悪役のちに救世主

犬神まつり

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4. 致命的な問題

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 衝撃の出会いから早二時間程が経過。
 無事入学式を終えた私はこれから毎日通う事になる教室に居た。


 さっきは本当に心臓が止まるかと思った。
 まさかふざけてぶつかった相手がこの世界のメインヒロインだったなんて、神様はつくづく私に意地悪だと思う。


 まぁ、それはさておいたとして、も。


 机に突っ伏した頭を少しだけ浮かせて視線だけで辺りの様子を探る。


 「へぇ~、◯◯中学校だったんだ!」

「うん!◯◯ちゃんはどこだったの?」



「△△君、ちょーカッコいいよね!この前のライブの時もさぁーー」

「あっ!それすっごいわかる!めっちゃ良かったよね!」




 出身中学校、好きなアーティスト、私の周りでは共通の話題を通してどんどんとグループが出来ていく。

 うん。完っ全に出遅れた。教室の窓際一番後ろの席とかいう位置が余計にぼっち感を引き立たせるよね。


 教室の中心を見ればヒロインのかぐやが男女問わず大勢の生徒に囲まれていた。
 あぁ、流石主人公。あれだけの人に囲まれても決してくすむ事ないその圧倒的存在感。感服です。


 
…というか私、出身中学校とかアーティストとかこの世界の事全然知らないから話題に全くついて行けないんだけど。これで友達作れってちょっと無理がないかい?
  誰かに話しかけようと思っても、もう既にみんな共通の趣味がある友達が出来てて今更声掛けづらい雰囲気あるし、そもそも私がここにいる事すら誰も気が付いてない気すらしてくる。


 あと、私と同じように一人なのはーー。



「……。」



 私の一つ前の席でさっきから一言も喋らずに置物のように座っている超絶イケメンだけなのだが。
 この子、確実に攻略キャラだよなぁ……。
 明らかに周りモブと違うオーラを放ってるし、鬼まにのタイトル画面に彼の姿があった気がする。
  周りの女子達も彼の存在は見逃せないらしく時折「話しかけてみようよ」とか「彼女いるのかな」とか聞こえてくる。


 うーん。今の私、一応ヒロインのライバルキャラだし、下手に攻略キャラに関わって変なイベントとか起こしたくないんだけど。でも、入学早々いきなりぼっちとかそれもそれで辛いし、私も誰かとお話したい。けど、そもそも彼が私と話してくれるかどうかも怪しいし……。
 

 「初めまして」


 話しかけるか否か、脳内で一人葛藤しているところに鈴のなるような優しい声が響いた。
 いつの間にやらクラスの中心に居たかぐやが目の前の美男子の席の前へと移動して彼に話しかけていたみたいだ。


 「私の名前は姫野 かぐや。貴方は?」


 「……」


 彼女の質問に対してしばらく口を閉ざして居た彼だったがやがて小さく口を開く。



 「夜叉よまた 湊」


 「夜叉君、良かったらこっちに来て皆んなで一緒にお話ししない?」



 ニコニコしながらさっきまで彼女と話をして居たグループを指差す。指を差されたグループの女子達は目をキラキラさせて激しく頷いていた。


((かぐや、ナイス!!))


 何故だろう、彼女達の心の声が鮮明に聴こえた気がした。


 「……俺に構うな」


 「私、一人でいる子を放って置けないの。さぁ、立って」


 美少女ヒロインからのお誘いにも関わらず、彼はそっぽを向いてしまう。けれど、そこはヒロイン。彼に有無を言わせず強引に立ち上がらせようとする。


「……なら、俺じゃなくて後ろの奴を連れて行けばいいだろう」


 「「えっ」」

 
 私とかぐやの声がほぼ同時に発された。
 いきなり名指しされ心臓がバクンと跳ねる。
 えっ?えっ?後ろの奴って私の事よね?
 見上げるとかぐやと目がバッチリ合った。が、どうやら彼女も彼の言葉の意図が読み取れなかったらしい。


 「……後ろの奴も一人だ」

 
「あっ」


 そういう事か。
 つまり、一人が放って置けないというのなら俺じゃなくて後ろにいるから、そいつを連れて行ってやればいいと。彼はそう言いたいらしい。
 私がぼっちだって、ずっと気が付いてたのか。


 「あ、えっと……」


 この返答は予想外だったらしく、かぐやは言葉を詰まらせながら、私に視線を向けた。


 「や、矢田川さんも一人なのね。それはいけないわ。矢田川さんも一緒にお話ししましょう。だから、夜叉君もーー」


「……俺に構うなと言った筈だ」


「「!!」」


 それまで静かに拒んでいた彼のトーンに僅かだが苛立ちの様なものが混ざって居るのがわかった。
 どうやらこの青年は余程一人でいたいらしい。
 流石にこれ以上彼を誘うのは諦めたのか、かぐやは少しムッとしたような表情で足早に教室を出て行ってた。
 

 かぐや達の様子を見守っていた周囲の生徒達は暫くの間、誰一人として声を出さずにいたが、時間が経てば少しずつ教室に話し声が戻ってくる。

 
……良かった、さっき話しかけなくて。
 多分、好きで一人でいるわけではないんだろうけど、それでも人と話したくない理由が彼にはあるんだろう。
 彼の√をやったわけではないから、彼がどんな過去を背負っているのか、それは私にはわからないけれど。        
 それを解決するのはヒロインの役目だから私には関係ない話だ。別に人と話したくないのなら私だって無理に話しかけるつもりは毛頭無い。

 
 けど。


 「ありがとう」

 

 これは私が勝手にお礼を言っているだけで、彼に話し掛けているわけじゃない。これならまぁ、許してくれるでしょ。



 別に私がぼっちでいる事を気にしてくれたわけではなかったんだろうけど、なんとなく、私に気が付いてくれたのが嬉しかった。



彼から返事が返ってくることはもちろん無かった。


 
 
 


 
 
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