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もずくの羽化
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デパートが苦手だ、話しかけてくる店員さんが苦手だ、美人でキラキラした人が苦手だ。人気者が苦手だ、イケメンが苦手だ、キラキラした場所が苦手だ。私、朝霧裕子(あさぎりゆうこ)は、それでも毎日が楽しい。
「推しが今日も尊い」
オタクは、生きていると何かしらアニメの公式サイト、グッズのサイト、ゲームのサイトからお知らせに一喜一憂ができる。バレンタインもクリスマスも家でゲームのキャラクターと過ごし、ケーキと好きなキャラクター、推しのぬいぐるみと写真を撮り、フォロワーと一緒にお祝いする。そんな毎日が楽しいのだ。
私は市役所の公務員だ。普段は書類を作ったりコピーをしたり事務仕事が担当だ。イケメンアイドルやホストが好きだというような顔の綺麗な同期が窓口に入ると、生い先短いじいさんたちが砂糖に群がる蟻のように受付にやってくる。そんな光景をパソコンの陰から見ながら、そんなところで人気者になって楽しいのかな、とか灰色の感情が浮かんでは消えて、すぐに目線をパソコンに戻す。
お弁当を食べている時も、同期の中で唯一馴染めなかった私を除いて3人は一緒の机に集まってご飯を食べている。22歳にもなって学生のように群れていないと自分たちを保っていられないのだろう。私はスマホをいじりながら一人でもそもそ弁当を食べる。でも、周りから同期が集まって食べているのに、私だけ別の机で一人で食べているのを見られるのが嫌だった。女性職員が少ない分、「美人が集まっていると花があるねえ」なんて無神経な上司や花を見るような男たちの視線の陰にいる私は、まるで自分は仲間に入れなかった不細工だと言われているように感じた。まあ、実際自分の顔はお世辞にも自分の中ではいいとはいえないけれど。最初の方はそんな劣等感を抱いてずっと職場に行き続けるのがつらかった。でも今は別に私はこれでいい。公務員だから安定しているし、オタクは金が要る。グッズ代、イベント代、本代、金がいいということと、接客業みたいに人と積極的に関わることをしなくていいこの職場は自分に向いている。
それにまたあの苦行、面接して電話してとか色々考えると今の平穏な生活を続けていけるというのが一番いいのだろう。
そんなことを考えながら過ごしていた私は、少しずつ減っていく同期に気づかなかった。デスゲームのように同期が減っていく。
「寿退社おめでとう!」
結婚だ。美人から減っていくので、同期は唯一私が残った。最後の一人の同期はそれでも私と一緒にご飯を食べることはなかったし、気の弱そうな年下の新人と結婚して辞めていった。同じ職場なんだからやめなくてもいいだろと思ったけど。
後輩が1年に何人か入ってきたが、結婚しては辞めていく。おい、どうなってんだここは、脱落者が成功者みたいになってんだろうが。そんな突っ込みをしていくより先に、27歳になっていた。時の流れというのは残酷なもので、1月1日が始まると、また1年か、長いな、何か今年は変化があるかなと感じるのに、12月31日になると、1年間あっという間だなという錯覚が起きて、1年間今年も何もなかったな。と思うのだ。それは安堵と共に焦りでもある。私は自分の顔にお金を使いたいとは思わない。自分の顔にお金を使うより、推しに使った方が有意義かつ、人生の優先順位として自分は最底辺だからなのだ。自分の服とか靴にお金を使うのなら、ボロボロでもいいからグッズを買って公式にお金を落としたい。新しい漫画を買いたい。そんなことを常に考えているので、デパ地下で6000円もするコスメを喜んで買っていると話していたあの同期たちの気持ちがさっぱりわからないのだ。6000円もあったら自分は新しい漫画を一気に買うしゲームに課金するのに。そう思いながら聞きたくもない同期たちの話をイヤホンをしながら聞いていた。
多分あの人たちは趣味がないんだと思う。そもそもオタクでない人間は何が楽しくて生きているのだろう。お金の使い道がないから恐らく自分に使っているのだろうが、そんなことをして楽しいのは元々顔が整っている人だけじゃないのか。私みたいな不細工は、お金をかけても不細工のままだろう。結婚願望もないし、この職場もやめたいとは思わない。給料もいいし、毎日楽しい、でも12月31日に襲ってくる、謎のこのままではいけない感、はなんだ?私はただ毎日を平凡に変わらず過ごしているだけで幸せななのに。ああ、28歳になっちゃった……。
しかし、そんな私に変化が訪れる。しばらく会っていなかった幼馴染の財部恵美(たからべえみ)が結婚することになったという手紙がきたのだ。吉報だ。私は元々人付き合いが得意なほうではなかったので、学生の時の友人といえば恵美だった。恵美もオタクであり、同性で彼女と話すときが唯一楽しいのだ。そんな恵美は仕事の都合で隣町の都会へと引っ越していき、仕事が忙しいからと会う機会もなかなかなかった。
そんな彼女が結婚。クラスで私と恵美は「もずくコンビ」といわれていた。忘れもしない、小中高と一緒の私たちはいつもクラスの隅でオタクトークをしていた。クラスで昨日のテレビを見た?などと休み時間10分の空白を埋めるだけの会話をしている奴らとは違う。10分間でどれだけしたい話を語れるかというように2人で熱い話をしていた私たちの楽しそうな様子が気に入らなかったのだろう。
「もずくコンビがまた笑ってるよ」
「もずくコンビがまたもじょもじょ話してる」
くすくすと笑われているのは知っていた。もずくというのは、あの海藻を細切れにしてぐちゃぐちゃになった毛糸みたいになっているやつのことだ。ちなみに食感も食べた感じも酸っぱい陰毛で私は好きじゃない。私たちの髪の毛が長くてくせ毛同士だったからそんな風に安易に思いついたのだろう。
あいつらは6人くらいで群れていて、私たちは2人。言い返してこないのを知っているから笑いながら聞こえるように「もずくコンビ」とくすくす笑っていた。きっと恵美にも聞こえていただろう。でも私たちは少し声のボリュームをあげながら話続けた。聞こえない、聞こえない、効いてない、効いてない、とでもいうように。
「ははは!」
「あははは!」
剣山を手を繋いで歩いたあの青春の日々を思い出す。そんな恵美の結婚式。私はこの時ばかりは少しだけ多くお金を自分に使って結婚式へと向かったのだった。
「久しぶり!ゆーちゃん来てくれてありがとう!」
「……あ、ははは」
あはは、違う違う、久しぶり!お招きいただいてありがとう!それが普通。普通に決まっている。でも、私から出た乾いた笑いは、恵美の変わりすぎた姿を見てでたものだった。
もずくどこ行った?それくらいのサラサラのロングヘア―に、一重瞼なんて見る影もないぱっちり二重瞼。私よりなかった胸も、バインバインになっている。胸ばかり見てしまう私は、必死に彼女の整った顔を見ようとするが、そっちの現実も衝撃的だし、胸を強調するようなドレスが悪いといわんばかりに胸を見てしまう。
「変わったね、なんか、雰囲気とか、会ってない間に」
そういうと、恵美は凄く気まずそうな顔をした後、意を決したように私に距離を詰めてきた。そしてふわりと女の香りを漂わせながら私に耳打ちした。
「私、整形したの」
「せ……」
「あー、言えてよかった。ずっと魚の骨が引っかかっているみたいな気持ちだったの、ゆーちゃんと連絡取りあっている時!」
「……」
連絡は仕事で忙しいらしいから恵美からたまにしか来なかった。でもそれはお互いがお互いのところで頑張っているからで、恵美に私の職場での愚痴を話した時だって、気持ちわかるよっていってくれていたのに。
「……内緒ね。胸とか眼とか小さかったでしょ?そういうの夕ちゃんにバレたくなくて、ほら中学の時とか、整形するなら推しにお金使うわ!とかいいあってたから」
私に気を使って、整形のことも言えなかった?連絡はとりあっていたけれど、会う約束は忙しいからって断られていたけど、もしかして整形のことを私に言いずらかったからなのかな?特に私が、電話で彼女と顔の話をしたとき、整形する女は趣味もプライドもないんだろうね!なんて言っていたから?余計に言えなかったのかな?罪悪感が濁流となって私を襲ってきた。その場に立ち尽くしながら、ただ私は彼女の胸さえも見えなかった。
「あ」
恵美の友人らしき人たちが4人、恵美に手を振っていた。
「恵美―!ドレスめっちゃ似合ってるじゃん!」
「写真撮ろう!写真!SNSあげていい?」
「もちろん!ごめんね、夕ちゃん、ちょっと行ってくる」
そういった恵美は、私を上から下まで見て少し微笑んだ。
「ゆーちゃんはあの時と何も変わってないね」
じゃ、そういって美人たちの間に入っていく美人の恵美。あの時一緒に手を繋いでいた恵美は、剣山に私を置いて天使たちのいる花畑へと飛び立っていってしまったようだ。天使の羽は人造だけど、他の天使たちの羽と全く変わらないのだ。
友人代表の挨拶は美人の友人がやっていて、新郎はイケメンだった。恵美は、顔も変わって性格も変わってしまったのだろうか?なんで私を結婚式に呼んだのだろう。私は彼女ともう二度と話すことはないのだろうな、なんて思いながらフランス料理のお腹にたまらないような小さい鴨肉を口に運んだ。
結婚式は、幸せという名の洗礼を浴びて大人しく帰る途中、
「ゆーちゃん!」
恵美に呼び止められた。恵美の隣には、眼鏡で少し歯の出ているキノコ頭のビーバーみたいな男が立っていた。
「彼、私の旦那の弟君なんだけど、すごく濃いオタクらしくて、私はこれから結婚してあんまりアニメとか見えなくなっちゃうから、もしよかったら彼と友達になってみない?」
「……」
じっと彼を見ていると、彼は頭をかきながらぺこりと下げた。
「はじめまして、新橋幸彦(しんばしゆきひこ)です」
「ああ……えっと、どうも、朝霧です」
「朝霧さんの話は、恵美さんから聞いてます。すごくアニメに詳しいとか、僕は女性と話すのが苦手なのであれなのですが、もしよかったらお話したくて」
オタク特有の早口で新橋は自分を紹介した。私も周りからこんな風にみえていたのかとなんだか胸がちくりと痛んだ。
「私と旦那はアニメの趣味から話が盛り上がったのよ」
「へ、へー」
なんだ、と私は少し安心したのもつかの間。
「まあ、皆には内緒なんだけどね」
そう言われてがくんと膝をつきそうになった。オタクであることを隠さないといけないだなんて美人は大変だな。
「ああ、じゃあ連絡先は……」
連絡先を交換して、新橋君と私は連絡を取り合う様になった。彼は恵美のいう通り、私の話にもついてこれるくらいのオタクで、デートも遊園地とかよりアニソンを歌えるカラオケとか、オタクショップ中心になった。一応異性と出かけるということでお洒落もしていくと、新橋くんは、
「なんか今日西高エリナみたいでいいですね」
とアニメキャラに例えて褒めてくれて、いやいやそんな可愛くないからと少し間に受けて照れてしまう自分もすごく恥ずかしかった。異性に褒められるというのは、自分の中で初めての経験だ。新橋くんは謎に照れながら褒めてくれるので自分は女としてまだ価値があり、この男を喜ばせているというモチベーションがあがるため、少しだけ化粧とか服とかにも気を遣う様になった。そのたびに新橋くんは、
「あ、なんか髪の毛の雰囲気変わりました?ライザ将軍みたいですね」
「ライザ将軍はいいすぎだよ」
SFアニメ、チンカイザーのアニメの中一の美人。一番隊美人女帝ライザに似ているといわれて嫌な女はいない。コイツは本心で褒めているのか?そんなことを考えたが、彼も出っ歯でさほど顔がいいとはいえないし、そんな男がわざわざ私をひっかけるために嘘をついて褒めているとは思えないし、褒め方が独特すぎる。
しかし、デートを繰り返したり髪の毛をちゃんとしているうちに、職場でも、
「なんか朝霧さん、雰囲気変わった?」
「とうとう男ができたのかな」
なんて噂が男たちから聞こえてくるようになった。変化とは、気づかないもので気づくものだ。それは全く変化しないものが変化すればするほど、その驚きは比例して大きくなる。私はそんな様子が少し嬉しかった。しかしちゃんとアニメも見ていたから、私はただそこにあったそれでよかった風景に、綺麗な花の花瓶を置いたような日常へと変わっていった。
そのままでも綺麗だった絵画に、綺麗な花の花瓶を置くともっとよくなるように、私はただオタクで、アニメを見て仕事をして毎日を満足していた。でもそこに残る微かな違和感。あとこれがあれば完璧なのに、今年はそれが埋まるだろうか。そんな言い知れぬ不安がここにきて埋まったのだ。
恋愛、恋愛によって。あの同期たちが綺麗だったのは、恋愛をしていたからなのかもしれない。これはクスリのようなもので、もずくみたいな私の髪の毛は、新橋くんに褒められるために短くなって、垢ぬけるために茶髪にも染めてみた。不細工だけど、デートの時は少しでもよくみられたくて、いつもよりいいコスメを買いにいったりした。彼に出会って私の生活はかさかさの唇にリップを塗るように潤っていった。リップも私は初めて買ったし、最近手を繋ぐようになったのでハンドクリームも買った。
そんな変化を続けながらクリスマスを迎えた私に、新橋くんは真っ赤な顔でうちに泊まりに来ませんか?と聞いてきた。クリスマスはどこも混むから、うちに、なんてもじょもじょ言い訳していたけど、ようするに、私とキスより先のことがしたいということだろう。
私はいくら自分の顔をマシにしようと頑張っているとはいえ、私に性欲を抱いているかもしれないこの男を見て疑問を抱かざるおえなかった。
その夜、風呂の全身鏡で自分の体を眺めた。
私は太れない体質で胸もなければ尻もない、肉もないといえば聞こえがいいが、女としての魅力的なボディからはかけ離れている。
「なんでこんな私に欲情しているんだあいつは」
ふと潰れたプリンのような胸の方に目がいった。ああ、黒い乳首が泣いている。恵美が整形した理由が分かった気がする。
クリスマスの日、私はとびきりお洒落をして、下着も新品の赤い下着を履いて彼の下へと向かった。新橋くんは私とセックスするためだけじゃなく、ちゃんと料理も用意してくれて、私のために私の好きなキャラのクリスマスケーキも予約してくれたらしく、
「飾り付けしましょう」
そういってなんか大きなもみの木なんかも買っていた。セックスするためじゃなく、私を楽しませるために全て用意してくれたのかと感動したが、夜8時に一緒にお酒を飲んでいる時、急にキスをしながら肩を抱かれたときに、ああ、もしかしてセックスするために私を喜ばせようとして用意したのか?と馬鹿なことが一瞬頭に浮かんだ。
「するの?」
そう問いかけると、新橋くんは赤い顔と吐息まじりに私の耳元に唇を寄せた。
「だめですか?」
だめなわけがない、準備してきたし、なんならちょっと期待していた私は、彼に身をゆだねた。新橋くんは童貞だと言っていた。というのも私が前にお酒を飲みながら聞いたのだ。恥ずかしそうにそういった彼に、私も。と答えると彼が少し驚いた顔をしたのが嬉しかった。だろうな、とかその顔じゃそうだよな。とかそういう顔をされるんじゃなくて。
「しかも私、今まで一回も男性と付き合ったことないの、今まで一回も」
ふわふわした頭で彼にそういうと、新橋くんは「よかったです」といった。意味がわからない。
「ねえ、あの時さ」
彼とのキスを中断して私は唐突に彼の顔を両手で挟んで問いかけた
「この前私が今まで誰とも付き合ったこともシたこともないって言った時、なんでよかった、なんて言ったの?」
処女は面倒だという言葉を聞いたことがある。何が面倒なのかわからない、それは男の人にしかわからないことなのかも。私が処女であること、誰かと付き合った経験がないことを知ってよかったといった新橋くんが、なんで少し嬉しそうに笑ったのか、その理由をこれからヤる前に知りたかったのだ。
「……ああ」
少し彼の顔が赤くなる。口を閉じても少し出ている出っ歯。最初は出っ歯ビーバーキノコビーバーなんて思っていたけれど、今は彼のその歯を可愛いと思うし、愛おしいとさえ思っている。
「いや、単純に好きな人の初めてが僕って嬉しいじゃないですか」
酔ったからいっているわけじゃない。彼の両親は酒豪らしく彼はお酒が強いのだ。
「って、なんか酔いがまわってきたかな」
あの時だって全然飲んでいなかった。でも、ちゃんと恥ずかしがらずに私に好意を伝えてくれた。今までこんな気持ちになったことはなかった。セックスなんて同人誌やエロ漫画の中の世界で、自分の閉じた世界に性欲とかセックスが入り込んでくることなんてないと思っていた。そもそも、恋なんてしないと思っていた。
「もう一回キスしていい?」
問いかけると、彼からまたキスをされた。
「ベットに行きましょうか?」
彼に手を引かれ、彼のベットへと一緒に向かう。もうお風呂は済ませていて、後はくつろぐだけだった。セックスのお誘いを待ちながら、だけど。うす暗い部屋でベットに2人で倒れこみ、彼が私の黒いカシミアのニットを脱がした。
冬なのに無理して履いた白いスカート、黒いタイツと順番に私を守るものがなくなっていく。私は、彼にこれからあの体を見せるのだろうか。唐突に恥ずかしくなって、下着の時点で守るように胸の前で手を交差させた。
「わ、私、体がそんなに綺麗じゃないから」
なんだか泣きそうな声になってしまった。こんなことになるならおっぱいの大きくなるマッサージとかやっておけばよかった。豊胸手術をした人の気持ちがわかる気がした。自分の貧相な体のせいで、夢から覚めたように彼がベットから離れてしまったらどうしよう。
「綺麗ですよ」
彼はそういって、私の無防備な首元にキスをした。その瞬間に自分の子宮がじゅんと熱くなるのを感じた。びくりと体が反応して、彼が顔をあげて私を見つめた。なんで今私は体が反応したのだろう。戸惑っている間にまた彼は私の首元にキスの雨を降らせた。そしてそのまま私の下着をはぎ取り、薄い胸を優しく揉んで、赤ん坊のように黒い突起をついばんだ。思わず声を漏らすと、彼は意地悪をするように私の乳首を責め立てる。うす暗い部屋でよかったと思った。赤ん坊にとってはピンク色の乳首も黒い乳首も中身は白いミルクなわけだが、彼にとっては暗い部屋でピンク色の乳首を舐めていると思ってくれていた方が、安心する。
綺麗とか、可愛いとか、彼は私に優しく囁きながら体の隅々まで触れて、キスをして、そして私のパンツの中に手をいれてきた。私は思わず大きな声で喘いでしまった。
「待って、初めてだから」
「大丈夫ですよ、ゆっくりしますから」
童貞だといってきた彼が、胸を触って、キスをして、そしてパンツの中に手をいれるという手順をどこで覚えてきたのだろう。学校で習うはずがないし、第一私でさえ保健体育の時セックスは本番のところしか習っていない。それも直接的なことは言われず、ただ男性器が、女性器に挿入されると、赤ちゃんが……という感じで男性のチンポが女性のマンコになんて言葉を知っている私の知識は大体2次元の作品からきているわけで。そういうエロ漫画とかを全く読まない層はどうやってセックスの知識を得ているのだろう。AVからだろうか。だとしたら未成年からセックスをする現代に、成人してから見られるAVを見ることができない未成年は前戯をすることなく、つまりおっぱいを触らずパンツにも手を入れず、男性器と女性器を挿入しあい、成人になると、ああ、普通はセックスする前におっぱいを楽しんだりするものなんだと学習していくのだろうか。そもそも学生の時は、自分がセックスをすることになるなんて考えられなかった。私の体を責め立てる彼は、いつもの草食動物ではなく、肉食動物のように私の膣の中に指を入れ、クリトリスを弄び、そして好きだと囁いてくる。雄というのは、本能的に女性の体をどうすればいいかとわかっているのだろうか。自分が繁殖するために?
オナニーさえしたことがなかった私も、何故か初めて彼に膣内に指を入れられた時、体が急激に熱くなって頭が真っ白になった。
「ああ、ここがクリトリスかな」
「ちょっと、待って!」
ぐちゃぐちゃになっている自分の股ぐらから、愛液と呼ばれている液が止めどなく溢れてくる。その穴の入口付近にある豆を触られると穴をぐちゅぐちゅといじられるより倍くらいの快感が私の脳裏を電撃のように走りまわった。私は女で、気持ちよくなっているということを、彼に体で分からされているようだった。そこはだめだと言っているのに、彼はだめだということはいいことだと間違えて覚えているようにソコを口に含んだりなめたり、触ったりしてくるのに、自分はただただ食べられる魚みたいに、白いまな板で跳ねることしかできなかった。しかし体がたびたびビクビクと痙攣し、そのまま弓がしなるように背中を浮かせ、頭が真っ白になる感覚にやめてほしいけどやめてほしくないという我儘な気持ちが湧き上がってくる。快感と疲労感脱力感、よだれが出そうなくらいの激しい衝撃が次々に私を襲い、しかしそれは彼がしていることだという事実に多幸感までわいてくる。
彼がぐちゃぐちゃになった私を見下ろしながらとうとう自分のズボンに手をかけた。彼のパンツからは、どうしたらそんなモノが収まっていたんだというくらい大きなイチモツが出てきた。暗い中、私は彼のソレをしっかりと目に焼き付けた。女の子宮をえぐるような形をした凶悪なそれは、大きければいいというものじゃないということを突っ込まざる終えなかった。
「そんな大きいの入らない」
保健体育の授業で習った。男性器を女性器の中に挿入することで赤ちゃんが生まれるのだと。彼はベットの上に隠すように置いてあったコンドームの箱から、コンドームを取り出して自分のに取り付けた。ちんちんは小さいようなイメージがわくし、チンポも馬鹿にしたような感じがする。男性器という名にふさわしいソレは、まさしく保健で習った通り、これから私の小さな膣に挿入されるのだろう。
「僕も初めてだからゆっくりしますね」
余裕がないといわんばかりの彼の表情は明確に雄を感じて私は少し身を引いた。これから自分は彼に食べられるのだ。あんな大きな肉の塊をどうしてぐちゃぐちゃの女の膣内に挿入して楽しいのだろうか。
彼にキスをされ、そのままきつく目を閉じた。
「力を抜いてください」
どうやって膣の力を抜くのか教えてほしい。だらだらよだれを垂らしながら、口はすぼんでいるのだろうか。しかし自分の中で、まるで子宮が降りてきているような、自分の膣内の長さが気持ちよくなるたびに短くなっているのを薄々感じていた私は、これから自分の体は彼に男性器を挿入され、奥にそれが出し入れされるのを本能的に喜んで、そして願っているのだと感じた。こんなのを挿れられて、痛くないのだろうか?否、痛すぎる。
「くっ……」
痛すぎる。赤ちゃんが生まれる時、スイカが鼻からでるくらい痛いという表現を聞いたことがあるが、これは自分の膣内に、野球バットを入れられているような感覚の痛さだった。何故これが気持ちいいのか、何がいいのか、女は痛いだけ?男は?彼はどんな感覚?様々なことを考えながらも、私は気づいたら目を閉じていた。もう終わりかと思ったら、彼は「もうすぐ半分です」なんていうもんだから無理だと早く抜いてくれと泣きさけびそうになった。しかし私の体は痛いのに、もうやめてほしいのに、彼と繋がっているという微かな赤ん坊くらいの喜びを感じながら、彼をずぶりずぶりと受け入れている。全部入ったら?入れるだけ?疑問は浮かんでは消えて、私は苦痛の声をあげながら彼が私の膣内に挿入ってくるのを待っていた。
「全部っ……入りました」
そういった彼は、先ほどと変わって喘ぎ声のようなものが混じっていた。内側からぷちりと膜が破れるような感覚と、内ももに生暖かい液体が伝うのを感じた。ベットを汚してしまう、そんな考えは今の私には考えられないくらい、私の脳内も体もただ彼が入ってきた一点に集中していた。
「なんで……挿入しているあなたが辛そうなのよ」
「だって、中がうねって温かくて、気持ちよすぎて……動いていいですか?」
頷くとほぼ同時に彼が腰を動かし始めた。この行為に何の意味があるかと言われれば私は答えることができないが、彼が気持ちよさそうにしていて、私は彼のモノが中でこすれるのが気持ちいいと感じて、この行為にハマってしまう人間の心理が理解ったというより刷り込まれたような感じがした。中腹に膨らみを感じてお腹をさすると、確かに彼のモノがそこにしまわれていた。ぽこっぽこっと動くそれに指を這わせると、彼が私の手を優しく握った。私は何故だかその時に涙が出そうになった。私は今彼に抱かれている。それを中腹に挿入っている突起がぽこっぽこっと動くことで快感から実感に変わったのだ。セックスしている、私は今、男と、彼とセックスしている。今までだったら考えられなかった。誰かと自分がセックスをするようなことになるなんて。セックスをしている時、彼は私に何度か好きとか可愛いとか、そんな女の子扱いするようなことを言ってくれた。セックスとは、男が欲望を満たすためにする行為だと思っていた。でも、違ったのだ。
「いい……?もう僕、だめかも」
「……いいよ」
彼を抱きしめて囁いた。セックスとは、女性が愛されていることを確かめる行為なのかもしれない。だからこそ、身体も心も気持ちよくて、そして愛を感じれば感じる程に、セックスという行為そのものの濃さも高まっていく。
一緒にイき果てた後、仲良くシャワーを浴びて、彼と私はベットに横になっていた。寝ている彼の横顔にキスをすると、彼は寝ぼけたまま私にキスをした。ティッシュで拭かれた精子がゴミ箱に捨てられている。あの捨てられた精子が私の子宮の卵子と結びついたら、さっき触ったここに、子供ができるのだ。何もなくなった中腹をさすりながら、天井を見上げた私は、目を閉じた。子供ができたらしばらくセックスはできなくなるだろう。
聖なる夜が更けていく。まだ子供はいいかと急激に変化していく女としての自分に思わずベットで笑みがこぼれた。
「推しが今日も尊い」
オタクは、生きていると何かしらアニメの公式サイト、グッズのサイト、ゲームのサイトからお知らせに一喜一憂ができる。バレンタインもクリスマスも家でゲームのキャラクターと過ごし、ケーキと好きなキャラクター、推しのぬいぐるみと写真を撮り、フォロワーと一緒にお祝いする。そんな毎日が楽しいのだ。
私は市役所の公務員だ。普段は書類を作ったりコピーをしたり事務仕事が担当だ。イケメンアイドルやホストが好きだというような顔の綺麗な同期が窓口に入ると、生い先短いじいさんたちが砂糖に群がる蟻のように受付にやってくる。そんな光景をパソコンの陰から見ながら、そんなところで人気者になって楽しいのかな、とか灰色の感情が浮かんでは消えて、すぐに目線をパソコンに戻す。
お弁当を食べている時も、同期の中で唯一馴染めなかった私を除いて3人は一緒の机に集まってご飯を食べている。22歳にもなって学生のように群れていないと自分たちを保っていられないのだろう。私はスマホをいじりながら一人でもそもそ弁当を食べる。でも、周りから同期が集まって食べているのに、私だけ別の机で一人で食べているのを見られるのが嫌だった。女性職員が少ない分、「美人が集まっていると花があるねえ」なんて無神経な上司や花を見るような男たちの視線の陰にいる私は、まるで自分は仲間に入れなかった不細工だと言われているように感じた。まあ、実際自分の顔はお世辞にも自分の中ではいいとはいえないけれど。最初の方はそんな劣等感を抱いてずっと職場に行き続けるのがつらかった。でも今は別に私はこれでいい。公務員だから安定しているし、オタクは金が要る。グッズ代、イベント代、本代、金がいいということと、接客業みたいに人と積極的に関わることをしなくていいこの職場は自分に向いている。
それにまたあの苦行、面接して電話してとか色々考えると今の平穏な生活を続けていけるというのが一番いいのだろう。
そんなことを考えながら過ごしていた私は、少しずつ減っていく同期に気づかなかった。デスゲームのように同期が減っていく。
「寿退社おめでとう!」
結婚だ。美人から減っていくので、同期は唯一私が残った。最後の一人の同期はそれでも私と一緒にご飯を食べることはなかったし、気の弱そうな年下の新人と結婚して辞めていった。同じ職場なんだからやめなくてもいいだろと思ったけど。
後輩が1年に何人か入ってきたが、結婚しては辞めていく。おい、どうなってんだここは、脱落者が成功者みたいになってんだろうが。そんな突っ込みをしていくより先に、27歳になっていた。時の流れというのは残酷なもので、1月1日が始まると、また1年か、長いな、何か今年は変化があるかなと感じるのに、12月31日になると、1年間あっという間だなという錯覚が起きて、1年間今年も何もなかったな。と思うのだ。それは安堵と共に焦りでもある。私は自分の顔にお金を使いたいとは思わない。自分の顔にお金を使うより、推しに使った方が有意義かつ、人生の優先順位として自分は最底辺だからなのだ。自分の服とか靴にお金を使うのなら、ボロボロでもいいからグッズを買って公式にお金を落としたい。新しい漫画を買いたい。そんなことを常に考えているので、デパ地下で6000円もするコスメを喜んで買っていると話していたあの同期たちの気持ちがさっぱりわからないのだ。6000円もあったら自分は新しい漫画を一気に買うしゲームに課金するのに。そう思いながら聞きたくもない同期たちの話をイヤホンをしながら聞いていた。
多分あの人たちは趣味がないんだと思う。そもそもオタクでない人間は何が楽しくて生きているのだろう。お金の使い道がないから恐らく自分に使っているのだろうが、そんなことをして楽しいのは元々顔が整っている人だけじゃないのか。私みたいな不細工は、お金をかけても不細工のままだろう。結婚願望もないし、この職場もやめたいとは思わない。給料もいいし、毎日楽しい、でも12月31日に襲ってくる、謎のこのままではいけない感、はなんだ?私はただ毎日を平凡に変わらず過ごしているだけで幸せななのに。ああ、28歳になっちゃった……。
しかし、そんな私に変化が訪れる。しばらく会っていなかった幼馴染の財部恵美(たからべえみ)が結婚することになったという手紙がきたのだ。吉報だ。私は元々人付き合いが得意なほうではなかったので、学生の時の友人といえば恵美だった。恵美もオタクであり、同性で彼女と話すときが唯一楽しいのだ。そんな恵美は仕事の都合で隣町の都会へと引っ越していき、仕事が忙しいからと会う機会もなかなかなかった。
そんな彼女が結婚。クラスで私と恵美は「もずくコンビ」といわれていた。忘れもしない、小中高と一緒の私たちはいつもクラスの隅でオタクトークをしていた。クラスで昨日のテレビを見た?などと休み時間10分の空白を埋めるだけの会話をしている奴らとは違う。10分間でどれだけしたい話を語れるかというように2人で熱い話をしていた私たちの楽しそうな様子が気に入らなかったのだろう。
「もずくコンビがまた笑ってるよ」
「もずくコンビがまたもじょもじょ話してる」
くすくすと笑われているのは知っていた。もずくというのは、あの海藻を細切れにしてぐちゃぐちゃになった毛糸みたいになっているやつのことだ。ちなみに食感も食べた感じも酸っぱい陰毛で私は好きじゃない。私たちの髪の毛が長くてくせ毛同士だったからそんな風に安易に思いついたのだろう。
あいつらは6人くらいで群れていて、私たちは2人。言い返してこないのを知っているから笑いながら聞こえるように「もずくコンビ」とくすくす笑っていた。きっと恵美にも聞こえていただろう。でも私たちは少し声のボリュームをあげながら話続けた。聞こえない、聞こえない、効いてない、効いてない、とでもいうように。
「ははは!」
「あははは!」
剣山を手を繋いで歩いたあの青春の日々を思い出す。そんな恵美の結婚式。私はこの時ばかりは少しだけ多くお金を自分に使って結婚式へと向かったのだった。
「久しぶり!ゆーちゃん来てくれてありがとう!」
「……あ、ははは」
あはは、違う違う、久しぶり!お招きいただいてありがとう!それが普通。普通に決まっている。でも、私から出た乾いた笑いは、恵美の変わりすぎた姿を見てでたものだった。
もずくどこ行った?それくらいのサラサラのロングヘア―に、一重瞼なんて見る影もないぱっちり二重瞼。私よりなかった胸も、バインバインになっている。胸ばかり見てしまう私は、必死に彼女の整った顔を見ようとするが、そっちの現実も衝撃的だし、胸を強調するようなドレスが悪いといわんばかりに胸を見てしまう。
「変わったね、なんか、雰囲気とか、会ってない間に」
そういうと、恵美は凄く気まずそうな顔をした後、意を決したように私に距離を詰めてきた。そしてふわりと女の香りを漂わせながら私に耳打ちした。
「私、整形したの」
「せ……」
「あー、言えてよかった。ずっと魚の骨が引っかかっているみたいな気持ちだったの、ゆーちゃんと連絡取りあっている時!」
「……」
連絡は仕事で忙しいらしいから恵美からたまにしか来なかった。でもそれはお互いがお互いのところで頑張っているからで、恵美に私の職場での愚痴を話した時だって、気持ちわかるよっていってくれていたのに。
「……内緒ね。胸とか眼とか小さかったでしょ?そういうの夕ちゃんにバレたくなくて、ほら中学の時とか、整形するなら推しにお金使うわ!とかいいあってたから」
私に気を使って、整形のことも言えなかった?連絡はとりあっていたけれど、会う約束は忙しいからって断られていたけど、もしかして整形のことを私に言いずらかったからなのかな?特に私が、電話で彼女と顔の話をしたとき、整形する女は趣味もプライドもないんだろうね!なんて言っていたから?余計に言えなかったのかな?罪悪感が濁流となって私を襲ってきた。その場に立ち尽くしながら、ただ私は彼女の胸さえも見えなかった。
「あ」
恵美の友人らしき人たちが4人、恵美に手を振っていた。
「恵美―!ドレスめっちゃ似合ってるじゃん!」
「写真撮ろう!写真!SNSあげていい?」
「もちろん!ごめんね、夕ちゃん、ちょっと行ってくる」
そういった恵美は、私を上から下まで見て少し微笑んだ。
「ゆーちゃんはあの時と何も変わってないね」
じゃ、そういって美人たちの間に入っていく美人の恵美。あの時一緒に手を繋いでいた恵美は、剣山に私を置いて天使たちのいる花畑へと飛び立っていってしまったようだ。天使の羽は人造だけど、他の天使たちの羽と全く変わらないのだ。
友人代表の挨拶は美人の友人がやっていて、新郎はイケメンだった。恵美は、顔も変わって性格も変わってしまったのだろうか?なんで私を結婚式に呼んだのだろう。私は彼女ともう二度と話すことはないのだろうな、なんて思いながらフランス料理のお腹にたまらないような小さい鴨肉を口に運んだ。
結婚式は、幸せという名の洗礼を浴びて大人しく帰る途中、
「ゆーちゃん!」
恵美に呼び止められた。恵美の隣には、眼鏡で少し歯の出ているキノコ頭のビーバーみたいな男が立っていた。
「彼、私の旦那の弟君なんだけど、すごく濃いオタクらしくて、私はこれから結婚してあんまりアニメとか見えなくなっちゃうから、もしよかったら彼と友達になってみない?」
「……」
じっと彼を見ていると、彼は頭をかきながらぺこりと下げた。
「はじめまして、新橋幸彦(しんばしゆきひこ)です」
「ああ……えっと、どうも、朝霧です」
「朝霧さんの話は、恵美さんから聞いてます。すごくアニメに詳しいとか、僕は女性と話すのが苦手なのであれなのですが、もしよかったらお話したくて」
オタク特有の早口で新橋は自分を紹介した。私も周りからこんな風にみえていたのかとなんだか胸がちくりと痛んだ。
「私と旦那はアニメの趣味から話が盛り上がったのよ」
「へ、へー」
なんだ、と私は少し安心したのもつかの間。
「まあ、皆には内緒なんだけどね」
そう言われてがくんと膝をつきそうになった。オタクであることを隠さないといけないだなんて美人は大変だな。
「ああ、じゃあ連絡先は……」
連絡先を交換して、新橋君と私は連絡を取り合う様になった。彼は恵美のいう通り、私の話にもついてこれるくらいのオタクで、デートも遊園地とかよりアニソンを歌えるカラオケとか、オタクショップ中心になった。一応異性と出かけるということでお洒落もしていくと、新橋くんは、
「なんか今日西高エリナみたいでいいですね」
とアニメキャラに例えて褒めてくれて、いやいやそんな可愛くないからと少し間に受けて照れてしまう自分もすごく恥ずかしかった。異性に褒められるというのは、自分の中で初めての経験だ。新橋くんは謎に照れながら褒めてくれるので自分は女としてまだ価値があり、この男を喜ばせているというモチベーションがあがるため、少しだけ化粧とか服とかにも気を遣う様になった。そのたびに新橋くんは、
「あ、なんか髪の毛の雰囲気変わりました?ライザ将軍みたいですね」
「ライザ将軍はいいすぎだよ」
SFアニメ、チンカイザーのアニメの中一の美人。一番隊美人女帝ライザに似ているといわれて嫌な女はいない。コイツは本心で褒めているのか?そんなことを考えたが、彼も出っ歯でさほど顔がいいとはいえないし、そんな男がわざわざ私をひっかけるために嘘をついて褒めているとは思えないし、褒め方が独特すぎる。
しかし、デートを繰り返したり髪の毛をちゃんとしているうちに、職場でも、
「なんか朝霧さん、雰囲気変わった?」
「とうとう男ができたのかな」
なんて噂が男たちから聞こえてくるようになった。変化とは、気づかないもので気づくものだ。それは全く変化しないものが変化すればするほど、その驚きは比例して大きくなる。私はそんな様子が少し嬉しかった。しかしちゃんとアニメも見ていたから、私はただそこにあったそれでよかった風景に、綺麗な花の花瓶を置いたような日常へと変わっていった。
そのままでも綺麗だった絵画に、綺麗な花の花瓶を置くともっとよくなるように、私はただオタクで、アニメを見て仕事をして毎日を満足していた。でもそこに残る微かな違和感。あとこれがあれば完璧なのに、今年はそれが埋まるだろうか。そんな言い知れぬ不安がここにきて埋まったのだ。
恋愛、恋愛によって。あの同期たちが綺麗だったのは、恋愛をしていたからなのかもしれない。これはクスリのようなもので、もずくみたいな私の髪の毛は、新橋くんに褒められるために短くなって、垢ぬけるために茶髪にも染めてみた。不細工だけど、デートの時は少しでもよくみられたくて、いつもよりいいコスメを買いにいったりした。彼に出会って私の生活はかさかさの唇にリップを塗るように潤っていった。リップも私は初めて買ったし、最近手を繋ぐようになったのでハンドクリームも買った。
そんな変化を続けながらクリスマスを迎えた私に、新橋くんは真っ赤な顔でうちに泊まりに来ませんか?と聞いてきた。クリスマスはどこも混むから、うちに、なんてもじょもじょ言い訳していたけど、ようするに、私とキスより先のことがしたいということだろう。
私はいくら自分の顔をマシにしようと頑張っているとはいえ、私に性欲を抱いているかもしれないこの男を見て疑問を抱かざるおえなかった。
その夜、風呂の全身鏡で自分の体を眺めた。
私は太れない体質で胸もなければ尻もない、肉もないといえば聞こえがいいが、女としての魅力的なボディからはかけ離れている。
「なんでこんな私に欲情しているんだあいつは」
ふと潰れたプリンのような胸の方に目がいった。ああ、黒い乳首が泣いている。恵美が整形した理由が分かった気がする。
クリスマスの日、私はとびきりお洒落をして、下着も新品の赤い下着を履いて彼の下へと向かった。新橋くんは私とセックスするためだけじゃなく、ちゃんと料理も用意してくれて、私のために私の好きなキャラのクリスマスケーキも予約してくれたらしく、
「飾り付けしましょう」
そういってなんか大きなもみの木なんかも買っていた。セックスするためじゃなく、私を楽しませるために全て用意してくれたのかと感動したが、夜8時に一緒にお酒を飲んでいる時、急にキスをしながら肩を抱かれたときに、ああ、もしかしてセックスするために私を喜ばせようとして用意したのか?と馬鹿なことが一瞬頭に浮かんだ。
「するの?」
そう問いかけると、新橋くんは赤い顔と吐息まじりに私の耳元に唇を寄せた。
「だめですか?」
だめなわけがない、準備してきたし、なんならちょっと期待していた私は、彼に身をゆだねた。新橋くんは童貞だと言っていた。というのも私が前にお酒を飲みながら聞いたのだ。恥ずかしそうにそういった彼に、私も。と答えると彼が少し驚いた顔をしたのが嬉しかった。だろうな、とかその顔じゃそうだよな。とかそういう顔をされるんじゃなくて。
「しかも私、今まで一回も男性と付き合ったことないの、今まで一回も」
ふわふわした頭で彼にそういうと、新橋くんは「よかったです」といった。意味がわからない。
「ねえ、あの時さ」
彼とのキスを中断して私は唐突に彼の顔を両手で挟んで問いかけた
「この前私が今まで誰とも付き合ったこともシたこともないって言った時、なんでよかった、なんて言ったの?」
処女は面倒だという言葉を聞いたことがある。何が面倒なのかわからない、それは男の人にしかわからないことなのかも。私が処女であること、誰かと付き合った経験がないことを知ってよかったといった新橋くんが、なんで少し嬉しそうに笑ったのか、その理由をこれからヤる前に知りたかったのだ。
「……ああ」
少し彼の顔が赤くなる。口を閉じても少し出ている出っ歯。最初は出っ歯ビーバーキノコビーバーなんて思っていたけれど、今は彼のその歯を可愛いと思うし、愛おしいとさえ思っている。
「いや、単純に好きな人の初めてが僕って嬉しいじゃないですか」
酔ったからいっているわけじゃない。彼の両親は酒豪らしく彼はお酒が強いのだ。
「って、なんか酔いがまわってきたかな」
あの時だって全然飲んでいなかった。でも、ちゃんと恥ずかしがらずに私に好意を伝えてくれた。今までこんな気持ちになったことはなかった。セックスなんて同人誌やエロ漫画の中の世界で、自分の閉じた世界に性欲とかセックスが入り込んでくることなんてないと思っていた。そもそも、恋なんてしないと思っていた。
「もう一回キスしていい?」
問いかけると、彼からまたキスをされた。
「ベットに行きましょうか?」
彼に手を引かれ、彼のベットへと一緒に向かう。もうお風呂は済ませていて、後はくつろぐだけだった。セックスのお誘いを待ちながら、だけど。うす暗い部屋でベットに2人で倒れこみ、彼が私の黒いカシミアのニットを脱がした。
冬なのに無理して履いた白いスカート、黒いタイツと順番に私を守るものがなくなっていく。私は、彼にこれからあの体を見せるのだろうか。唐突に恥ずかしくなって、下着の時点で守るように胸の前で手を交差させた。
「わ、私、体がそんなに綺麗じゃないから」
なんだか泣きそうな声になってしまった。こんなことになるならおっぱいの大きくなるマッサージとかやっておけばよかった。豊胸手術をした人の気持ちがわかる気がした。自分の貧相な体のせいで、夢から覚めたように彼がベットから離れてしまったらどうしよう。
「綺麗ですよ」
彼はそういって、私の無防備な首元にキスをした。その瞬間に自分の子宮がじゅんと熱くなるのを感じた。びくりと体が反応して、彼が顔をあげて私を見つめた。なんで今私は体が反応したのだろう。戸惑っている間にまた彼は私の首元にキスの雨を降らせた。そしてそのまま私の下着をはぎ取り、薄い胸を優しく揉んで、赤ん坊のように黒い突起をついばんだ。思わず声を漏らすと、彼は意地悪をするように私の乳首を責め立てる。うす暗い部屋でよかったと思った。赤ん坊にとってはピンク色の乳首も黒い乳首も中身は白いミルクなわけだが、彼にとっては暗い部屋でピンク色の乳首を舐めていると思ってくれていた方が、安心する。
綺麗とか、可愛いとか、彼は私に優しく囁きながら体の隅々まで触れて、キスをして、そして私のパンツの中に手をいれてきた。私は思わず大きな声で喘いでしまった。
「待って、初めてだから」
「大丈夫ですよ、ゆっくりしますから」
童貞だといってきた彼が、胸を触って、キスをして、そしてパンツの中に手をいれるという手順をどこで覚えてきたのだろう。学校で習うはずがないし、第一私でさえ保健体育の時セックスは本番のところしか習っていない。それも直接的なことは言われず、ただ男性器が、女性器に挿入されると、赤ちゃんが……という感じで男性のチンポが女性のマンコになんて言葉を知っている私の知識は大体2次元の作品からきているわけで。そういうエロ漫画とかを全く読まない層はどうやってセックスの知識を得ているのだろう。AVからだろうか。だとしたら未成年からセックスをする現代に、成人してから見られるAVを見ることができない未成年は前戯をすることなく、つまりおっぱいを触らずパンツにも手を入れず、男性器と女性器を挿入しあい、成人になると、ああ、普通はセックスする前におっぱいを楽しんだりするものなんだと学習していくのだろうか。そもそも学生の時は、自分がセックスをすることになるなんて考えられなかった。私の体を責め立てる彼は、いつもの草食動物ではなく、肉食動物のように私の膣の中に指を入れ、クリトリスを弄び、そして好きだと囁いてくる。雄というのは、本能的に女性の体をどうすればいいかとわかっているのだろうか。自分が繁殖するために?
オナニーさえしたことがなかった私も、何故か初めて彼に膣内に指を入れられた時、体が急激に熱くなって頭が真っ白になった。
「ああ、ここがクリトリスかな」
「ちょっと、待って!」
ぐちゃぐちゃになっている自分の股ぐらから、愛液と呼ばれている液が止めどなく溢れてくる。その穴の入口付近にある豆を触られると穴をぐちゅぐちゅといじられるより倍くらいの快感が私の脳裏を電撃のように走りまわった。私は女で、気持ちよくなっているということを、彼に体で分からされているようだった。そこはだめだと言っているのに、彼はだめだということはいいことだと間違えて覚えているようにソコを口に含んだりなめたり、触ったりしてくるのに、自分はただただ食べられる魚みたいに、白いまな板で跳ねることしかできなかった。しかし体がたびたびビクビクと痙攣し、そのまま弓がしなるように背中を浮かせ、頭が真っ白になる感覚にやめてほしいけどやめてほしくないという我儘な気持ちが湧き上がってくる。快感と疲労感脱力感、よだれが出そうなくらいの激しい衝撃が次々に私を襲い、しかしそれは彼がしていることだという事実に多幸感までわいてくる。
彼がぐちゃぐちゃになった私を見下ろしながらとうとう自分のズボンに手をかけた。彼のパンツからは、どうしたらそんなモノが収まっていたんだというくらい大きなイチモツが出てきた。暗い中、私は彼のソレをしっかりと目に焼き付けた。女の子宮をえぐるような形をした凶悪なそれは、大きければいいというものじゃないということを突っ込まざる終えなかった。
「そんな大きいの入らない」
保健体育の授業で習った。男性器を女性器の中に挿入することで赤ちゃんが生まれるのだと。彼はベットの上に隠すように置いてあったコンドームの箱から、コンドームを取り出して自分のに取り付けた。ちんちんは小さいようなイメージがわくし、チンポも馬鹿にしたような感じがする。男性器という名にふさわしいソレは、まさしく保健で習った通り、これから私の小さな膣に挿入されるのだろう。
「僕も初めてだからゆっくりしますね」
余裕がないといわんばかりの彼の表情は明確に雄を感じて私は少し身を引いた。これから自分は彼に食べられるのだ。あんな大きな肉の塊をどうしてぐちゃぐちゃの女の膣内に挿入して楽しいのだろうか。
彼にキスをされ、そのままきつく目を閉じた。
「力を抜いてください」
どうやって膣の力を抜くのか教えてほしい。だらだらよだれを垂らしながら、口はすぼんでいるのだろうか。しかし自分の中で、まるで子宮が降りてきているような、自分の膣内の長さが気持ちよくなるたびに短くなっているのを薄々感じていた私は、これから自分の体は彼に男性器を挿入され、奥にそれが出し入れされるのを本能的に喜んで、そして願っているのだと感じた。こんなのを挿れられて、痛くないのだろうか?否、痛すぎる。
「くっ……」
痛すぎる。赤ちゃんが生まれる時、スイカが鼻からでるくらい痛いという表現を聞いたことがあるが、これは自分の膣内に、野球バットを入れられているような感覚の痛さだった。何故これが気持ちいいのか、何がいいのか、女は痛いだけ?男は?彼はどんな感覚?様々なことを考えながらも、私は気づいたら目を閉じていた。もう終わりかと思ったら、彼は「もうすぐ半分です」なんていうもんだから無理だと早く抜いてくれと泣きさけびそうになった。しかし私の体は痛いのに、もうやめてほしいのに、彼と繋がっているという微かな赤ん坊くらいの喜びを感じながら、彼をずぶりずぶりと受け入れている。全部入ったら?入れるだけ?疑問は浮かんでは消えて、私は苦痛の声をあげながら彼が私の膣内に挿入ってくるのを待っていた。
「全部っ……入りました」
そういった彼は、先ほどと変わって喘ぎ声のようなものが混じっていた。内側からぷちりと膜が破れるような感覚と、内ももに生暖かい液体が伝うのを感じた。ベットを汚してしまう、そんな考えは今の私には考えられないくらい、私の脳内も体もただ彼が入ってきた一点に集中していた。
「なんで……挿入しているあなたが辛そうなのよ」
「だって、中がうねって温かくて、気持ちよすぎて……動いていいですか?」
頷くとほぼ同時に彼が腰を動かし始めた。この行為に何の意味があるかと言われれば私は答えることができないが、彼が気持ちよさそうにしていて、私は彼のモノが中でこすれるのが気持ちいいと感じて、この行為にハマってしまう人間の心理が理解ったというより刷り込まれたような感じがした。中腹に膨らみを感じてお腹をさすると、確かに彼のモノがそこにしまわれていた。ぽこっぽこっと動くそれに指を這わせると、彼が私の手を優しく握った。私は何故だかその時に涙が出そうになった。私は今彼に抱かれている。それを中腹に挿入っている突起がぽこっぽこっと動くことで快感から実感に変わったのだ。セックスしている、私は今、男と、彼とセックスしている。今までだったら考えられなかった。誰かと自分がセックスをするようなことになるなんて。セックスをしている時、彼は私に何度か好きとか可愛いとか、そんな女の子扱いするようなことを言ってくれた。セックスとは、男が欲望を満たすためにする行為だと思っていた。でも、違ったのだ。
「いい……?もう僕、だめかも」
「……いいよ」
彼を抱きしめて囁いた。セックスとは、女性が愛されていることを確かめる行為なのかもしれない。だからこそ、身体も心も気持ちよくて、そして愛を感じれば感じる程に、セックスという行為そのものの濃さも高まっていく。
一緒にイき果てた後、仲良くシャワーを浴びて、彼と私はベットに横になっていた。寝ている彼の横顔にキスをすると、彼は寝ぼけたまま私にキスをした。ティッシュで拭かれた精子がゴミ箱に捨てられている。あの捨てられた精子が私の子宮の卵子と結びついたら、さっき触ったここに、子供ができるのだ。何もなくなった中腹をさすりながら、天井を見上げた私は、目を閉じた。子供ができたらしばらくセックスはできなくなるだろう。
聖なる夜が更けていく。まだ子供はいいかと急激に変化していく女としての自分に思わずベットで笑みがこぼれた。
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