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限界サラリーマンのおじさんは女装した銀髪の歳下に❤︎される
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「…………………推しがこんなにかわいい」
ペンライトを小さく左右に振りながら、ステージの上で踊る女性を見て絶叫するのではなく、呟いた。
他のファンは歌の間奏中にコールをしたりしているが、俺にはそんな余裕はない。目の前の生き甲斐を堪能するだけで精一杯なのだ。
紀元前ソフィーが地下ライブのステージ上で歌って踊っている。ファンたちに向けて手を振り、笑顔を見せる姿を見ると涙が出そうになる程感動してしまう。
俺の生き甲斐、俺の人生。
会社で嫌なことがあっても、人間関係が悪くても、この瞬間があるなら耐えられる気がするのだ。
「あぁー!もう最高!」
曲が終わり、最後の決めポーズをして、観客に向かって投げキッスをした所で、会場中が大きな歓声に包まれた。
俺は涙を堪えて、鼻水をすすりながら拍手をした。かわいい、かわいすぎる。目の前の地下アイドルが男だという認知がなければ。
ライブ後のチェキ会では、紀元前ソフィーちゃんと2人きりで写真を撮る事ができるのだが、今日はその時間すら待ちきれないほど疲れていた。
だからと言って、せっかくの機会を逃すわけにもいかないので、俺は必死に理性を保ちつつ、彼女と撮影するために列に並ぶことにした。
紀元前ソフィー(冬街)は列に並ぶ俺の姿を見つけるとぱぁあと誰が見てもわかるぐらい満面の笑みを浮かべた。写真ではなく、完全に俺へと意識が向いてしまっている冬街に対し、俺はジェスチャーでカメラの方を見るように指示をする。
すると彼はハッとした表情になり、慌ててファンとのチェキタイムに入った。うつつを抜かすな、とか、個人のファンだけを贔屓するような視線をやめろと、だとか、思うところは沢山あるけど、まぁ、周囲にバレてなければいいかなと思うことにしている。
だって、俺と紀元前ソフィー(冬街)が性行為をしているなんて誰も思わないだろ。
「次の方どうぞ~」
スタッフさんの声と共に、前の人がいなくなったのを確認してから、俺は前に出る。
そして、スマホを取り出し、写真撮影の準備に入る。
紀元前ソフィー(冬街)は待ちきれないと言った様子で、俺の腕を引いてくる。その勢いのまま、彼と抱き合う形になってしまった。
彼の体は華奢のように見えて筋肉質だった。身長差もあって、顔の位置が同じになるような体勢になっているため、吐息がかかる距離にある冬街の顔をまじまじと見つめてしまう。
近くで見ると余計に綺麗だと思った。長いまつ毛に大きな瞳、ぷっくりと膨らんだ唇、化粧もしていて、メイクも相まって、まるで別人のような見た目になっていた。
太郎さん、見過ぎ
聞こえるか聞こえないかのような声で囁かれた言葉に俺は聞こえないふりをして、無言を貫く。
「はいチーズ」
パシャリというシャッター音が鳴り響くと同時に、俺達は体を離した。
「ありがとうございました~また来てね」
スタッフさんの見送りの言葉を聞きながら、俺は地上へと続く階段を上っていく。
外に出ると、先程の熱気がまだ残っているのか、少し蒸し暑く感じられた。
俺は大きく深呼吸して、今日の戦利品である写真を見返す。そこには、頬を赤く染めながらも、嬉しそうに微笑む推しがいた。
「………嬉しそう」
冬街が俺だけに見せる特別な表情だ。俺だけが知っている秘密の宝物だ。
俺だけの推し。
俺だけが知っている顔。
俺だけしか知らない体。
俺が生きている理由であり、俺が生きる意味でもある存在。
「ってばかばか、いい歳したおっさんが気持ち悪いこと考えてんじゃねぇよ……」
自嘲気味に呟きつつも、俺の顔には自然と笑顔が浮かぶのであった。
ペンライトを小さく左右に振りながら、ステージの上で踊る女性を見て絶叫するのではなく、呟いた。
他のファンは歌の間奏中にコールをしたりしているが、俺にはそんな余裕はない。目の前の生き甲斐を堪能するだけで精一杯なのだ。
紀元前ソフィーが地下ライブのステージ上で歌って踊っている。ファンたちに向けて手を振り、笑顔を見せる姿を見ると涙が出そうになる程感動してしまう。
俺の生き甲斐、俺の人生。
会社で嫌なことがあっても、人間関係が悪くても、この瞬間があるなら耐えられる気がするのだ。
「あぁー!もう最高!」
曲が終わり、最後の決めポーズをして、観客に向かって投げキッスをした所で、会場中が大きな歓声に包まれた。
俺は涙を堪えて、鼻水をすすりながら拍手をした。かわいい、かわいすぎる。目の前の地下アイドルが男だという認知がなければ。
ライブ後のチェキ会では、紀元前ソフィーちゃんと2人きりで写真を撮る事ができるのだが、今日はその時間すら待ちきれないほど疲れていた。
だからと言って、せっかくの機会を逃すわけにもいかないので、俺は必死に理性を保ちつつ、彼女と撮影するために列に並ぶことにした。
紀元前ソフィー(冬街)は列に並ぶ俺の姿を見つけるとぱぁあと誰が見てもわかるぐらい満面の笑みを浮かべた。写真ではなく、完全に俺へと意識が向いてしまっている冬街に対し、俺はジェスチャーでカメラの方を見るように指示をする。
すると彼はハッとした表情になり、慌ててファンとのチェキタイムに入った。うつつを抜かすな、とか、個人のファンだけを贔屓するような視線をやめろと、だとか、思うところは沢山あるけど、まぁ、周囲にバレてなければいいかなと思うことにしている。
だって、俺と紀元前ソフィー(冬街)が性行為をしているなんて誰も思わないだろ。
「次の方どうぞ~」
スタッフさんの声と共に、前の人がいなくなったのを確認してから、俺は前に出る。
そして、スマホを取り出し、写真撮影の準備に入る。
紀元前ソフィー(冬街)は待ちきれないと言った様子で、俺の腕を引いてくる。その勢いのまま、彼と抱き合う形になってしまった。
彼の体は華奢のように見えて筋肉質だった。身長差もあって、顔の位置が同じになるような体勢になっているため、吐息がかかる距離にある冬街の顔をまじまじと見つめてしまう。
近くで見ると余計に綺麗だと思った。長いまつ毛に大きな瞳、ぷっくりと膨らんだ唇、化粧もしていて、メイクも相まって、まるで別人のような見た目になっていた。
太郎さん、見過ぎ
聞こえるか聞こえないかのような声で囁かれた言葉に俺は聞こえないふりをして、無言を貫く。
「はいチーズ」
パシャリというシャッター音が鳴り響くと同時に、俺達は体を離した。
「ありがとうございました~また来てね」
スタッフさんの見送りの言葉を聞きながら、俺は地上へと続く階段を上っていく。
外に出ると、先程の熱気がまだ残っているのか、少し蒸し暑く感じられた。
俺は大きく深呼吸して、今日の戦利品である写真を見返す。そこには、頬を赤く染めながらも、嬉しそうに微笑む推しがいた。
「………嬉しそう」
冬街が俺だけに見せる特別な表情だ。俺だけが知っている秘密の宝物だ。
俺だけの推し。
俺だけが知っている顔。
俺だけしか知らない体。
俺が生きている理由であり、俺が生きる意味でもある存在。
「ってばかばか、いい歳したおっさんが気持ち悪いこと考えてんじゃねぇよ……」
自嘲気味に呟きつつも、俺の顔には自然と笑顔が浮かぶのであった。
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