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第2章~ジロー、人里へ出る~

邂逅。

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 やばいやばい。
 思わず隠れてしまった。

 今完全に目が合っていた。周りの人達は、テラという精霊が何を言っているのかわかっていないようだったけど、あの目は確実におれを見ていた。
  
 もう一度、顔だけ出してみると今度はバッチリ目が合ってしまった。

 どうしよう。まさか見つかるなんて思ってなかった。
 精霊を見たことがある人がいるかもなんて話してたけど、まさか精霊本人がいるなんて思いもしなかった。

 出ていくべきだろうか。でもアシナと隠れているって約束したし。今なら、あの精霊しか気付いていない今なら何とか誤魔化せないだろうか。

 駄目だ。

 あの自分を姫巫女って言っていたアイリスって女の人、彼女はきっとオースウェルでもそれなりの立場にある人だ。
 このままおれが出ていかなければ、おれの存在をあの姫巫女に精霊が伝えるだろう。そしたらおれをどこかの国のスパイかと思うかもしれない。

 それだけならまだいい。さっきアシナが人間には関わらないと言っていたのに、ここに人間がいるとなればアシナがどこかの国の味方をしていると思われるかもしれない。

 あの人がこの事を国にどう伝えるかはわかんないけど、もしかしたらこの森に攻めてくることになってしまうかもしれない。
 それでアシナがどうなるとは思えないけど、迷惑は確実に掛かってしまう。

 【どうしたの?出てこないのならこちらから迎えに行くわよ。逃げても無駄よ?すぐに追い付くから】
 「テラ、その方向に誰かいるの?」
 【ええ、おそらく人間、それも多分子供だわ】
 「人間!?」

 その言葉に姫巫女さんが身構える。それを合図にしたように、周りの兵士達も臨戦態勢を整える。

 くそぅ。
 あの精霊、さらっと言いやがった。

 どうする。どうする。

 そんな風におれが頭を悩ませていると、【大丈夫?】とユキが話しかけてきた。

 落ち着こう。勝手に話をややこしくされるよりは今、ここで話を納めてしまった方がいいかもしれない。

 それに、おれが出ていかなければこの緊張状態が解かれることはないかもしれない。そのまま戦闘ってことになればあちらには、あの精霊がいる。人間だけならまだしもそれではアシナも無事で済むかは分からない。

 「ユキ、おれは今からアシナのところに行くからユキは隠れてて。絶対に出てきちゃダメだよ。」
 【ン!】

 そう言うと、ユキは姿を消した。それを確認した後、おれはアシナ達のいるところに向けて足を進める。

 まさか、初めての人間との出会いがこんな形になるなんて。もうちょっと平和的に、むしろ騒がれず、人知れずに馴染んでいきたかったのに!

 そもそもあの人達と言葉が通じるのだろうか。アシナと喋っているし、その会話もわかっているので問題はないだろうと思うけど。

 草木を掻き分けて歩いて行くと、アシナだけならがいる平地の開けた場所へと出た。

 みんながこちらを見てる。こういう注目を受けるようなことは、日本に居るときから得意じゃないんだ。

 一団の人達は、いるはずのない人間に向けてとても怪訝そうな視線を向けてくる。姫巫女の人だけはこちらを見ながら冷静に分析しているようだ。
 そんな中、テラと呼ばれた精霊だけは顎に手を当て、おれを値踏みするような視線で、それはもう下から上までじっくり観察してきた。

 ようやくアシナの横に着くと、自分を落ち着かせるためにアシナの毛並みに触れる。アシナもこちらに鼻先を向けてくる。アシナなりにおれのことを気遣ってくれているようだ。

 そんな様子を見てか姫巫女の人が口を開いた。

 「単刀直入にお聞きしましょう。このような場所にいるあなたは何者なのでしょうか。様子を見るに森の王とも知己のようですが。」

 それは明らかにおれに向けての質問だった。おそらくはおれをどこかの国の者だと疑っているのだろう。

 「僕は、昔、危ないところだったのをこの狼に救われました。それ以来この森で暮らしています。正直のところ自分自身、自分が何者なのかはわかりません。」
 
 すると、おれの話を聞いたことで一団の中から声が飛び出した。それは最初にアシナに食って掛かった若い兵士だった!

 「バカなことを言うな!ただの子供がこの森で暮らして行けるわけがないだろう!正直に言わぬと叩き切るぞ!」

 この一団が森の王への使節団なのだとしたら、あの兵士は明らかに人選ミスだ。それほどに空気が読めていない。

 その兵士を手で制すると、今度はアイリスが話しかけてきた。

 「こちらの者の失礼な発言、代わって謝罪します。しかし、この者の言うことにも一理あります。この森は他の場所よりも魔素も濃く、それによって魔獣や普通の獣ですら協力です。とてもあなたのような子供が生きていけるとは思えないのです。」
 「そうは言われましても、僕自身、救われる以前の記憶を無くしてしまっているのです。だから、嘘をつこうにも隠すことすらありません。だから、おそらく今あなた達が疑っているようなどこかの国の者ということはありえません。」
 「あなた自身、嘘をついているかどうかは私達にはわかりません。故にその言葉を簡単に信じることはできません。」

 そりゃそうだ。困ってしまいアシナを見ると今度はアシナが口を開いた。

 「この者の身の潔白は私が証明しよう。出会った頃からこの者には記憶が失われていた。それからは私がこの者の面倒を見てきたのだ。」

 アシナがそう言うと一団がざわついた。

 「あなた様が彼を育てたというのですか?」
 「育てたと言うと正しくないがな。一緒に生活したというだけだ。」
 「同じようなことです。あれほどに人間を嫌っていた森の王が人間と暮らしているのですから。」

 今まで人間と関わっていなかったアシナが、急に人間の子供育ててましたと言われてもそりゃ混乱するよね。

 一団の人達が困惑する中、それまで黙っていたテラがおれに向けての口を開いた。




 【あなた……歪んでるわね】
 
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