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地下アイドル♂は女装をする
【8】
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「………町田さん」
「ん?」
「どうして紀元前ソフィーが好きなんですか?」
突然の問いに町田は目を丸くしていた。そして口を噤んで何かを考えるような素振りを見せた後に、彼は酒で真っ赤に染まった頰をさらに染めながら小さく答え始めた。
「な、なんて言うか……俺の生き甲斐……みたいな感じなんだよ」
「生き甲斐……」
「たまたま街でポスターを見かけてさ、そこから何というか……す、す、好き……に……なって」
恥ずかしそうに告げる町田の姿に冬街は目を丸くして固まってしまう。
「……ポスターを見て好きになったんですか?」
心ここに在らずといった状態の冬街に気付かない町田はこくんと首を縦に動かし、言葉を続ける。
「でも一番、ああ良いなって思ったのは彼女の天使のような笑みが本当に綺麗で」
町田は酔ったせいか熱に浮かされたような眼差しを携帯の画像フォルダにある紀元前ソフィーに向け、そっと目を伏せた。まるで彼女に恋をしたかのように愛おしそうな表情を浮かべる彼に冬街はごくりと喉を鳴らす。
目の前の相手は自分を好きだと言う。その感情のベクトルがどこに向いているのかは分かっていないが、このおじさんは恋する少女のように自分のポスターを眺めている。
それが分かった途端、胸がドキドキと高鳴ったのだ。
「彼女の笑顔があればどんなに辛いことでも耐えれる。だから彼女は俺の生き甲斐なんだ」
こちらを向いてふわりと微笑む町田。それを見た途端、冬街は今までに感じたことがないような胸の高鳴りを感じていた。
「恋でもしてるみたいな顔してますよ」
冗談で告げると町田は動揺を見せ、慌てて冬街から目を逸らした。その姿はとても可愛らしくて、年上だということを忘れてしまうほどだった。
「か、からかうなよ!気持ち悪いだろ……」
「俺は気持ち悪いだなんて思ってませんよ」
自分が紀元前ソフィーだと間接的に教えてやろうと彼女の時と同じ「天使のような」笑みを浮かべると町田は固まった。
「彼女は喜ぶと思いますけど」
彼の頰へ手を触れ、人差し指でふにっと柔らかい頰を押す。硬直したまま動かない彼を見て冬街はククッと笑いをこぼした。
「もしかして触られるのは嫌でしたか?」
「……はっ!」
我に帰った町田は面白いくらいに取り乱し、顔を真っ赤にさせていく。そして何か言いたげに口をもごもごと動かした後に俯くと、ぼそりと呟いた。
「嫌じゃない……かも」
「ふふっ、それなら良かった」
冬街は愉快そうに笑うと町田の頰から手を離した。そして慌てふためく相手を見てクツクツと笑い声をこぼし続ける。彼が彼女のポスターを見て心奪われているのと同じように自分も彼のことが気になって仕方なかった。このおじさんが一体どんな人生を送ってきたのか、何が好きで何か嫌いかを知りたいと思った。
そして彼が欲しいと思ったのだった。
「俺、太郎さんのことが知りたい」
冬街は相手の目を真っ直ぐと見つめて呟いた。その言葉に町田は一瞬固まってから信じられないという風に瞼をパチパチと瞬かせている。まるで宇宙人でも見るかのような表情だ。
そんな姿がおかしくて冬街はまた笑いながら言葉を続けた。
「太郎さんのことが好きになっちゃいました」
「………は?」
冬街は呆然とする町田の隙をついて彼の手を握ると、まるで自分のもののように絡ませる。その行動に驚いたのか町田は肩をびくりと震わせた。
「ちょ、ちょっと……なにやって……」
「俺、善がらせる自信あります」
「ん?」
「男性経験もそこそこあります」
「ん!?」
冬街は戸惑う町田の瞳をジッと見つめながら、彼の手を自分の胸元へ持っていく。そして軽く吐息混じりに囁いた。
「もっと俺のこと知ってください」
するとその声と行為が何を意味するのかを理解したのか、町田は顔を真っ赤に染めて大慌てで首を横に振った。それはとても可愛らしい反応であるものの拒否の意思を感じて冬街は少しムッとする。男だからそのような行為は抵抗があるのだろうか?などと思考を巡らせていく。
「興味ありませんか?」
「だ、だって俺はお、男だぞ!」
その答えを聞くと冬街は堪えきれないといった様子で吹き出してしまう。お腹を抱えて笑い始めた相手に町田は自分がからかっているのかと気分を害した様子を見せたが、目尻に浮かんだ涙を拭いながら口を開く冬街の表情を見て彼が本気で言っているのだと知ることとなる。
「知ってますよ」
冬街のへにゃりと嬉しそうに笑ったその笑顔から目が離せない。キラキラと宝石のように輝く彼の瞳が町田の顔をしっかりと映し出す。町田はそんな綺麗な瞳に魅入られたかのように、彼が微笑む姿に釘付けになった。
「俺は太郎さんをドロドロに愛して、俺から離れられないようにしたいだけです」
それはあまりにも狂暴で美しい笑顔だった。
「ん?」
「どうして紀元前ソフィーが好きなんですか?」
突然の問いに町田は目を丸くしていた。そして口を噤んで何かを考えるような素振りを見せた後に、彼は酒で真っ赤に染まった頰をさらに染めながら小さく答え始めた。
「な、なんて言うか……俺の生き甲斐……みたいな感じなんだよ」
「生き甲斐……」
「たまたま街でポスターを見かけてさ、そこから何というか……す、す、好き……に……なって」
恥ずかしそうに告げる町田の姿に冬街は目を丸くして固まってしまう。
「……ポスターを見て好きになったんですか?」
心ここに在らずといった状態の冬街に気付かない町田はこくんと首を縦に動かし、言葉を続ける。
「でも一番、ああ良いなって思ったのは彼女の天使のような笑みが本当に綺麗で」
町田は酔ったせいか熱に浮かされたような眼差しを携帯の画像フォルダにある紀元前ソフィーに向け、そっと目を伏せた。まるで彼女に恋をしたかのように愛おしそうな表情を浮かべる彼に冬街はごくりと喉を鳴らす。
目の前の相手は自分を好きだと言う。その感情のベクトルがどこに向いているのかは分かっていないが、このおじさんは恋する少女のように自分のポスターを眺めている。
それが分かった途端、胸がドキドキと高鳴ったのだ。
「彼女の笑顔があればどんなに辛いことでも耐えれる。だから彼女は俺の生き甲斐なんだ」
こちらを向いてふわりと微笑む町田。それを見た途端、冬街は今までに感じたことがないような胸の高鳴りを感じていた。
「恋でもしてるみたいな顔してますよ」
冗談で告げると町田は動揺を見せ、慌てて冬街から目を逸らした。その姿はとても可愛らしくて、年上だということを忘れてしまうほどだった。
「か、からかうなよ!気持ち悪いだろ……」
「俺は気持ち悪いだなんて思ってませんよ」
自分が紀元前ソフィーだと間接的に教えてやろうと彼女の時と同じ「天使のような」笑みを浮かべると町田は固まった。
「彼女は喜ぶと思いますけど」
彼の頰へ手を触れ、人差し指でふにっと柔らかい頰を押す。硬直したまま動かない彼を見て冬街はククッと笑いをこぼした。
「もしかして触られるのは嫌でしたか?」
「……はっ!」
我に帰った町田は面白いくらいに取り乱し、顔を真っ赤にさせていく。そして何か言いたげに口をもごもごと動かした後に俯くと、ぼそりと呟いた。
「嫌じゃない……かも」
「ふふっ、それなら良かった」
冬街は愉快そうに笑うと町田の頰から手を離した。そして慌てふためく相手を見てクツクツと笑い声をこぼし続ける。彼が彼女のポスターを見て心奪われているのと同じように自分も彼のことが気になって仕方なかった。このおじさんが一体どんな人生を送ってきたのか、何が好きで何か嫌いかを知りたいと思った。
そして彼が欲しいと思ったのだった。
「俺、太郎さんのことが知りたい」
冬街は相手の目を真っ直ぐと見つめて呟いた。その言葉に町田は一瞬固まってから信じられないという風に瞼をパチパチと瞬かせている。まるで宇宙人でも見るかのような表情だ。
そんな姿がおかしくて冬街はまた笑いながら言葉を続けた。
「太郎さんのことが好きになっちゃいました」
「………は?」
冬街は呆然とする町田の隙をついて彼の手を握ると、まるで自分のもののように絡ませる。その行動に驚いたのか町田は肩をびくりと震わせた。
「ちょ、ちょっと……なにやって……」
「俺、善がらせる自信あります」
「ん?」
「男性経験もそこそこあります」
「ん!?」
冬街は戸惑う町田の瞳をジッと見つめながら、彼の手を自分の胸元へ持っていく。そして軽く吐息混じりに囁いた。
「もっと俺のこと知ってください」
するとその声と行為が何を意味するのかを理解したのか、町田は顔を真っ赤に染めて大慌てで首を横に振った。それはとても可愛らしい反応であるものの拒否の意思を感じて冬街は少しムッとする。男だからそのような行為は抵抗があるのだろうか?などと思考を巡らせていく。
「興味ありませんか?」
「だ、だって俺はお、男だぞ!」
その答えを聞くと冬街は堪えきれないといった様子で吹き出してしまう。お腹を抱えて笑い始めた相手に町田は自分がからかっているのかと気分を害した様子を見せたが、目尻に浮かんだ涙を拭いながら口を開く冬街の表情を見て彼が本気で言っているのだと知ることとなる。
「知ってますよ」
冬街のへにゃりと嬉しそうに笑ったその笑顔から目が離せない。キラキラと宝石のように輝く彼の瞳が町田の顔をしっかりと映し出す。町田はそんな綺麗な瞳に魅入られたかのように、彼が微笑む姿に釘付けになった。
「俺は太郎さんをドロドロに愛して、俺から離れられないようにしたいだけです」
それはあまりにも狂暴で美しい笑顔だった。
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