝袋が一袋しかなかったらしく私一人で場所取りをすることになった。
本当は今日は家で寝たり今日出勤する社会人を嘲笑って過ごすつもりだったのに...。

はぁっ...。息を吐くと白くなる。
寒いわよ外。真っ暗で桜を見上げても不気味としか思えない。
そもそもこの桜が悪いのよ。これさえなければ私は今頃ぐっすり寝れたのに...。

「静かにしてくれますか」

振り返ると、隣のブルーシートで陰気臭そうな男が紺色の寝袋に包まれて私を見ていた。
目にはクマが刻まれて死んだ魚のような目が陰気臭さに拍車がかかっていた。若いのに青白い顔でゾンビみたい。

「あ、わ、悪かったわね」

「まぁ、気持ちはわかりますけどね」

陰気臭そうな男は目を細めた。

「何よ気持ちがわかるって」

「いや...多分ですけど会社での花見の場所取りに駆り出されてるんじゃないですか?」

「なんで分かったの!?」

私はもぞもぞと寝袋の中で芋虫のように動き、陰気臭い男の方を向いた。

「ボクもそうですよ。新入社員はボクだけでしたから必然的に」

「あんた、新入社員一人なの?山登りとかも一人でしたわけ?」

「山登り?へぇ、そっちでは山登りなんてしたんですか。どーせ新入社員との親睦を深めるためとか意味わかんないこと言われたんでしょうね」

「そうそう!よくわかったわね!ほんと意味わかんないわよ」

ボソボソ話す陰気臭い奴だけど話がわかる男ね。

「ボクのところは山登りはありませんでしたけど、テストみたいなのをやらされましたよ」

「テスト?」

「はい、なんか資料を山程渡されて一週間後にここからテストを出すから頭に叩き込んで来いって」

「何よそれ酷い話ね」

「そうでしょうそうでしょう。新入社員はボクだけなんで、いじめかと思いましたよ。死にたい」

はぁ~と毒素を撒き散らすように男はため息を大きく吐いた。

「あんたも苦労してんのね。あたしも大変だったのよ。山登りを1日でして来いって言われて、勿論それは公休を使わされてね!山登りしろっていうくせに、次の日出勤しろっていうのよ!?酷いでしょう?」

「それは酷い話でしたね。できない事なんて最初からわかってるじゃないですか」

「本当よ!」

ぷんすこ怒りながら話す私の話を彼は聞いてくれた。私も彼の理不尽な会社の話を聞いた。

「あんた、話がわかるじゃない!そんな会社に一人でいないで私の働いてるところに来なさいよ」

「...いや、今の話聞いてそっちに行きたいとはとても思えませんけどね。こっちは一応週に1日は休みありますし」

「でも、新入社員が他に入らないとあんた新しいのが入るまでずっと雑用やらなんやら押し付けられるわよ」

「まぁ...そうなんですよね。はぁ~辞めたい。毎月20万円くらい無償で振り込まれないかな。家でゲームして過ごしたい」

「ま、どうしてもキツくなったらこっちに来なさいよ。似たような仕事してるし、きっとこっちでもやっていけるわよ」

「はぁ、そういえば名前聞いてませんでしたね。ボクは、相澤守(あいざわまもる)です」

「私は...溝沼灰子(どぶぬまはいこ)。こんなに話があう人に会ったのは初めてだわ。仕事の愚痴を言っても理不尽な事に怒っても、毎回止められたり怒られたりねじさせられるから」

主に総司(悪魔)に。

「ま、それが社会ですからね。ボクは高校を出てすぐ就職した18歳ですけど、一人で本を読んでやり過ごしてた学生時代がどれだけ平和だったか...」

「あんたも大変なのね」

「ま、全く笑えなくなったし、いや元々笑ったりとかはなかったんですけど、あとストレスで眠れなくなったりとか、あと休みの日も仕事のこと考えちゃったりとか、あと朝起きる時毎回死にたくなったりとか何もないのにため息ついたり疲れたって言っちゃうところとか、就職してもいい事ないです。桜とか正直テレビで見ればいいし、わざわざ毎日顔合わせてる上司と花とか見たくないです」

私達は、随分長い間愚痴を話していたみたいで、私の後ろから日がさして明るくなってきた。

「あぁ、朝が来た。死にたい」

「相澤、負けちゃだめよ!今日はこれからなんだから。それより、私達話に夢中でまだ一睡もしてないわ!少しでも寝ておかないとどうせ今日もくたくたよ」

「...溝沼さんも」

私は日差しに背を向けそっと目を閉じた。
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