上 下
22 / 45
限界サラリーマンのおじさんは女装した銀髪の歳下に❤︎される

2

しおりを挟む
「お前はもう帰りなさい」

 やはり今日も残業になってしまった。時計の針は10を指す寸前だ。
 俺以外にも残っている社員はいたが、皆、疲れ切った表情をしていた。これ以上働かせるのは酷だと判断し、俺は部下たちに帰宅を促した。後輩や部下たちは驚いた表情をしながら否定していたが、「明日もあるから早く帰れ」と俺は言葉を返した。

「で、でも町田さんは?まだ帰らないんですか?」
「俺はもう少しだけやってから帰るよ」
「それって課長から押し付けられた仕事ですよね。僕たちのせいで遅くなってるのに、町田さんが残る必要はないじゃないですか」

 俺の上司である課長からの仕事を押し付けられていることを察した後輩が心配そうな顔をして俺を見つめていた。他の後輩たちも同じように不安げに俺の顔を見るものだから、俺は苦笑を浮かべながら大丈夫だと告げておいた。

「気にすんな。好きで残ったんだから」
「でも……」
「お前には産まれたばかりの幼い子どもがいるだろう。こんな時間まで付き合わせて悪かったな。ありがとう。ほら、帰った帰った!」

 妬みを含みながら無理やり追い出すようにすると、渋々といった様子で彼らはオフィスを出て行った。

 一人になった俺は、改めて自分のデスクを見渡す。
 山積みになっている書類、ファイル、資料。どれもこれもが期限ギリギリのものばかりだ。
 これを1人でするとなると、どれだけ時間がかかるだろうか。考えるだけで頭が痛くなるような量に思わずため息が出る。
 だがこれは、俺が選んだ道なのだ。
 誰かがやらなければいけない仕事だし、今の状況で仕事を放り投げるなんてことはしたくない。

「……やるしかないな」

 骨が折れそうな作業に覚悟を決め、俺は椅子に腰を下ろし、そして再びキーボードを叩き始めた。
 カタカタと音を立てて文字を打ち込んでいる最中だった。ふいに視界の端に何かが映った気がしたのだ。
 視線を上げるとそこには見覚えのある人物が立っていた。そこには先ほど帰らせたばかりの後輩たちの姿があった。

「お前ら……」

 どうして戻ってきたのか、そう聞こうとしたが、俺の言葉は後輩たちの声によって遮られた。

「俺たち、手伝いに来たんですよ」
「手伝う?」
「はい。少しでも力になりたいと思って」
「そっか……。気持ちは嬉しいけど、君たちも疲れているはずだ。無理はしなくていいからな」
「町田さんの彼女さんを待たせてるのにそんなことしてられませんよ」
「……え?」

 後輩の言葉に耳を疑う。
 俺に彼女なんていないし、女友達もいないのだが。一体何を言っているんだ。

「俺、町田さんにずっと甘えてばかりでしたから。たまには恩返しさせてください」

 その言葉を皮切りに次々と声が上がる。その目は真剣そのもので、とても冗談を言っているようには見えなかった。
 上司に毎回怒られ、会社に居場所はないと勝手に決めつけていたが、俺が思っているよりもこの会社は温かい場所なのかもしれない。

「ありがとう」

 俺は素直に感謝の言葉を告げて、早速、彼らに手伝ってもらうことにした。

「町田さんと彼女さんのために頑張りましょう!」

 熱意が籠った後輩の声を聞きながら、俺は書類に手を伸ばすのであった。



(彼女って誰だよ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...