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地下アイドル♂は女装をする
【7】
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「町田さん、戻りました」
冬街が水が入ったビニール袋を手に持ってホテルへ戻ると、町田はベッドに座り込んでいた。俯いたまま動く気配がない。何かあったのだろうか?少し心配になり足早に駆け寄る。
「気分悪いですか?」
声をかけるとそれに反応するように顔を上げてこちらを見つめる。うるうるとした瞳に見つめられるとなんだか胸の奥が疼いたような気がして思わず視線を逸らしてしまう。先ほどのように安心感を与えたいと思っていたのにまたドキドキとしてしまって情けない気分だ。
「大丈夫……ただ頭が痛いだけ」
「一応、お水買ってきました。飲みますか?」
町田に袋を差し出すと彼は頷いて受け取った。その動作ですらフラフラとしていて危なっかしいため冬街が代わりに開けてあげるとお礼を言ってコップに口を付けた。しかし、中身は溢れてしまいびちょびちょになってしまったようで口元を拭っている様子が確認できた。
「お酒を無理に吞みすぎたんだ」
「君が煽ってきたからだろ………」
町田は笑いながら恨み言を言うと、空になったコップにまた水を注いでちびちびと飲み始めた。酔っぱらいながらも子供のような仕草に冬街は、思わず笑ってしまった。
「ははっ、子どもみたいでかわいいですね」
「女の子に言われるのは何だか恥ずかしいなぁ」
町田はカアっと顔を赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。かわいいと褒められたことが恥ずかしくなったのだろうか?それともやはりお酒のせいで赤くなっているだけか。分からないがどちらにせよ反応が可愛くて仕方がなかった。
こんなに純粋無垢な人が未だに世の中をのうのうと生きているだなんて信じられないほどだ。なぜこんな純粋な生き物が捕まらずに生きてこられたのか疑問だ。
「お前……」
不意に町田はぼそりと呟いた。「お前」というのは自分だろうか?と冬街が首を傾げると、町田はこちら凝視していた。詳細には冬街の頭髪なのだが。
「どうしました?」
「……お前……その髪…」
冬街が髪の毛を触ると、カツラの止め具部分が外れていることに気がついた。町田をここに運んだこと、水を買いに行く時などの行動で外れたのだろう。冬街はカツラが取れているのに気づかれてしまったことに慌てる素振りもなく、笑いながら告げる。
「ウィッグがずれて外れてしまったようです」
冬街は背中まで伸びたウィッグを外してみせる。深緑色ロングのウィッグの下から銀色の髪が現れた。
当然、ロングで隠していた顔の骨格も現れるわけで。中性的な顔つきだと言われていても男性の顔が露わになってしまう。
もう男だと正体を明かしたのだ。女声で騙す必要も無いだろう。
「騙してすみません。俺、男なんです」
町田は微睡んでぼんやりとした思考の中、目を見開き驚いていた。言葉も失うほど驚いている様子だった。
「騙すってそういう意味だったのか!?」
1拍置いて町田が大声で叫んだ。その声は掠れており、喉が嗄れている様子であった。
「え?それ以外に何があるんですか?」
「ハニートラップで、そういう系統の人に命取られたりするのかと思った……」
「なんですかそれ。借金でもしてるんですか?」
「いや、してないけど」
冬街はその言葉にクスクスと笑うと、町田も緊張が解けたのか釣られて笑った。先ほどまで泣いていたのが嘘のように今は機嫌が良くなっているようだ。ニコニコと笑っている姿は小さな幸せを一瞬感じるほど可愛らしいものだった。
「それにしてもすごい髪色だな。銀色なんて……地毛?」
「はい。銀色が好きなんです。綺麗でしょう?」
冬街は自慢げに髪をかきあげてサラサラと銀糸を流してみせた。町田はそんな冬街を見て目をキラキラと輝かせ、大きく頷いてみせた。
「ああ!すごい似合ってるな!」
子供のような笑顔と眼差しを向けられ思わず微笑んでしまった。なんだか可愛らしい。地下アイドル以外で認められることが少ないからだろうか……それともこのおじさんの人柄によるものなのだろうか。この人の肯定的な反応はとても嬉しくて心がむず痒い感じがしたのだ。
「町田さんは良い人ですね」
「な、なんだ。いきなり」
「お人よし過ぎるって意味ですよ」
そう告げると町田は照れながら口元を綻ばせた。きっと褒められ慣れていないのだろう。ここに来る前の居酒屋で彼は「孤独で独りで寂しい」と口に出していた。そして「君に会えて嬉しい」と酒にのまれながら、繰り返していた。
孤独で寂しくて誰かに肯定されたかったのだろう。それが本心であると冬街は思ってしまった。町田もまた孤独であることに寂しさを感じていて、誰かと繋がりたいのではないかと思ってしまったのだ。
なぜそのように考えるかって?自分もそうだからだ。
家族から愛されることなく過ごしてきた冬街は心のどこかで愛を欲していたし孤独であった。紀元前ソフィーは愛されても冬街零は愛されない。満たされない愛をこれから注がれていくのだと考えていた。
ふと、冬街は思い出す。町田は紀元前ソフィーのファンであることを否定しなかったなと。なぜ彼女……自分のことを好きになったのか。どんな出会いがあったのか、冬街は気になった。
冬街が水が入ったビニール袋を手に持ってホテルへ戻ると、町田はベッドに座り込んでいた。俯いたまま動く気配がない。何かあったのだろうか?少し心配になり足早に駆け寄る。
「気分悪いですか?」
声をかけるとそれに反応するように顔を上げてこちらを見つめる。うるうるとした瞳に見つめられるとなんだか胸の奥が疼いたような気がして思わず視線を逸らしてしまう。先ほどのように安心感を与えたいと思っていたのにまたドキドキとしてしまって情けない気分だ。
「大丈夫……ただ頭が痛いだけ」
「一応、お水買ってきました。飲みますか?」
町田に袋を差し出すと彼は頷いて受け取った。その動作ですらフラフラとしていて危なっかしいため冬街が代わりに開けてあげるとお礼を言ってコップに口を付けた。しかし、中身は溢れてしまいびちょびちょになってしまったようで口元を拭っている様子が確認できた。
「お酒を無理に吞みすぎたんだ」
「君が煽ってきたからだろ………」
町田は笑いながら恨み言を言うと、空になったコップにまた水を注いでちびちびと飲み始めた。酔っぱらいながらも子供のような仕草に冬街は、思わず笑ってしまった。
「ははっ、子どもみたいでかわいいですね」
「女の子に言われるのは何だか恥ずかしいなぁ」
町田はカアっと顔を赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。かわいいと褒められたことが恥ずかしくなったのだろうか?それともやはりお酒のせいで赤くなっているだけか。分からないがどちらにせよ反応が可愛くて仕方がなかった。
こんなに純粋無垢な人が未だに世の中をのうのうと生きているだなんて信じられないほどだ。なぜこんな純粋な生き物が捕まらずに生きてこられたのか疑問だ。
「お前……」
不意に町田はぼそりと呟いた。「お前」というのは自分だろうか?と冬街が首を傾げると、町田はこちら凝視していた。詳細には冬街の頭髪なのだが。
「どうしました?」
「……お前……その髪…」
冬街が髪の毛を触ると、カツラの止め具部分が外れていることに気がついた。町田をここに運んだこと、水を買いに行く時などの行動で外れたのだろう。冬街はカツラが取れているのに気づかれてしまったことに慌てる素振りもなく、笑いながら告げる。
「ウィッグがずれて外れてしまったようです」
冬街は背中まで伸びたウィッグを外してみせる。深緑色ロングのウィッグの下から銀色の髪が現れた。
当然、ロングで隠していた顔の骨格も現れるわけで。中性的な顔つきだと言われていても男性の顔が露わになってしまう。
もう男だと正体を明かしたのだ。女声で騙す必要も無いだろう。
「騙してすみません。俺、男なんです」
町田は微睡んでぼんやりとした思考の中、目を見開き驚いていた。言葉も失うほど驚いている様子だった。
「騙すってそういう意味だったのか!?」
1拍置いて町田が大声で叫んだ。その声は掠れており、喉が嗄れている様子であった。
「え?それ以外に何があるんですか?」
「ハニートラップで、そういう系統の人に命取られたりするのかと思った……」
「なんですかそれ。借金でもしてるんですか?」
「いや、してないけど」
冬街はその言葉にクスクスと笑うと、町田も緊張が解けたのか釣られて笑った。先ほどまで泣いていたのが嘘のように今は機嫌が良くなっているようだ。ニコニコと笑っている姿は小さな幸せを一瞬感じるほど可愛らしいものだった。
「それにしてもすごい髪色だな。銀色なんて……地毛?」
「はい。銀色が好きなんです。綺麗でしょう?」
冬街は自慢げに髪をかきあげてサラサラと銀糸を流してみせた。町田はそんな冬街を見て目をキラキラと輝かせ、大きく頷いてみせた。
「ああ!すごい似合ってるな!」
子供のような笑顔と眼差しを向けられ思わず微笑んでしまった。なんだか可愛らしい。地下アイドル以外で認められることが少ないからだろうか……それともこのおじさんの人柄によるものなのだろうか。この人の肯定的な反応はとても嬉しくて心がむず痒い感じがしたのだ。
「町田さんは良い人ですね」
「な、なんだ。いきなり」
「お人よし過ぎるって意味ですよ」
そう告げると町田は照れながら口元を綻ばせた。きっと褒められ慣れていないのだろう。ここに来る前の居酒屋で彼は「孤独で独りで寂しい」と口に出していた。そして「君に会えて嬉しい」と酒にのまれながら、繰り返していた。
孤独で寂しくて誰かに肯定されたかったのだろう。それが本心であると冬街は思ってしまった。町田もまた孤独であることに寂しさを感じていて、誰かと繋がりたいのではないかと思ってしまったのだ。
なぜそのように考えるかって?自分もそうだからだ。
家族から愛されることなく過ごしてきた冬街は心のどこかで愛を欲していたし孤独であった。紀元前ソフィーは愛されても冬街零は愛されない。満たされない愛をこれから注がれていくのだと考えていた。
ふと、冬街は思い出す。町田は紀元前ソフィーのファンであることを否定しなかったなと。なぜ彼女……自分のことを好きになったのか。どんな出会いがあったのか、冬街は気になった。
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