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限界サラリーマンのおじさんは女装した銀髪の歳下に❤︎される
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カタカタとPCを叩く音、電話のコール音が響き渡るオフィスでひたすらキーボードを叩いている同僚たちを横目に、俺は黙々と作業を続けていた。
「せ、先輩!こ、ここここれ!見て下さい!」
気弱な後輩が震えながら目の前に現れるこの光景もいつものこと。隈がある俺を恐れているのか、それとも上司と同じように自分を叱ってくるのかと多分びくびくしている。そんなことしないのに。
「なんだよ」
俺は画面を見ずに返事をした。正直、今はそれどころではない。クソみたいな上司にバカみたいな仕事量を押し付けられているのだ。正直、今は面倒を見てやれないから勝手にやってろとしか思えない。けれども、つんけんした態度を後輩に見せるわけにもいかないため、俺は仕方なく顔を上げた。
「し、資料が完成しました……」
「わかった。後で確認するよ」
「あ……はい……わかりました」
そう言って自分のデスクに戻っていく後輩の薬指には指輪があった。結婚して一年経ったらしい。小さな子どももいるとかなんとか。
俺と違って守るべき家族がいる。なのに、毎日遅くまで会社に残り、必死に働いている。きっとあいつだって帰りたいはずだ。俺もそうだ。終電ギリギリまで仕事をすることなんてザラにある。
後輩の背中を見送りつつ、再びパソコンに向かったその時だった。後輩の背中を見つめていたが不意に机に置いてあったスマホが震えた。画面を見れば、そこには『冬街』の文字が表示されていた。
仕事中に電話をかけてくるなと散々言っているのに、とため息をつきつつ俺は立ち上がると、上司に声をかけて席を離れた。じろりと睨みつけられたが先方からと言えば疑われることはなかった。
「もしもし?」
紀元前ソフィーちゃんの声で電話に出た冬街に俺の心臓が一際大きく跳ね上がる。押しと電話で話している感覚に酔いしれそうになったが、なんとか堪えて平然な態度をとるよう努めた。
「どうした?」
「いや、別に用はないんだけどさ」
「用がないなら電話をしてくるなよ」
マイペースな冬街に振り回されるのにも慣れてきたと思っていたが、まだまだだったようだ。
「俺は仕事中なんだ。邪魔しないでくれるか?」
「いいじゃん。ちょっとくらい」
「良くない。俺はお前と違って忙しいんだ」
「へー、大変ですね」
「お前なぁ……!」
相変わらず人をイラつかせる天才だ。
こいつのこういうところはどうにかならないものなのか。
「太郎さん」
「なんだよ」
「黒髪のかつら、膝丈ぐらいのスカートに上は白シャツで待ってるね」
「は?なんのことだよ」
「仕事が終わるころぐらいに迎えに行ってあげるから、お仕事頑張ってね」
プツッ、ツー、ツー、という無機質な機械音を耳にしながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。
食材を説明している料理番組のような口調で、冬街が言った言葉が頭から離れない。
迎えに行くって……どういうことだ。ここに冬街が来るのか?女装をして、俺に会いに来るってことか?
そこまで考えた瞬間、一気に体温が上昇していくのを感じた。
落ち着け。冬街は俺を揶揄っているだけだ。きっとそうだ。あのちゃらけた髪色をしている歳下の男が、付き合いたての初々しい行動をするはずないだろう。
俺は自分に言い聞かせるように何度も深呼吸を繰り返した。
「……よし」
落ち着きを取り戻した俺は、気合いを入れ直すと、再びパソコンに向かった。
「せ、先輩!こ、ここここれ!見て下さい!」
気弱な後輩が震えながら目の前に現れるこの光景もいつものこと。隈がある俺を恐れているのか、それとも上司と同じように自分を叱ってくるのかと多分びくびくしている。そんなことしないのに。
「なんだよ」
俺は画面を見ずに返事をした。正直、今はそれどころではない。クソみたいな上司にバカみたいな仕事量を押し付けられているのだ。正直、今は面倒を見てやれないから勝手にやってろとしか思えない。けれども、つんけんした態度を後輩に見せるわけにもいかないため、俺は仕方なく顔を上げた。
「し、資料が完成しました……」
「わかった。後で確認するよ」
「あ……はい……わかりました」
そう言って自分のデスクに戻っていく後輩の薬指には指輪があった。結婚して一年経ったらしい。小さな子どももいるとかなんとか。
俺と違って守るべき家族がいる。なのに、毎日遅くまで会社に残り、必死に働いている。きっとあいつだって帰りたいはずだ。俺もそうだ。終電ギリギリまで仕事をすることなんてザラにある。
後輩の背中を見送りつつ、再びパソコンに向かったその時だった。後輩の背中を見つめていたが不意に机に置いてあったスマホが震えた。画面を見れば、そこには『冬街』の文字が表示されていた。
仕事中に電話をかけてくるなと散々言っているのに、とため息をつきつつ俺は立ち上がると、上司に声をかけて席を離れた。じろりと睨みつけられたが先方からと言えば疑われることはなかった。
「もしもし?」
紀元前ソフィーちゃんの声で電話に出た冬街に俺の心臓が一際大きく跳ね上がる。押しと電話で話している感覚に酔いしれそうになったが、なんとか堪えて平然な態度をとるよう努めた。
「どうした?」
「いや、別に用はないんだけどさ」
「用がないなら電話をしてくるなよ」
マイペースな冬街に振り回されるのにも慣れてきたと思っていたが、まだまだだったようだ。
「俺は仕事中なんだ。邪魔しないでくれるか?」
「いいじゃん。ちょっとくらい」
「良くない。俺はお前と違って忙しいんだ」
「へー、大変ですね」
「お前なぁ……!」
相変わらず人をイラつかせる天才だ。
こいつのこういうところはどうにかならないものなのか。
「太郎さん」
「なんだよ」
「黒髪のかつら、膝丈ぐらいのスカートに上は白シャツで待ってるね」
「は?なんのことだよ」
「仕事が終わるころぐらいに迎えに行ってあげるから、お仕事頑張ってね」
プツッ、ツー、ツー、という無機質な機械音を耳にしながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。
食材を説明している料理番組のような口調で、冬街が言った言葉が頭から離れない。
迎えに行くって……どういうことだ。ここに冬街が来るのか?女装をして、俺に会いに来るってことか?
そこまで考えた瞬間、一気に体温が上昇していくのを感じた。
落ち着け。冬街は俺を揶揄っているだけだ。きっとそうだ。あのちゃらけた髪色をしている歳下の男が、付き合いたての初々しい行動をするはずないだろう。
俺は自分に言い聞かせるように何度も深呼吸を繰り返した。
「……よし」
落ち着きを取り戻した俺は、気合いを入れ直すと、再びパソコンに向かった。
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