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山登りをしてもらいます

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「八木杉君、これやってくれる?」

「あ、はい」

「八木杉、仕事抱えすぎなんじゃないの?手伝うわよ」

「私も手伝うよ八木杉君」

あれから、八木杉が先輩に頼まれるたびに新入社員の私が出てきて目の前で「沢山仕事抱えてるね!」と言いながら手伝うようにしたら、先輩達も少しずつ仕事を八木杉に振らなくなっていった。
私のアイデアよ。凄いでしょう。
八木杉は最初のうちは、仕事断れずに困っていたから私が助け舟を出してあげたのよ。
理沙も協力してくれる。本当に理沙は変わったわ。

「多分それ、先輩からうざがられてますよ溝沼さん」

「いいわよ。先輩なんて怖くないもの。何歳か違うだけで同じ人でしょう?」

「成る程...上司や先輩への敬いが一切ないのはそういう事だったんですね」

呆れ顔で私を見る総司に、私は平気な顔をしていた。

「新入社員は、随分仲良しのようだね」

先輩に八木杉は声をかけられていた。

「はい!皆いい仲間です」

元気よく答える八木杉に、先輩の顔に影が差す。

「来週の山登りが終わった後でも、その仲の良さが続いてるといいな」

「...え?」

「い、いや、なんでもないよ」

なんなのよ。
なんなのよその気になる感じ!首根っこ引っ掴んで問い詰めたいわよ。

「山登りのイベント、楽しみですね」

総司は一連の様子を見て私に微笑みかけた。なんで今の様子を見てそんな言葉がかけられるのよあんたは。

***

山登り当日。

正式に山登りについて聞かされたのは、先輩が暗い影を顔に宿して意味深なことを言った日。

「新入社員の親睦を深める素敵なイベントだよ」

って、ハゲは言っていたけど、何で山に登ることが親睦を深めるイベントなのよ。
そんなのこっちで勝手にやるわよ。余計なお世話よ!!

しかも最悪なことにこの山登り。
私達の公休を使って行く事になっていた。
その事実を知ったとき、貴重な休みをこんな意味のわからないイベントに消化すると考えたら休みたくて休みたくて仕方なかったし、こんなイベントを考えた奴森の熊さんのエサにしてやりたくなった。

仮病でも使おうかとギリギリまで考えていたけれど、朝は理沙が私の部屋まで迎えに来ていたし、前日の夜に準備していたし、仕方ないので行く事にした。

会社の前集合で、どこの山かはお楽しみに!と黒いカーテンに覆われた大きな車に乗せられた。
まるで誘拐よ。誘拐。
しかも今朝の6時よ。6時。
こんな朝早くから集められてどこに連れて行かれるって山よ山。
公休日だから給料出ないしってもう愚痴しか出てこないわよ。

八木杉は朝だっていうのににこやかに総司に話しかけていた。

「オレ毎日5時に起きてランニングするのが習慣なんだよね!」

貴重な睡眠時間をわざわざ疲れる為に使うなんて訳わからないわね。

理沙は半分寝ていて私にもたれかかっていた。
私も寝ようかしら。昨日は準備で全然寝られなかったし。

大きなあくびをしながら目を閉じた。
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