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青年は王の座を拒み、辺境の街に不穏が漂う

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 王都より遥か離れた田舎街では、小麦の収穫が一段落ついた所だった。今年は良好な収穫量に恵まれ農民達の表情は明るい。

 この小さな街で警備隊員に所属しているコリトの表情も明るかった。いや、緩みきっていると言ったほうが正しかった。

 コリトは幸せの絶頂だった。昨日恋人に求婚をして承諾してもらったからだ。やはり、この街に魔物の群れが大挙して襲来したのを退けたのが大きかったのか。

 街の住民は知らされてなかったが、どこで知ったのかコリトの恋人はその事件を知りコリトを褒め称えた。

 求婚するなら今しか無い。コリトは見事に恋人を伴侶にする事に成功した。

 秋が深まったせいか、頬を撫でる風が少し冷たかった。コリトはこの幸福を誰かにも分けてあげたい気分だった。

 コリトは中央広場を通る途中に、元同僚を見つけた。

「おいシリス。昼間から何を飲んだくれているんだ?」

 声をかけられた女は、芝生に座り白ワインを飲んでいた。瓶の中身は既に半分以上無くなっていた。

「······ほっといて。私はもう警備隊員じゃないんだから」

 シリスは頬を赤く染めながら、据わった両目でコリトを睨む。シリスが突然警備隊員を辞めてから一週間。コリトにはその理由など知る由もなかった。

「やあシリス。飲むんだったら誘ってよ。つれないなあ」

 コリトの後ろから急に黒髪の少年が現れた。髪だけでは無く衣服から靴まで黒づくめだ。

「あ、エルド。シリスがこのザマでさ。なんとか頼むよ」

 コリトは頼りになる年下のエルドに助けを求めた。エルドは笑顔で了承してくれ、コリトは安心して恋人の元へ向かった。

「······あれから一週間も経つのに、まだ落ち込んでいるの? シリス」

 エルドはシリスの隣に座り、優しく語りかける。その返事を返す前にシリスはグラスを空けた。

「······エルドには分からないわ。私の気持ちなんて」

 一週間前。シリスはウェンデルに自分の目的を話した。オルギス教団が皇帝の剣を継ぐものを探していた事。その者を王に迎える事を。

 だが、ウェンデルは丁重にその話を断った。ウェンデルは目の前の弱き人達を助ける為に剣を振るうとシリスに断言した。

 シリスが何度説得しても結果は同じだった。念願の探し人を目の前にして目的を果たせない歯がゆさがシリスを苛立たせていた。

「シリスはなぜオルギス教を信じるようになったの?」

 エルドは芝生に長い足を放り投げ寝転んだ。

「······私は戦災孤児だったの。教団はそんな私を保護してくれたわ」

 シリスの視線の先のあるワインボトルには、何処か遠い目をした彼女の両目を映していた。

 教団の教えに心酔していると言うより、育てて貰った恩義の義理立てか。エルドは内心そう感じた。

 同時にエルドは思う。戦災孤児施設はどんな国でも同じだと。その施設を作った者の都合の良い人材を育てようとする。

 教団の目論見通り、シリスは教団の為に皇帝の剣を継ぐものを探索していた。後で知ったが、警備隊員の給料の半分は教団に寄付していたと言う。

 オルギス教団は純粋な信者達の寄付で成り立っているらしい。庶民の血税の上にあぐらをかいている王達と同列だ。エルドは教団の正体を看破していた。

「教団本部があるカリフェースには、もう知らせたんでしょ? ウェンデルを見つけただけでシリスは大手柄だよ。後は本部に任せるといい」

 エルドはこの同い年の少女に教団の本質を語る事なく労いの言葉を選んだ。この娘は自分と違って純粋だ。

 その澄んだ心の水をわざわざ汚す事はない。エルドはそう考えた。

 全身が正義で出来ていると揶揄される紅茶色の髪の青年は、盗賊退治の依頼を終えて街に帰ってきた所だった。

 ウェンデルは冒険者職業安定所の受付で事後処理を済ませ、建物を出た所でタクボに出会った。

「これはこれは。カリフェースの玉座を蹴飛ばした青年じゃないか。依頼帰りか?」

 タクボの言葉には険がある。紅茶色の髪の青年はそう感じた。魔物の群れの報酬の一件をまだ根に持っているらしい。

「タクボ。恨みを長く持つと精神衛生上良くないぞ。チロルの教育上にもな」

 タクボはウェンデルの物言いがかんに触った。チロルを引き合いに出すのは卑怯だと。

「ふん。まあいい。それよりなんで一人なんだ? エルドをどうして連れて行かない?」

「この皇帝の剣を操る為の訓練も兼ねているからな。それにエルドを付き合わせるのは悪いと思ってな」

 ウェンデルは腰にある剣の鞘を触りながらそう言った。

「だったらエルドにそう言った方がいいぞ。彼はそう思ってないかも知れない。自分はウェンデルに必要とされてないと考えているかもしれん」

 ウェンデルは両目を見開きタクボを見つめる。 

「······いや、それは考えもしなかった。タクボ。忠告ありがとう。さすが年の功だな」

 紅茶色の髪の青年は笑顔で礼を述べる。年の功は余計だと言い残し、練達の頂きに達する魔法使いは去って行った。

『······なぜカリフェースへ赴かない? あそこへ行けば一国が労せずに手に入る。それを基盤にし領土を広げる事も可能だぞ』

 ウェンデルの中の誰かがそう呟く。その声には、怒りと落胆の感情が入り混じっていた。

『オルギス。貴方も私の言葉を聞いていた筈だ。私にはそんな器量も野望も無いよ』

 紅茶色の髪の青年は、自分の中にいる居候をなだめるかのように穏やかに返答する。

『······愚かな。男なら一度は王たらんとする事を望む筈だ。ここまで変わった男とはな』

 オルギスの声は失望を隠そうとしない。

『オルギス。貴方が世界を統一する迄の過程にはいろいろ苦労があったと思う』

『······無論だ。泥水を啜り。信頼していた部下に寝首を狙われ。敵の白刃が喉元をかすめた事もある』

『その流血の山の頂きに王座があったか。オルギス。私は臆病な人間だ。その山から流れる血を見ただけで身が怯んでしまう』

 オルギスの苛立ちは怒りに変化して来た。なんと言う惰弱さ。自分は甦らせたのはこんな男だったのかと。

『······ならば一思いに』

『私の身体を乗っ取るか? オルギス』

 オルギスは内心で絶句した。この男は心を読めるのかと。

『オルギス。私がこの剣を手放さない限り、貴方とは一心同体だ。でも私はこの剣を離すつもりはない。この剣が新たな災厄を生むからだ。だから貴方とは仲良くやって行きたい」

 ウェンデルはオルギスに向かって微笑んだ。オルギスは以前、ウェンデルに言われた事を思い出していた。

 あれは、ウェンデルがエルドと共に安い報酬で盗賊を退治した時だった。村人達は粗末な食事で二人をもてなした。

 ウェンデルは安酒を飲みながらオルギスに語りかけた。人から感謝される仕事も悪くないだろうと。

 オルギスはそんな事は望んでいなかった。彼が望んでいるのは、再び軍を率い世界を統一する事だった。その過程こそがオルギスに充足感を与えた。

 ······だが、ウェンデルを通して貧しい村人達を見ていく内に、オルギスの心に変化が起こり始めた。この青年の言う事にも一理あるのかもしれないと。

 オルギスはそこで踏みとどまった。ウェンデルに影響されかけていた自分に驚愕した。この男は得体が知れない。オルギスはウェンデルを警戒し始めた。

 程なくカリフェースから迎えが来る筈だった。オルギスはそこでの変化に期待するしか無かった。

 
 

 ······この小さな街にある酒場には冒険者達も多く集まる。安価な割に料理の評判も良く、夕方には満席になる事も多かった。

 その日の夕暮れも店は多くの客で賑わっていた。各テーブルから笑い声や、冒険者の自慢話が途切れなく続いていた。

 その酒場の一つのテーブルを囲う集団があった。その集団に酒場の店員が近づく。

「はい。これ私の奢りよ。皆で仲良く食べてね」

 黒い前掛けを身に着けたマルタナが、野菜と肉の煮込み料理の大皿をテーブルに置いた。その途端にチロルの目が輝く。

「有難うございます。マルタナ姉さん。師匠! タダより高いものは無い。が来ました!」

 タクボは穏やかに頷き、銀髪の少女の両隣に座るロシアドとヒマルヤの料理を見る。彼らの品も直にこの愛弟子の胃袋に収まると師は密かに予言した。

「皆に伝えたい事があるの。諜報員時代の仲間が教えてくれたんだけど。ちょっときな臭い話よ」

 ウェンデルとエルドもマルタナを見る。彼女の話は各国で小麦がに値上がりしていという内容だった。その買い手はどうやら軍らしい。

「糧食の準備と言う事か。近々戦争が起こるのか?」

 タクボはそう言い、魔物の群れが攻めてきた事を思い出していた。あの時ウェンデルが率いた騎士団も隣国との国境線にある砦に向かう途中だった。

 だがあれは隣国に備えての増兵だ。世界各国の国々が同時に出兵準備とはどう言う事なのか。

「ロシアド。この件に君たち青と魔の賢人達は絡んでいるのか?」

 ウェンデルは金髪の美男子に問いかける。世界規模の話である以上その疑問は最もだった。だが、ロシアドは首を振る。

「私は何も聞かされていない。だが、その話が真実なら我ら組織が動いている可能性はある」

 ロシアドの言い方は無愛想だった。だが生来の気質のせいか、金髪の美男子は嘘や誤魔化しが出来なかった。

 タクボ達もそれを感じ、ロシアドの言葉をそのまま疑わなかった。

「まさか。またこの街で厄介事は起きないよね。だんだんその規模が大きくなっているしさ」

 エルドは麦酒のグラスを飲み干し、予言めいた言葉を口にした。魔王軍序列一位。現役の勇者。黒いローブの四兄弟。そして魔物の群れ。

 この街には、とんでもない災厄が続いて降り掛かっている。後日エルドは、自分のこの言葉を顧みる事となる。

「まあ我々が考えて仕方無い事だ。それよりエルド。また盗賊退治の依頼につき合ってもらえるか?」

 ウェンデルが新しいグラスをエルドの前に置く。

「別にいいけど? 皇帝の剣を使いこなす為の一人修業じゃなかったの?」

 エルドは左手で頬杖をつき、新しいグラスに口をつける。

「あれは身体に負担が大きくてな。見動き出来なくなった時、頼りになる弟分が必要なんだ」

 ウェンデルは片目を閉じ、エルドに自分の酒盃を近づける。

「······まあいいけど。他力本願は、あからさまに出すもんじゃないよ」

 そう言いつつ、エルドはウェンデルの酒盃に自分のグラスを軽く重ねた。

「賑やかな晩餐のようだな」

 タクボ達のテーブルの前に、黄色い長衣を纏った長身の男が立っていた。

 男はそう言うと、ヒマルヤに膝まづき挨拶を述べる。

「我が君。国政の処理つつがなく終えて参りました」

「うむ。済まないなサウザンド。本来なら私がやらなくてはならない事を」

 サウザンドはヒマルヤをこの街に留まらせた。タクボ達と過ごす事がヒマルヤにとっていい影響になると判断したからだ。

 サウザンドはタクボに席を勧められ、椅子に腰を降ろした。チロルが嬉しそうにサウザンドの前に酒盃を置く。

「サウザンド。魔族の国々は変わりなしか? 人間の方は何やら不穏な空気だ」

 タクボの挨拶にサウザンドは酒盃を持つ手を止めた。

「魔族の国々の中で、最大の軍事力を誇る国の王都が落ちた」

 サウザンドの口調は、料理の品を注文するかのように落ち着いていた。

「サウザンド。それはトレルギア国の事か?」

 ヒマルヤが早口で臣下に問う。サウザンドは頷き詳細を語り始めた。

 トレルギア国の領内で次々と軍事施設を落とし続ける野盗の集団がいた。この集団は一日に三つの城や砦を陥落させ王都に進み続けた。

 トレルギア国王は自ら軍の先頭に立ち、王都の城外に陣を張った。国王は敵軍の数を見て驚いた。敵は装備も揃わない盗賊の群れに過ぎず、数も千に届かなかった。

 トレルギア軍が誇る六鬼神と恐れられている将軍達が十倍の兵力で盗賊団に襲いかかった。

 盗賊団は一撃で粉砕されるかと思われた。だが、木端微塵にされたのは六鬼神の将軍達だった。

 盗賊団を率いる巨漢の男が六鬼神の将軍の一人を只の一振りで討ち取った。その後も巨漢の男と三合以上戦えた将軍は居なかった。

 将軍達を失った国王は悲鳴を上げるように全軍突撃を命じた。巨漢の男は持っていた剣を捨て魔法石の杖を手にした。

 トレルギア軍の悪夢はそこから始まった。巨漢の男が黒い光の鞭を振るった。黒い光の鞭を一振りする度に、数百人の兵士が吹き飛んだ。

 遠距離の魔法攻撃や弓矢も鞭で弾かれた。それでもトレルギア軍は必死に巨漢の男一人に攻撃を集中させた。

 その攻撃が功を奏し、巨漢の男は全身に傷を負った。トレルギア国王はあと一息だと軍を鼓舞す。

 だが国王の激は絶句に変わった。巨漢の男は治癒の呪文を唱え傷は一瞬で消えた。

 トレルギア国王は城内に撤退する途中に黒い鞭で首を切断された。国王と六鬼神を失った軍は、なす術なく盗賊団に降伏した。

「······その盗賊団の首領は何者だ? サウザンド」 

 ヒマルヤがかすれた声で臣下に問う。壮絶な話の内容につばを飲み込むのも忘れていた。

「ゴドレアと名乗る者のようです。黒い布を両目に巻き、漆黒の鞭を操っていたようです」

 漆黒の鞭と聞いてタクボ達はロシアドを見る。漆黒の鞭は魔王の力を有する者のみ操れる力。

 魔王を任命するのは青と魔の賢人。このゴドレアなる者に賢人達は絡んでいるのか。

 だが、ロシアドは再び首を振る。青と魔の賢人の関与は伺い知れなかった。ヒマルヤ達の国とトレルギア国の間には他の国がある為、急を要する事態では無い。サウザンドはそう言って主君を安心させた。

 穏やかでない話題が続いたが、一同は胃袋を満たし一人。また一人と席を立って行った。

 秋の夜も深まり、酒場の客達の姿もまばらになってきた。テーブルにはタクボ。サウザンド。ロシアドの三人が残っていた。

 ロシアドは離席するタイミングを逸し、すっかり酔いが回ったタクボに酒を勧められていた。

 タクボは赤い顔をしながら、ロシアドにチロルに手を出すなと絡み、親馬鹿振りをいかんなく発揮していた。

 サウザンドは静かにグラスを傾けている。タクボの話はサウザンドとの出会いの話になっていた。

「あの森で初めてお前を見た時は、死神にしか見えなかったぞ。サウザンド」

「······あの日、私は勇者の剣を受け取る為にあの森に来た。そなたとの縁もあそこから始まったな」

 サウザンドは細い目を更に細める。穏やかな表情は、良き思い出を振り返っているようにロシアドには見えた。

 タクボの意識がサウザンドに向いたのを好機とし、ロシアドは席を立った。店の出口に向かう途中、後ろからタクボの酔った声が聞こえた。

「······そう。腐れ縁だ。人間ではその関係を腐れ縁と言う。サウザンド。私とお前の腐れ縁に乾杯だ」

 ロシアドは一度だけ振り返った。その時サウザンドは、右手に持ったグラスを二回自分の額に当て、タクボと乾杯した。

 その二人の様子を、マルタナは常連客からの誘いをあしらいながら、カウンターに腰掛けながら見つめていた。

 
 ······まだ夜が明けきらない薄暗い早朝。黄色い長衣を纏った男が宿屋の扉を開け外に出た。男は宿屋を振り返り見つめる。そして短い笑みを浮かべ歩き始めた。

「こんな早朝にどこへ行くんだ?」

 サウザンドの前に、金髪の美青年が立っていた。死神は意外そうな表情をした。

「国元に帰るだけだ。私はいろいろ忙しい身でな」

「死ぬ気か?」

 ロシアドの言葉に、サウザンドの表情は固まった。

「サウザンド。昨日君がタクボと乾杯する際にしていた所作。あれは魔族の離別の儀式だろう」

「······さすが賢人。その教養は魔族の文化まで及ぶか」

 サウザンドは苦笑した。ロシアドはサウザンドが剣を帯びていない事に気づく。

「改造した剣はどうした? 何をするにしても丸腰は危険だろう」

「あの剣はチロルに預けた。私よりあの少女にこそ必要な剣だ」

 あの黒い巨体と戦った際、チロルは勇魔の剣を使いこなした。どうやら人間は魔族仕様の剣でも扱えるらしい。

 ロシアドはサウザンドに近づき、自分の剣をサウザンドに差し出した。

「この剣を持って行け。私の愛用の剣だ。つい最近までは、地上最強の剣だった。順位を二つ落としたがな······」

 ロシアドは自嘲気味に苦笑いした。勇者の剣は勇魔の剣、皇帝の剣に最強の座を奪われた。 

「賢人のそなたが魔族の私にそんな気遣いをしてくれるとはな。この街に来てからそなたは変わったな。あの少女とその師達の影響かな?」

 そんな事は無いとロシアドはムキになって否定した。サウザンドは微笑み、ロシアドの好意を謝絶した。

「私にはこれがあるのでな」

 サウザンドは懐中から魔法石の杖を取り出した。その杖を見た途端、ロシアドの表情が変わった。

「······サウザンド。君は漆黒の鞭を会得したのか?」

「つい最近だ。あの魔法使いに出会って以降、尋常では無い相手と戦ってきた。そのお陰で力が増したようだ」

 サウザンドは風の呪文を唱え始めた。何か伝言はあるかとロシアドに聞かれ、サウザンドは首を振る。

「······何も無い。私は良き人生を送った。充分過ぎる程にな」 

 死神はそう言い残し、朝もやの中まだ暗い空に消えていった。

 

 ······その日の夕刻時、ヒマルヤはタクボとチロルと共に魔物退治を済ませ街に帰って来た所だった。

 宿屋に戻るとマントを羽織った男か入り口に立っていた。ヒマルヤはその男を注視する。ヒマルヤの知っている顔だった。

「ネーグル。どうしてそなたがここに居るのだ?」

 ヒマルヤは臣下に声を掛ける。ネーグルと呼ばれた魔族の男はヒマルヤに膝まづく。ネーグルの肩が震えていた。

 ヒマルヤの後ろで、タクボとチロルも何事かと不思議そうな顔をしていた。

「······申し上げます。ヒマルヤ様。サウザンド様が戦死されました。ゴドレアなる男との壮絶な一騎打ちの果てに」

 夕暮れの冷えた風が、タクボの首筋を通り過ぎていった。この魔族の男が何を言っているのか、タクボには理解出来なかった。
 





 
 

 
 
 
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