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王都治安維持部隊
第二任務
しおりを挟む「今回の標的はウィルと言う商人の男よ……はい、これ」
クガンの初任務から数日後、第一特別班の詰所では次の仕事の打ち合わせが行われていた。ラフィアが標的の名前と職業を言った後、紙を各々に配る。
ウィル 商人 三十三歳
出身は西方地区アラム村(壊滅)
六年前の戦争に巻き込まれ故郷を失った後バルガにて難民生活を経た後、行商人として商売を始める。
それなりの成功を収め現在王都にて自身の店を営業。主な取り扱いは貴金属。
バルガで出会ったリンと結婚し、現在は四歳の娘エマがいる。
最近匿名で大量の鉄製品を買い漁っており、その資金源や買い付けた鉄の行方が分かっていない。
紙にはそう書かれていた。西方出身者の小商人が自らの事業の規模に見合わない額の鉄を買い付け更には品の行方もわからない。
「これは、裏は何処ですかね」
レインが反応する。裏とは反ガシス勢力の事だ。しかも鉄を集めるという事は儲けを出したいという可能性は低い、それならばもっと金になるものはいくらでもある。
奴らは何をしたいのか、それは戦争の準備である可能性が非常に高い。買い付けた鉄を使い武器や防具を製造するのだ。
「鉄なんて裏で流しても効率悪く無いですか?……それとバルガってなんですか?」
クガンには全く理解できてないでいた。そんな彼の反応に対しラフィアとレインは苦笑いしガーナは頭を抱えながらため息を吐く。
「レイン?説明お願いできる?」
「わかり、ました……」
ラフィアがレインに振る。レインは返事をした後少し考える素振りをした後説明を始めた。
「まずクガンくん、裏っていうのはブラックマーケットのことじゃ無い」
「え?……ああ、そうですよね……じゃあなんなんです?」
「ウィルに金を渡して鉄を買ってもらってる個人か組織、多分組織だね」
「そう言う事ですか……でも何でですか?」
「武器を作る為、私達や王政と戦争するためにね」
ガーナが会話に入った。
「えっ……ああ、確かにそう考えれば」
クガンはようやく納得した。
「それとバルガは街の名前ね、西方絶対防衛線上の……パール王国西方方面軍の本拠地」
ガーナは憂いを帯びた表情をしていた。
「ああ、そうゆうことか」
クガンはガーナの様子に気づいたがあえて何も触れなかった。
「クガンも一通りの事はわかったかしら?」
ラフィアの問いかけにクガンは頷いた。
「今回の作戦はウィルの身柄の確保、殺してはいけない……なんとしても生け取りにして
資金の流れを解明するのよ」
数日後の夜。
第一特別班の面々は大通りを歩いていた。
群がる視線には目もくれず目的地を目指し歩く。その様子は少し急いでいるようで足の回転が早い。
つい先ほど、とある情報がもたらされた。
ウィルが反王組織、西方同盟の構成員と見られる男と酒を飲んでいるというものだった。
第一特別班は急遽招集されきちんとした作戦会議も無しに駆り出されていた。
「みんなごめんね、いきなり仕事だなんて」
ラフィアは笑いながらも申し訳なさそうにしていた。
「いえ、仕事ですから」
「気にしないでください」
「大丈夫ですよ」
各々答えたが皆内容は同じだった。
本当の心の内はわからないがその表情は嘘をついているようには見えない。
それを見たラフィアは少しほっとした様な表情に変わった。
一行は店の入り口が見える路地に身を隠す。
急遽だが考えた作戦は標的が店から出た瞬間に仕掛けるというものだった。
店の中で事を起こせば店や他の善良な市民に迷惑をかける。更に戦闘になれば混乱から敵を取り逃す可能性も出てくる。
外で行うのは一番理に適っていた。
「良い?もし敵の仲間が居たらすぐに逃げるのよ」
とラフィアが街の人間を見渡しながら言った。もし敵が多く潜んでいたら……立場は逆転する。
「ふぅーー」
クガンは前回の事を思い出し少し緊張をしていたため深呼吸をしていた。今日も前の様な状況になるのか、と少し憂鬱を感じていた。
「ヨガでもやってるの?」
そんなクガンにガーナはニヤニヤしながら反応した。
「いや、少しリラックスしようかなって」
「リラックスねぇ、覚悟決めれば自然と動けるよ」
またからかわれると思っていたが意外に真っ当なガーナの意見にクガンは驚いた。そして覚悟を決めようと頭を巡らせた。
這い上がる。
もうあの街には戻らない、二度と。
過去を思い出す。ギャングにヌマエラ、そして自身が殺した男。
目を瞑り、大きく深呼吸した後目を開いた。
緊張感はあるもののリラックスした不思議な状態になっていた。
「敵が出て来たよ」
レインの一言で全員が目線を店に向ける。
中から髭を生やした黒髪の男と茶髪の男が出て来た。
情報によれば茶髪がウィル、そして黒髪の髭を生やした男が西方同盟の男だろう。
「周囲に敵の気配は無いけど……わからないわ、みんな油断しないでね、じゃあ行くわよ」
第一特別班は走り出した。
店の前で談笑していた二人はこちらに気付いたが時は既に遅かった。
四人は二人を取り囲み剣を抜いていた。
「お、お前らは何者だ?」
ウィルが驚きながら質問した。
「私達は王都治安維持部隊第一特別班、ウィルさん、そちらの方は?」
ウィルの問いかけにラフィアが剣を向けながら答えた。
第一特別班の名を聞いた途端二人は目を見開いた。その表情は驚きと恐怖に満ちていた。
「さ、殺戮集団が」
髭の男が懐からナイフを取り出して正面のラフィアに襲い掛かろうとした、が側面に立つレインの剣が喉元に突きつけられ、動きを止めた。
「私達は貴方達に危害を加えたくありません……大人しく着いて来てくれますか?」
「ふ、ふざけるな、俺達は何もやっていない」
ウィルはラフィアに対してそう言い放った。
「そんな事は後でいいじゃ無いですか?貴方の身が潔白ならすぐに家族の元へ帰れますよ?……それとも何か後ろめたい事でもおありで?」
「い、いや、そ、そんな事は無い、が」
しどろもどろになったウィルを髭の男は一瞥した後ため息を吐いた、そしてナイフを捨てた。
「わかったよ、大人しくしようぜ兄弟」
と、ウィルと、肩を組んだ。
「待て、離れろ」
すかさずレインが男に命令した。
「なんだよ、肩を組むのもダメなのか?」
「だまれ」
「ビビりすぎだろ、えぇ?天下の殺戮集団様も大した事ねぇな」
「黙ら無いなら刺すぞ?」
男は不満そうに口を閉じ、ウィルから離れた。レインはそれでも剣を向け続けていた。
「降参だよ、お前らに従う、だから剣を下ろしてくれないか?」
ウィルはラフィアに向かってそう提案した。
「いいわ、けど身体検査をさせて貰うわ、まだ武器を持っている可能性があるから」
「わかった……」
ウィルと髭の男は両手を上げた。
「まずそこに両手をつけて」
ラフィアの指示に従い店の壁に両手をつける二人。ガーナとクガンが刃を向けながらレインが髭の男の体を弄る。
「よし、大丈夫みたいっぢい」
一瞬の隙をついた男はレインに殴りかかっていた。
「おらぁぁ、調子こいてんじゃねぇぞ」
「クソ」
すぐさまガーナが切り付ける、がその刃を男は素手で受け止めた。男の手から血が滴り落ちる。普通の神経では簡単にできる事では無い。男の覚悟と経験が感じられた。
「良い太刀筋だな、ねえちゃん……の女狐が今となっちゃ、武闘派か?」
男に何かを言われたガーナの表情は一瞬歪んだがすぐに元に戻った。
「へぇ、どっかで会ったっけ?」
「なあに、気にすんな、話した事はない」
男は刃を振り落とす。ガーナは構え直し切先を男に向ける。背後にはクガンが剣を向けタイミングを見計らっていた。
「やってくれたね」
レインも立ち上がり剣を向ける。鼻血を出した顔は怒りに満ちていた。
「待って、ウィルがいないわ」
ラフィアが叫んだ。
ウィルの姿はどこにも無い。時間的にそう遠くには行けない、店に入ったと想像するのは容易だった。
「ガーナ、クガン、貴方達はウィルを追って」
「はい」
「わかりました」
ラフィアの指示通り二人は店の中へと入って行った。
「さてと……どっちがくる?」
男は壁を背にラフィアとレインを交互に見ていた。
「一応聞くけど投降する気は、ある?」
「あるように見えるか?上品なお嬢ちゃん」
ラフィアの問いかけに男は挑発で返した。
「レイン、やっちゃって」
と、ラフィアは剣を納めた。それを見た男は腹を立てた。
自分が舐められていると感じたからだ。自分を殺すのに二人もいらない。
そう言われたようで腑に落ちない。しかし、これはチャンスでもある。
あの優男を殺した武器を奪い。あの見るからに金持ちの嬢さんを殺して生き残る。それはこの状況下ではとても難しい、だがその可能性が上がった。男は構える。
そんな男に対しレインは剣を納めた、しかし剣のグリップは握ったままだ。
お互いに見つめ合う。街の生活音、風、互いの呼吸音、自らの心臓。
普段なら気にも留めない音が二人には聞こえていた。
そして男の首は宙を待っていた。レインの超速の居合によって。
「流石ねレイン、貴方の居合は最高よ」
「ありがとうございます」
ラフィアの賛辞の言葉にレインは嬉しそうに礼を述べた。
中からクガンとラフィアが戻ってきた。二人の表情は暗い。
「すみません、取り逃してしまいました」
ガーナが申し訳なさそうに言った。
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