悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます。

ガイア

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はっきりとしてもらいます

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今更ですか?というような松下の態度に、私は口をあんぐりと開けて動けなかった。

「どういう事よ!」

「えっと、その、理由はよく聞いてませんが、全部やるようにって...」

「何よそれ!納得できないわよ!ここ6階まであるじゃないの!なんでそんな知らない奴が使ったトイレの掃除まで私がやらなくちゃいけないのよ!そもそもなんであんた理由聞いてないのよ!バッカじゃないの!?」

「ひっ...ご、ごめんなさい...」

しゅんと俯く松下に、私はため息を一つついてズカズカトイレに向かう。

「あ、あの...」

「何よ。さっさと終わらせるわよ」

「は、はい!」

松下の後に小走りでついてきた。

トイレ掃除の仕方という張り紙がご丁寧にも貼ってあり、私は腰に両手を当ててそれを読み上げた。

「まずはホウキでタイルのゴミをはき、モップで床を綺麗にする。便器も綺麗に磨き、洗面台の鏡もふく...はぁ?こんなに丁寧にやり方が書いてあるんだったらあたしがやらなくても、誰でもできるじゃないのよ!」

私は腹が立ってガンッとバケツを蹴った。

「ヒッ」

転がるバケツの音に松下が小さく悲鳴を漏らす。コロコロと転がるバケツを拾い上げて、水を入れる。
朝が早かったからか無性にイライラしてくるわ。

「ほら、あんたはホウキで床をはきなさいよ」

「は、はい!」

松下は、肩をびくりと震わせいそいそとロッカーからホウキを出した。
 水の入ったバケツをドンと置くと、

「じゃあ私は便器をやるからあんたはホウキで床をはきなさい」

「へ?」

松下はぽかんとした。

「何よなんか文句あるわけ」

「い、いえ...その、私が便器を掃除するものかと」

「なんでよ」

「い...いつも、そうだったので」

「何言ってんのよ。別にどっちでもいいでしょ」

私は写真の通りにゴム手袋をして便器を掃除する小さいブラシと出勤前に入り口に置いてある消毒みたいな容器の洗剤を手にした。

入り口に一番近い便器から掃除していく。
特に汚くないのに、後この作業がこの階から6階まであるなんて...頭が痛くなってくるわ。

「あの、溝沼さん」

「何よ」

「今日は、来てくださってありがとうございました」

「はぁ?あんたが来いって言ったんでしょ」

私は掃除をする手を止めた。

「あ、はい。その、そうなん...ですけど、私、こんな性格だからずっといじめられてきたんです。断りたくても断れなくて、いつも気弱でおどおどしてて、友達とかも、できたことなくて。掃除だっていつもトイレ掃除。押し付けられてばっかりで、でも断れなくて。便器掃除だって、進んでやってくれたじゃないですか」

私は床をホウキで掃いてモップで掃除をするっていう二つの作業を床掃除はしなくちゃいけないのに、便器掃除は便器をブラシで掃除するだけですぐ終わりそうだからこっちをやりたかっただけなんだけど。

「こうしてしっかり来てくれて、一緒に掃除、してくれて。私嬉しかったんです。私、溝沼さんの事勘違いしていたかもしれません。これからもよろしくお願いしますね」

ただ言われた通りに掃除に来て掃除してるだけなのにお礼だなんて、おかしな人。

「よろしくする気はないわ。私は自分の為にやってるだけよ」

「...」

松下は、悲しい笑みを浮かべて俯いた。
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