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1. 差出人不明の手紙
しおりを挟む始まりは一通の手紙だった。
「梓、あんた宛に手紙来てるわよ」
自室のベッドに寝そべりながらスマホゲームをしていた所に母が一枚の白い封筒を持って入ってきた。
メールやらSNSやらが普及してるこのご時世にわざわざ手紙?一体誰から?
送り主の確認をしようと便箋を裏表させるがそこには"雪村 梓様へ"という文字以外何も書かれていない。
「変なの」
普通、手紙って郵便番号とか住所とか書かないと届かないよね。……ということは郵送じゃなくて直接うちの郵便受けに投函したって事か?
不思議に思いながらも封を開けて中の手紙を取り出してみる。誰かから手紙を貰うのなんて小学生の頃以来だし、内容がちょっとだけ気になったんだ。
とか言って、これで中に入ってるのが近所の悪ガキ供の悪戯とかだったら即刻破り捨てるけど。
広げた真っ白な便箋に書かれれていたのは、たった一行の言葉。
『私を見つけて。』
……やっぱり近所のガキ供の悪戯か。
紙をくしゃくしゃに丸めて数十センチ先にあるゴミ箱にヒョイと投げる。紙ボールは綺麗な放物線を描きゴミ箱の中へと見事にゴールインした。
全く、これだから最近の子供は。こんな遊びして何が楽しいんだか。
怒りというよりは呆れに近いものを感じながら再び枕元に置いたスマホへと視線を戻す。
画面に表示されているのは今流行りの乙女ゲームのヒロインと攻略対象の美男子。
『これから先の世も、俺と共に歩んでくれるか』
『もちろんです。ずっと、ずっと一緒ですよ!』
『……愛している』
満開の笑顔のヒロインに美男子がそっと口付けるスチルが画面いっぱいに現れた。そのあまりに幸せそうな二人の姿につい目頭が熱くなる。
長かった……。このゲームの攻略はやたら難しくて毎回バットエンドを繰り返してたけど、どうにかこうにかようやくハッピーエンドに辿り着けたようだ。よく負けずに頑張った、私。
『クリア状況をセーブしますか?』という表示に『はい』を選択してタイトル画面に戻るのを待っていると途端に強烈な睡魔に襲われる。
ベッドサイドの目覚まし時計を確認すると、針は深夜2時を示していた。
いつの間にこんな時間になってたんだ。
マズイ、明日普通に学校あるのについ夢中になってて時間確認してなかった。
急いでスマホの画面を切って充電器に挿し込む。
幸い、お風呂も歯磨きも着替えも全て済ませてからゲームをやっていたから、このまま布団に潜ればそのまま眠れる。
長年愛用の低反発枕を数回ポフポフと叩いた後、横になって少し掛け布団を深めに被って目を閉じた。
そういえば確か生物学のレポートの提出期限が明日だった筈。
それに、文化祭のおばけ屋敷で使う装飾も作らないと。高校生活最後の文化祭だからちょっと手の込ん物創りたいし……。
あっ、もう定期も切れそうなんだっけ?明日、更新して来なきゃ。
明日はやる事が沢山あるなぁ。
明日はーー。
「ちょっと、いつまで寝てるの!早く起きなさいっ!」
「ん」
身体を強く揺すられて閉じていた目を開く。
全然寝た気がしてない。目を開いたのはいいけど視界はまだボヤけるし、意識もまだふわふわしてハッキリしない。やっぱり、ちょっと遅くまでゲームし過ぎたなぁ。
「やっと起きたわね。早く支度しないと、今日は入学式でしょ。まったく、だから春休み中でもちゃんと早寝早起きしなさいって言ってたのに」
あっ、そうだった。今日、入学式……
「って入学式!?」
勢い良く身を起こすと私の側に立っていた人影がビクリと肩を揺らした。
あれ、しかもよく見たらこの人、全く知らない人だ。この人だけじゃない、天井も壁も身の回りにある机や椅子、今寝ているベッドだって全部知らない物に変わってる。
「何よいきなり大きな声出して……。あら?やだ、鈴鹿、あんた酷い寝癖が付いてるわ。直してあげるから早く来なさい」
「す、すずか?」
誰、鈴鹿って。
でもこの人思いっきり私に向かって鈴鹿って言ったよね。え、どういう事?
状況に頭が付いていかずただ呆然と座り込む私に痺れを切らしたのか腕を掴んで引きずるように何処かへ連れて行く見知らぬ女性。
階段を降りて、連れて来られたのは洗面所の鏡の前だ。
「えっ?」
鏡に写っていたのは私ではない。
綺麗な白銀の髪の少女が驚愕に目を見開いた姿でこちらを見つめていた。
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