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奢ってもらいます

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「ハァッハァッハァッ...」

過酷。過酷。過酷。
山登りについて、八木杉に当初聞いた話では、山の美味しい空気を吸いながら歌を歌って山頂でお弁当を食べると最高に気持ちいい。やまびこでヤッホー!というと、帰ってくる。これぞ山。大自然を感じ、大自然を愛し、大自然に愛される。それが山登りなんじゃなかったの!?

山の美味しい空気?もはや明日というタイムリミットがある時点で私達の足は自然と早くなりもう虫の息よ。

歌でも歌って?そんな余裕があるわけないでしょう?

山頂でお弁当?そんな時間があればさっさと帰って寝たいわよ。

やまびこでヤッホー?ふふ、ヤッホーじゃなくて、今私は明日出勤にした輩に抱いているこの明確な殺意と思いを叫びたいわね。
「呪ってやる」ってね。

大自然愛してる暇なんてないのよ。明日出勤なんだから。さっさと登ってさっさと帰ってこないといけないのよ。

何が親睦を深めるイベントよ。
ただ、疲れるだけの地獄よ地獄。

隣の理沙も虫の息だった。

「私...普段インドアなんで...キツイです」

総司は涼しい顔をして歩いている。

「ハァッ...なん...で、あんた...そんな涼しい...顔してんの...よ」

「え?おかしいですか?成る程。ではちょっと疲れた顔してみますか」

総司は舌をだらんとして目を白黒させて、猫背でフラフラと歩き始めた。

「気色悪!!!気色悪いわよ!!やめなさい...よ!!にん...げん、やめてる...顔よそれ!!」

「え?溝沼さんの真似してみたんですけど」

いつものイケメンフェイスできょとんとしている総司に私は拳を握りしめた。

「ぶっっっ殺...され...たいの...あんたの...冗談に...付き合っている余裕、ない..んだから!」

「あはは!仲良いなぁ」

八木杉は、総司の隣で快活に笑っていた。

「何で...あん...たも、そんな...に元気なのよ」
 
「まぁほら、朝走ったり体力作りしてるからね!やはり山登りはいいね!空気が美味しい」

山登りはいいね!なんて私はここにきてから一度も思わなかったわよ。
あんたがたててる親指、私の心の中では全力で下向いてるから。

「見てください!休憩所がありますよ!」

休憩所!!
理沙が思わず声を上げてしまったように、今の私と理沙にとって休憩所は、オアシス!砂漠の中の給水所よ!
私と理沙は目をキラキラと輝かせた。

私達は全ての力を振り絞り休憩所に走った。
けわし山最初の休憩所には、売店もあった。八木杉が年上だからと飲み物をおごってくれて、中で座ってソーダを飲んだ。

「生き返るわね!」

「ありがとうございます。八木杉さん」

私と理沙は顔を見合わせて微笑んだ。
あぁ、今だけは、今だけは全てを忘れられる。
この時間がずっと続けばいいのに...。

「いいよいいよ!まだまだ山登りは始まったばかりだからね!明日出勤しないといけないし、時間も有限だし、暗くなるまでに降りてこないといけない。これ飲んだらすぐに出発だ!おー!」

おー!と拳を突き上げた八木杉に、私と理沙は手に持っているソーダのように、冷えた視線を送っていた。

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