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王都治安維持部隊

過去4

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俺達が仲間を助けに行った日から数日が経っていた。
正体不明の集団はギャングより安い値段で超薬を売り捌き、勝手に賭場を開いたりとやりたい放題をして街を荒らしていた。
ギャングは小競り合いを起こしつつも穏便に対処していたがいつ大きな争いが起きてもおかしく無かった。

溜まり場であるバーの店内はギャングの構成員で満席になっていた。
俺とガムはバーの隅でビールを片手に店内を見ていた。

「おい、お前ら静かにしろ」

騒いでいた男達はトカイの一喝で静まり返る。

「奴らの拠点がわかった、今日集まってもらったのはそのためだ」

ざわつき始める店内。
正体不明の集団の居場所がわかったのだ。

「今日はボスも来ている」

トカイのその言葉に一同はまた静まり返った。
そして、トカイの後ろから一人の大男がやってきた。
数回しか見たことはなかったがその男はボスだった。

「よぉ、久しぶりだな……皆んなの邪魔をしてきた正体不明の奴らを今から潰しに行く」

店内は歓声に包まれていた。
俺達のように敵と小競り合いをしたものも少なくない為ギャング内では敵に対する鬱憤が溜まっていた。

「ついてきてくれ」

ボスの一言でギャングが大移動を始めた。
みんな活気に満ちていた。

「いよいよだな、ガム」

「ああ、まあな」

俺は隣のガムに話しかけたが反応が薄い。それどころか浮かない顔をしていた。

「どうしたんだ?……ヌマエラの事か?」

「ああ……いや、ヌマエラの事は良い、アイツは帰ってきた」

「そうだったのか、よかったな」

「ああ、まあな」

ガムの暗い表情は暗い。普通なら喜んでも良い。気にはなったがある程度の予想は出来る。
しかしそれは襲撃前の今聞く事ではない。

「おい、お前ら、ちょっと」

トカイが話しかけてきた。

「なんですか?トカイさん」

「一応、持っとけ」

と、トカイはナイフを二つ差し出した。

「別に殺せって言ってるわけじゃねぇ、もし危なくなったらやられる前にやれ」

「わかりました」

「はい」

珍しく真剣なトカイに少し緊張しながらも俺とガムは受け取った。



ボスの率いるギャング達が繁華街を闊歩する。街ゆく人は道を譲り遠目にみていた。
しばらく歩くととある酒場の前に着いた。

「お、お前ら、なんだよ」

集団にビビっているのか、店の前に立っていた男が途切れ途切れの言葉で先頭に立つボスに言った。

「お前ら、このベツィアでおいたしすぎだ」

そう言ったボスは男の顔面に前蹴りをぶち込んだ。
男は店のドアから店内まで吹っ飛んだ。

「いくぞぉ」

「おおおお」

それを合図にギャングが店内に傾れ込んだ。
俺達が店の中に入った頃には中はぐちゃぐちゃになっていた。
男達が乱戦で殴り合っていた。
怒号と酒瓶が割れる音、机や椅子が壊れる音、さまざまな音が飛び交っていた。
俺は知らない顔を片っ端から殴って行った。
敵は急な奇襲に狼狽えているのか、思ったより弱かった。

気づけば店内には数人の敵が倒れ後はいなくなっていた。対するギャングはほとんど無傷と言って良い状態だった。

「撤収だ、撤収」

そう、周りが騒ぎ出す。
俺は店内を見渡す。カウンターの奥で佇むガムを見つけた。

「おい、撤収だってよ、憲兵が来る前に行こうぜ」

「え?…ああ、そうか」

驚いた顔のガムの前にはバーテンダーの服を着た男が息を荒くして倒れていた。
腫れた顔面に大量の血。
腹には、ナイフが刺さっていた。それはさっきトカイに貰ったナイフだった。
男は息はあるもののもうじき死ぬというのが素人目でもわかるほど弱っていた。状況的にはガムがやったのだろう。
ギャングをやっていれば別に珍しい事じゃない。俺もいつかは、と思っていたつもりだった。

「早く……行こうぜ」

「ああ」

俺達は店から逃げ、バーに行き各自解散となった。
俺は結局クガンに殺しの事を聞けなかった。

「なあクガン、ちょっと飲まねぇか?」

「ああいいけど、ヌマエラ、帰ってきたんだろ?」

「いいんだよ……」

俺とガムは行きつけの酒場へと入った。
いつもの席に座り店員の女にビールとソーセージを頼む。

「珍しいな、お前が飲みたいなんて」

「いや、まあ、色々あったからな」

「ヌマエラの事か?」

ガムの表情が一瞬固まったがすぐに普段の顔に戻った。

「ヌマエラは奴らに薬を貰っていた」

「奴らって正体不明の」

「ああ、そうだ」

ガムは街中の売人にヌマエラには薬を売るなと脅していた。
そんなヌマエラが薬を手に入れるには奴らを頼るしかない。

「クガン、今日お前見ただろ?」

「なにをだよ」

脳裏に浮かんだのは血を流し弱っていた男。

「俺が殺した男だよ……俺ははなからアイツを殺す気だったんだ」

「じゃあ、アイツが、ヌマエラに?」

「多分な、ヌマエラは店のマスターって言ってた」

ガムはそう言って黙った。
テーブル上の手は震えていた。

「でも、いいじゃねぇか、覚悟決めてやったんだろ?」

「ああ……でもさ、俺、気づいちゃったんだ」

急にガムの声が弱々しくなった。

「奴らは正体不明なんかじゃない、奴らは俺の同胞だ」

ガムの言う同胞がどうゆう意味を内しているのかは知っていた。
そしてなぜ奴らがこの街に来たのか、どんな理由なのか、大体の察しがついてしまった。

「じゃあ、奴らは」

「ああ、俺と同じ西方人だ」

「で、でもなんでそんな事が」

なぜガムには奴らが西方出身者だと分かったのか、それを聞こうとした時遮るようにガムが口を開いた。

「奴がつけていたペンダント、あれは俺の町のマークだ」

ガムが聞いた事を思い出していた。
西方地区では町、村ごとにマークがあり、大人と認められた者にはそれのペンダントが送られると、そしてそれに憧れていたと。

「じゃあ、あの男は」

「同郷だ、あの地獄を生き抜いた同胞だったんだ、それに他の奴らも、色んな街のペンダントつけてた」

ガムは泣いていた。
ガムの涙はヌマエラの薬を抜いていた時ぐらいしか見た事がない。
それほど悲しい事なのだろう。
正直俺にはわからない、同じ町の出身者にそこまで情が湧く感覚が。
しかし、ガムはそれだけの経験をしたのだろう。

「アイツらは俺と同じなんだよ、帝国に無茶苦茶にされて、行くあてが無くて、働いたってロクに食っていけねぇ、だから…」

ギャングになった。
それはガムとなんら変わりがない。

「それでも奴らは、ヌマエラに、お前の女に薬を売った」

「俺だっておんなじだ」

「そんなの関係ねぇだろ、欲しいもの手に入れるためにはどんな事だってする、そうだろ?」

ガムの言う通り薬を扱っているのは俺たちも同じだった。誰かの大切な家族を不幸にしている。
道理で言えば文句は言えない。しかしそんな道理はクソ喰らえだ。
そんなものはいくらでも変えられる。
金か権力か、暴力さえあれば。

「そうだな」

ガムは泣きながらも笑っていた。

「ガム、お前なんでギャングになった?」

「戦争は地獄だった、けど終わった後も地獄だった……貧しさと一人しかいない家から逃げようとこの街に来た、けどそれは変わらなかった……だから、変えるために」

親も仕事も金もない子供が大金を稼ぐ方法、それは俺が考えられるだけでけつを売るか裏社会に入るか、選択肢は少ない。

「俺も同じだよ、二人で上に上がろうぜ」

俺たちは深夜まで飲んでいた。












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