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地下アイドル♂は自分のファンである限界サラリーマンのおじさんを♡したい
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しかしここで反論すれば、嫌というほどその差を説明されるだろう。なので俺は仕方なく黙っておくことにした。
「わかったわかったから、とりあえず今日からご飯作ってあげるから」
「え!?」
「なにその反応」
嬉しくないのかよ。推しに料理を作ってもらうんだぞ。普通なら泣いて喜ぶはずだろう。
「いや……その……本当にいいのか……?」
「うん?」
抵抗しているというよりも、信じられないという表情をしている。なんなんだ。
「その……迷惑にならないか……?」
「なるわけないじゃん」
「ほ、本当か……?その……無理してないか……?」
なるほど。俺に負担をかけたくないのか。どこまで優しいんだろうこの人は、そんな心配はいらないというのに。
「あのね、太郎さん。何度も言うけれど、俺はあなたを愛してるんだ。好きな人が弱っていたら助けてあげたいし、元気にしてあげたいと願うものだよ」
「……」
納得がいかないのか、まだ不安げな顔をしている太郎さんに一度キスをする。彼はぶわぁっと顔を赤く染めながら、手を振り上げたが、ぷるぷると我慢するように震えていた。推しに手を出さないように必死に耐えているらしい。なんて健気な男だろう。
「き、キスをするな!……それに……その……そんなこと言っても騙されんぞ」
「なにが?」
「どうせ俺を騙して、エッチなことするつもりだろ」
「しないよ」
「嘘つけ」
「ほんとうだって」
疑い深い太郎さんは、俺がどれだけ好きだと伝えても信じてくれない。むしろ疑う気持ちの方が強くなっているような気がした。
「じゃあ……証明してくれ」
「その証明が今さっきのキスなんだけど」
みるみる顔を顰めていく彼を見て、少し笑いそうになる。
俺は紀元前ソフィーのときと同じように微笑むと、彼の頬を両手で包み込み、額に口づけを落とした。
「俺は太郎さんの生活のパートナーになりたいと思っている」
「うっ、そ、それは無理だろ……!」
「どうして?」
「だって、お前は紀元前ソフィーちゃんだろ」
「うん」
「ファンとアイドルは付き合えない」
「そうだよ」
「つまり、俺たちは結ばれちゃいけないんだ」
結ばれてはいけない。
それって、言葉の裏を返せば俺と本当は結ばれたいと思ってくれているということだよね。
太郎さんの言葉の真意を理解すると身体が熱くなっていく。奥底からドクンと何かが湧いて出てくる感覚を覚えた。
愛されている、本人から直接そう言われたわけではないけれど、そう思ってしまうのは自惚れだろうか。
「だから……」
「でもそれってさ、太郎さん」
言葉を遮るように、俺は彼に問いかけた。
「地下アイドルとファン、っていう関係が前提だろ?」
「だからそう言って説明してるじゃないか……」
「太郎さんこそ、俺の話聞いてた?」
「え?」
「俺が言いたいのは、紀元前ソフィーではなく、冬街零として太郎さんに愛を伝えたいってことなんだけど」
「……屁理屈こねるな」
「こねてないよ。公私は使い分けるのが社会人ってもんでしょ」
正論をぶつければぐうの音も出ないのか、悔しそうな顔で睨みつけられる。
この人、本当にわかりやすいな。
「で、返事は?」
夏の季節、冷房をつけているとはいえ、布団の中にいたら汗をかいてしまう。じんわりと背中が湿っていくのを感じながらも、俺は答えを急かす。
太郎さんは目を泳がせて、口をパクパクさせていた。即座に否定されないということは、少なからず期待を抱いてもいいということだろう。それでも、なかなかイエスと答えられないのは、羞恥心や今までの価値観などが原因かもしれない。
「まあ、すぐにとは言わないよ」
「……」
「ゆっくり考えて、それで……もし、OKしてくれるなら……その時は教えてね」
自分より背の低い彼を見下ろしながら、俺は優しく諭すように助け舟を出した。
「……うん」
太郎さんは小さく呟いたあと、またもや芋虫のような動きをして隠れてしまった。
「わかったわかったから、とりあえず今日からご飯作ってあげるから」
「え!?」
「なにその反応」
嬉しくないのかよ。推しに料理を作ってもらうんだぞ。普通なら泣いて喜ぶはずだろう。
「いや……その……本当にいいのか……?」
「うん?」
抵抗しているというよりも、信じられないという表情をしている。なんなんだ。
「その……迷惑にならないか……?」
「なるわけないじゃん」
「ほ、本当か……?その……無理してないか……?」
なるほど。俺に負担をかけたくないのか。どこまで優しいんだろうこの人は、そんな心配はいらないというのに。
「あのね、太郎さん。何度も言うけれど、俺はあなたを愛してるんだ。好きな人が弱っていたら助けてあげたいし、元気にしてあげたいと願うものだよ」
「……」
納得がいかないのか、まだ不安げな顔をしている太郎さんに一度キスをする。彼はぶわぁっと顔を赤く染めながら、手を振り上げたが、ぷるぷると我慢するように震えていた。推しに手を出さないように必死に耐えているらしい。なんて健気な男だろう。
「き、キスをするな!……それに……その……そんなこと言っても騙されんぞ」
「なにが?」
「どうせ俺を騙して、エッチなことするつもりだろ」
「しないよ」
「嘘つけ」
「ほんとうだって」
疑い深い太郎さんは、俺がどれだけ好きだと伝えても信じてくれない。むしろ疑う気持ちの方が強くなっているような気がした。
「じゃあ……証明してくれ」
「その証明が今さっきのキスなんだけど」
みるみる顔を顰めていく彼を見て、少し笑いそうになる。
俺は紀元前ソフィーのときと同じように微笑むと、彼の頬を両手で包み込み、額に口づけを落とした。
「俺は太郎さんの生活のパートナーになりたいと思っている」
「うっ、そ、それは無理だろ……!」
「どうして?」
「だって、お前は紀元前ソフィーちゃんだろ」
「うん」
「ファンとアイドルは付き合えない」
「そうだよ」
「つまり、俺たちは結ばれちゃいけないんだ」
結ばれてはいけない。
それって、言葉の裏を返せば俺と本当は結ばれたいと思ってくれているということだよね。
太郎さんの言葉の真意を理解すると身体が熱くなっていく。奥底からドクンと何かが湧いて出てくる感覚を覚えた。
愛されている、本人から直接そう言われたわけではないけれど、そう思ってしまうのは自惚れだろうか。
「だから……」
「でもそれってさ、太郎さん」
言葉を遮るように、俺は彼に問いかけた。
「地下アイドルとファン、っていう関係が前提だろ?」
「だからそう言って説明してるじゃないか……」
「太郎さんこそ、俺の話聞いてた?」
「え?」
「俺が言いたいのは、紀元前ソフィーではなく、冬街零として太郎さんに愛を伝えたいってことなんだけど」
「……屁理屈こねるな」
「こねてないよ。公私は使い分けるのが社会人ってもんでしょ」
正論をぶつければぐうの音も出ないのか、悔しそうな顔で睨みつけられる。
この人、本当にわかりやすいな。
「で、返事は?」
夏の季節、冷房をつけているとはいえ、布団の中にいたら汗をかいてしまう。じんわりと背中が湿っていくのを感じながらも、俺は答えを急かす。
太郎さんは目を泳がせて、口をパクパクさせていた。即座に否定されないということは、少なからず期待を抱いてもいいということだろう。それでも、なかなかイエスと答えられないのは、羞恥心や今までの価値観などが原因かもしれない。
「まあ、すぐにとは言わないよ」
「……」
「ゆっくり考えて、それで……もし、OKしてくれるなら……その時は教えてね」
自分より背の低い彼を見下ろしながら、俺は優しく諭すように助け舟を出した。
「……うん」
太郎さんは小さく呟いたあと、またもや芋虫のような動きをして隠れてしまった。
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