上 下
12 / 48

訳を話してもらいます

しおりを挟む
「オレは、昔からこうなんだよ」

「昔っから?」

理沙が、ピクリと反応した。

「うん、オレ昔から器用な奴でさ。割と大概のことは何でもできて。両親や周りの人の期待に応えてやってきたんだ。オレもそれがいいと思っていたし周りも喜んでくれていたし」

「何よそれ自慢」

「口をペンケースにしますよ。ちょっと黙っていてくださいね」

総司がニコニコしながら大量のペンを握りしめて私の口の中に押し込もうとしてきたので、全力で阻止した。

「でもどんどんそれが膨らんでいって気がついたら、100点取るのも当たり前、選手リレーの選手に選ばれるのも当たり前、応援団に選ばれるのも当たり前になってた」

「期待に、呑まれてしまったんですね」

理沙が、ぽつりと呟いた。

「上がるのは許されても、下がるのは許されなかったよ。だからオレは努力して、東大にも入った訳だ」

「東大に入らないといけないくらいの期待って...」

理沙は、同情しているようだった。

「東大に入っても、オレは変わらず過ごしたよ期待されて頼られていい奴だって。運が良かったのは、頼られるイコールパシる奴がいなかった事だな。皆仲間で皆仲良しだった」

理沙は、俯いて口を結んだ。
八木杉は、理沙のいい例って事なのかしら...?でも、私にはとてもそうは見えないわ。
こうして話している八木杉の表情は、相変わらず影が差していて、辛そうだもの。

「オレもそれはいいと思っていた。オレは両親に言われた。政治家になれって。そしていずれお前なら大統領にもなれるって」

「そんな...それはいくらなんでも...」

「期待が跳ね上がりすぎた。両親はオレの為に何でもしてくれたよ。でもそれは何でもできるオレへの期待に貯金していたっていうかさ。有難い話だけど、オレは特にやりたい事もなかったし、政治家になろうとしたよ」

「そんな両親に言われただけで...政治家を志しちゃうの?」

「理沙、政治家って何よ」

理沙は、目をまん丸にした。

「あ、この人テレビとか見ないので」

総司が私を指差して微笑んだ。
何か馬鹿にされた気がしてムッとしたけど、理沙の返答を待つ。

「うーん、私もうまく説明できないけど、国を動かす人たちの事だよ。私達が快適に過ごせるように国を動かしてる人達っていうか...」

「じゃあ働いてないじゃない。私、全然快適じゃないんだけど。残業何時間って感じだし」

「それで?続けてください八木杉さん」

「...あ、う、うん。どうしてオレが両親に言われただけで政治家を目指しちゃうの?って話だよね。オレは実は養子なんだよ。親に捨てられて施設で過ごしてきていたオレを引き取って両親は育ててくれた。だから、オレは両親の期待に応えないといけない」

「でも、あんた政治家じゃないじゃない」

八木杉は、この会社でパソコンを動かしてるけどこの国を動かしている訳じゃないわ。
なんで国を動かそうとしていた男がこんなブラック企業で働く事になったのかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...