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2. ライバルキャラってマジですか
しおりを挟むこれ、私、なのか……?
試しに首を捻ってみた。すると目の前の彼女も同じように首を捻る。右手で頬を摘むと、彼女も同じようにして頬を摘んだ。
私だ。私じゃないけど、私だ。
「何やってるのよ、鈴鹿。あんたまだ寝ぼけてるんじゃないでしょうね」
上から呆れたような声が降ってくると同時に銀の長い髪をくしで梳かされる。
いや、寝ぼけてるどころかまだ夢の中に居るんじゃないだろうか。
この白銀の少女には見覚えがあった。ついさっきまで自室のベッドでやっていた乙女ゲーム『鬼の居るまに』……通称、鬼まに登場するヒロインの攻略を邪魔に邪魔する超お邪魔虫ライバルキャラクターの矢田川鈴鹿だ。
なんで私が鈴鹿になってるの?これってやっぱり夢なんじゃーー。
「……って冷たっ!?」
頭上から降ってくる飛沫に驚いて見上げると鏡ごしに女性が何かを私の髪に振りかけているのが見えた。
『寝癖スプレー』……あぁ、そういえば寝癖が酷いって言ってたっけ。
「あんたももう高校生になるのね……。この間までランドセルを背負ってたっていうのに、子供の成長ってあっという間ね」
髪を優しい手付きで梳かしながら感慨深そうに呟く女性、というかおそらく鈴鹿の母親。ごめんなさい、私貴女の娘じゃないですーー。
「って痛っ!!」
もう、今度は何っ!?
「あら、ここ絡まってたのね。気が付かなくて引っ張っちゃったわ」
ごめんなさいね。とお茶目に笑いながらそのも手を止めない鈴鹿母。
……あれ。というかおかしくない?
どうして、夢なのに冷たさを感じたり、痛かったりするの。
もしてして、これ、夢じゃない?
背中にツーっと嫌な汗が伝った。
い、いや。まさか、まさかね。
そんなわけない……。
「そういえば、今朝、あんたを起こしに行った時に部屋の前に落ちてたんだけど、これなに?」
鈴鹿母はくしを置いてズボンのポケットから一枚の紙を手に取って広げて見せてきた。
紙に書かれた内容を見て思わず生唾を飲み込んでしまう。だって、これーー。
『私を見つけて』
あの、手紙だ。
間違いない。封筒は無いけれど、私に、"雪村 梓"宛に届いたあの手紙。
どうしてこれがここにあるの?
「私を見つけて?……って何よこれ。高校生にもなって今更変な趣味に目覚めたんじゃ無いでしょうね」
「……」
「鈴鹿?」
鈴鹿母が私を呼んでいる。けど、今はもうそれどころじゃ無い。
もしかして、これってあれ。最近流行りの悪役令嬢に転生してうんたらかんたらってやつ?
キャパの小さい私の脳をどうにか回転させて状況整理を始める。
にわかには信じられない話だ。だけど、目が覚めたらいきなりしらない部屋にいて、自分がライバルキャラになってて、感覚も通ってるし体もなに不自由なく動かせて意識もハッキリしている。……うん、やっぱりそんな気がしてきたぞ。
どうやら私、雪村梓は乙女ゲームのライバルキャラ、矢田川鈴鹿に転生したようです。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
「いってらっしゃい。頑張ってくるのよ」
「行ってきます」
あれから数十分後、支度を済ませた私は玄関先で母(仮)に見送られてこれから三年間通うことになる学校へと足を進めた。
うーん。ライバルに転生したって事はやっぱり破滅フラグをへし折るって言うのがやる事なのかな。
でも確か、このキャラって別にお金持ちでもなんでも無いしただ単に攻略キャラにフラれるだけだから没落エンドも処刑エンドもなく、普通に卒業して行ってたような。
「とりあえず、"鬼まに"ついてまとめとくか……」
鬼まに、正式名称を『鬼の居る間に』
簡単にストーリーをまとめると、高校生になったヒロインが通うことになった学園には絶世の美男子と謳われている集団がいるのだが、なんとその美男子達の正体は全員"鬼"。
それ故に彼等は人には言えぬ様々な過去を背負っているのだが、そこは乙女ゲームのヒロインちゃん。プライバシーもヘチマもなくズカズカと訳ありイケメン達の心の奥深に踏み込んでいき、固く固く閉ざしていた彼らの心を見事に開かせるのだ。
だが彼らは所詮鬼。想いが通じあってもそこに種族の壁が高くそびえ立ち、愛する二人の行く手を塞ぐ。
人間と鬼、決して相入れることのない二つの種族間の儚い恋模様を描いた物語。それが鬼まに。
ヒロインは"姫野 かぐや"(名前変更可)。
心優しい上に正義感も強くて、普段は守ってあげたくなっちゃうような感じなのにいざという時は勇気ある行動が出来る可憐な美少女。
そのヒロインの恋路を邪魔するこれまた美少女ライバルキャラクター、それが矢田川 鈴鹿。今は私だ。
まだ一人しか攻略してないから全部を知って居るわけでは無いけれど、私がやった√では数え切れない程の嫌がらせをヒロインにしまくって陥れようとするがヒロインはそれを健気に乗り切る。その姿に心打たれた攻略対象はその後一悶着ありつつもヒロインに想いを寄せる形になり、鈴鹿は図らずとも二人をくっ付けるキューピッドとなってしまう皮肉な役所だ。まぁ、因果応報だね。
あとは攻略対象が確か五、六人居たけれどもはや一人しか攻略出来てないからまとめようがない。それだけ難しかったのだ。……私だけかもしれないけど。
この鬼まにはつい最近サービス開始されたのだが、その開始と同時に瞬く間に世の女性達を虜にしていった。下は幼稚園の幼女から上は90代のお婆ちゃんまで。もはやちょっとした社会現象。
ちなみに私は最初、全く興味がなかったんだけど、学校で友達にゴリ押しされて仕方なくインストールしたのが始まりだった。
生まれてこのかた乙女ゲームなんてやったことなかったし、私はBえ……ゴホンっ……男同士の激しい絡み合いの方が好きだったから。
けど、やっていくうちにどんどんと物語の中に引き込まれて行って、気が付いたらどハマりしてた。
ストーリー性やキャラクター達の多彩な表情、どれを取っても高クオリティだったけど、なんといっても絵が本当に綺麗だった。
語彙力が足りないからどんな風にと言われても小学生みたいな言葉しか出てこないけど、イケメンが本当にイケメンで、美少女が本当に美少女だった。
そんな神絵師様のお陰で私は今、こんな超絶美少女に生まれ変わっているわけですが。
「これからどうすればいいんだろう……」
ずっとこのままという訳にもいかない。
転生とは言ったけど、多分私は、"雪村梓"は死んでないと思う。鈴鹿になる直前の記憶では私はただ自室のベッドで眠っただけなのだから死ぬ筈がないのだ。……寝込みを不法侵入してきた犯罪者にでも襲われたととか寝てる時に心不全を起こしたとかいうのなら話は別だけれど。
「とりあえず、目標は決まったかな」
まず第一に、雪村梓の生死を確認すること。
そして、もし生きているというなら元に戻る方法を探すこと。
当面はこの二つだな。
もし死んでた時は……このまま第二の人生を楽しんでみるのもいいかな。うん。
なんちゃって。
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