30代限界サラリーマンのおじさんは地下アイドル♂に❤︎される

ねむ太郎ネムの介

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地下アイドル♂は女装をする

地下アイドル♂は女装をする

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 冬街は女装をしながら地下アイドルとして仕事をこなしている。かつらを被り、化粧をして、女性らしい仕草と声色で観客を魅了する。声援に笑顔で応えながら、紀元前ソフィーの姿でステージの上で踊る。可愛らしい衣装に身を包み、軽やかにステップを踏む姿はまるで本物のアイドルのようだ。
 壇上から観客席を見ると、そこも地下ライブとは思えないほど煌びやかな世界が広がっており、沢山の観客が手拍子をして盛り上げてくれる。
  
 皆、冬街を見ている。
 自分だけを見ていてくれる。
 ここは誰にも無視されない、自分に存在価値があると思わせてくれる場所であった。

 「紀元前ソフィー」は冬街にとって特別な存在である。
 紀元前ソフィーとして活動し、自分を見てもらうことが冬街零の生きる糧だった。






 地下アイドルになりたいと思う理由は様々だ。アイドルになりたいから、金が欲しいから、有名人になりたいから、趣味として理由は人それぞれだろう。
 しかし、俺の場合「アイドルという職業に憧れる」というよりは「誰かに見てもらいたい」という願望があった。

 冬街は4人家族であった。家族構成は父、母、姉と冬街の4人家族で、幸せな家庭環境だったと言えるものではなかった。文武両道の姉のみを褒め称える両親、出来損ないの冬街。家族仲はお世辞にも良いとは言えず、冬街は両親から見放されていた。
 両親は出来損ないの冬街を嫌った。成績優秀で運動神経も良くてなんでもできる姉だけを可愛がり、出来損ないの弟である冬街を蔑んだ。姉は洗脳されて育ったようなものだ。冬街には無関心でただひたすら機械のように勉強と習い事をこなし、両親の期待に応えていた。
 育ててもらった恩はあれど、家族に情などなかった。期待するだけ馬鹿らしいと心にぽっかりと穴が空いたまま、冬街は生きてきた。
 家族に期待されなくなった冬街は、誰にも見向きされない存在となった。誰からも愛されず、誰も愛さない。それが冬街の生き方だった。
 そんなときだ。
 あれは高校生の頃。クラスで演劇を行うことになったとき。誰が女子役をするかという話し合いが行われた。男子校であったため、女子役を誰かやらなければいけなかったのだ。
 公正な話し合いの結果、くじ引きで冬街は女子役を引き当ててしまい、女装する羽目になった。最初の頃は流石に嫌で仕方がなかった。しかし、冬街は演劇の練習に真剣に取り組み、女装を完璧にこなしてみせた。
 そして本番当日。舞台の上に立ち、スポットライトを浴びると、観客から歓声が上がった。女子役が男子であることを知った上での歓声だった。皆、冬街を笑い者にしようと手を叩いていた。
 だが、劇が始まるとその笑い声は一瞬にして消えた。皆が冬街に見惚れていたからだ。性別の垣根を超えた美しい姿に惹かれたのだ。演技力の高さも相まってか、観客からは黄色い声が飛び交った。女子役に立候補した男子生徒を褒め称える者までいた。
 冬街はこの瞬間、初めて家族以外で認められた気がしたのだった。舞台の上でスポットライトを浴びながら、観客に歓声を浴びる。自分に向けられる視線の心地良さ、熱気、盛り上がり。冬街はこの感覚を忘れられないでいた。
 それ以来だ。冬街がアイドルを目指した理由は。
 家族から愛されることがなかった冬街は自分が認められるためには誰かに自分を見てもらうしかないと考えたのだ。それ故、女装して地下アイドルという特殊な職業を選んだのである。人が夢中になってくれることへの喜びと快感を知り、そしてそれらを失いたくないと思うようになった。
 そしてこれがきっかけで冬街は家族に隠れて女装を始めたのだった。アルバイト先も姉の名前を偽って女装カフェで働き始めた。皆冬街を可愛がってくれた。自分はこのまま女装をして生きていくのも悪くないかもしれないと本気で考えた。女物の服を貰い、化粧の仕方や仕草を学んだ。
 女装で過ごす冬街は普通の男子高校生からはかけ離れていた。勉強を疎かにしていた分、成績も悪くなっていたが、それでも構わなかった。
 家族以外の人に認められればそれで充分だったのだから。
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