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時間は刻一刻と暮れ、カラスが夕暮れを背景にカアカアと嗄れ声で鳴き、日没に差し掛かる世間を迎えた。
パーティーの開かれる宴会場では、従業員たちが最終調整に追われ、東奔西走、縦横無尽に辺りを忙しく駆けずり回っていたが、他方、催しの顔とも言えるホテルの御曹司は、そうした外の世界へ気を留めることもなく、ただひたすら、目の前で情熱的に乱れる恋人へ盲目的に耽っていた。
「あァ・・・ッ♡♡!~~ゆき、さ・・・♡♡!!」
泡風呂から上がった二人は休憩を少々挟んでから、大きなベッドの上へ移動して、引き合う磁石のように互いを熱心に貪り合っていた。
バネの効いたマットレスへ寝そべった香の目前で、白いタオル生地のバスローブが、著しい摩擦運動のために双肩からずり落ち、男の逞しい浅黒い皮膚の下で、隆々と盛り上がった筋肉質の上半身を露わにした夕貴が、彼女を無心で求めていた。
先の浴室で愛し合って以来、彼らは今まで数えきれないほど交接してきたために、香の頭と身体は大いに沸き上がって、正常に機能していなかった。
確かに風呂から出た後、バスローブに身を包んだ恋人たちは冷たい水を飲んだり、団扇の代わりにした備品で扇ぎ合ったりと、休息は入れたのだが、落ち着く間もなく、またしても口伝いに水を飲ませた夕貴が隙を突いて、香をベッドへ押し倒し、狼狽える彼女をよそに、上着の紐を解いて曲線的な肉体を晒すと、問答無用で覆い被さり、今に至ったという次第だった。
「あッ♡♡ん♡♡!もぅ・・・ッ♡♡!そ、んなに・・・♡♡!突かないで・・・ぇッ♡♡!!―――ッ♡♡!!」
刹那、ビクン!と、身体の自由を利かなくするほど凄まじい快楽の爆発が内側で巻き起こり、香はもう何度目か分からないオーガズムへ達した。
「可愛い・・・。これで何回イったか覚えていますか?」
クスッと微笑む夕貴もまた、彼女同様に乱れた呼気を整えながら、香の汗ばんだ額へコツンと額を当てた。
「お、覚えてな―――♡♡っん・・・♡♡!」
その時、唇へ唇が吸い付いた瞬間、言葉は空気ごと密接に封じられ、香の台詞は途絶えた。
今日の恋人はやけに節度が欠けているような、いないような。
香には何故だかそういう気がしてならなかった。
例えば、開宴まで残り数時間を切ったというのに、最初から最後まで彼は飢えた獣の如く、一段と精力的かつ激しく彼女を抱いていた。
もしこの調子が続けば、彼女の腰は確かに音を上げるだろうし、きっと彼女は立つことすらままならず、パーティーへ出席できなくなってしまうだろう。
それは実現するには余りにも不名誉な事実だった故に、是が非でも避けたい香は、唇が離れて息がまともにつけるようになってから、口に出して指摘した。
「ゆ、夕貴さ・・・♡♡もう・・・♡♡さすがに、これ以上は・・・~~立てなくなっちゃいます・・・♡♡!」
「すみません。頭では分かっているんですが、あと数時間であなたを無差別の男たちの前でお披露目すると思うと、皆あなたの虜になってしまうのではないかと、神経が昂ってくるんです。・・・しかし香さん。本当にやめていいんですか?」
夕貴は暑そうに、はだけたバスローブを傍らへ脱ぎ捨てると、寝台へ両手をついて香の間近へ接近してから、思わせぶりな態度で訊いた。
たとえ言葉で言い表さなくとも、頑丈な体躯から匂い立つ雄の濃厚なフェロモンが、彼女を欲しいと全身で体現しており、むせ返る色香に中てられた香の喉が、堪らず上下にゴクッと動いた。
「や、やめないで・・・♡♡」
どうしたことか、思惑を裏切って、まるで妖艶な何かに魅せられた如く、香の口から勝手に懇願が漏れ出た。
「・・・次は、あなたの好きな後ろから。嫌というほどたっぷり愛して差し上げます・・・」
夕貴は耳の中へぼそぼそと低く囁き、声はひどく蠱惑的に聴こえた。
続いて、体勢を変えた後ろから、恋人の昂ぶりが容赦なく彼女の淫靡な内部を貫くと、度重なる熾烈な求愛のために、体力が尽きかけていた香は意識が遠のきながらも、甘美な快感に制圧された。
「~~~ッッ♡♡!!」
夕貴は動くと同時に口火を切った。
「考えたのですが、あなたを普段にもまして離せない理由は、恐らく、あなたが俺だけに夢中でいるよう、あなたの身体に刻み込ませるためではないかと」
しかしながら、雄と雌が激しく擦れ合う熱いまぐわいの最中、言葉を悠然と受け取ってきちんと消化できるほど、切羽詰まった香には余裕がなかった。
「あッ、あ♡♡!だめッ♡♡!そこ♡♡!~~だめ・・・ッ♡♡!!」
「香さん・・・。あなたは俺だけのものです・・・」
シャワーを浴びた香は再び白いバスローブを着込み、ぐったりと椅子に腰かけていた。
火照りの冷めやらぬ身体には、今しがたまで抱かれていた感触が未だ残っていた。
それはあまりの生々しさ故に、まだ身体の中に入って居残っているような感じがした。
実はあれから、永遠とも思える熱烈な求愛の後、激しい肉体労働のために汗をたくさんかいたという理由で、香は夕貴と一緒にシャワーを浴びる羽目になったのだが、温かいシャワーで汗を流している最中も、飽くことを知らない無垢な雄は、抑止もろくに聞かず、またしても彼女を一方的に求めたのだった。
一体香は今日の午後だけでどれくらい愛され、かつ満たされたのだろう。
香の考えるところでは、この半日だけで、少なくとも十日分は愛された気が十二分にした。
そして、懸念していた、足腰が立たなくなる点については、幸運にも、二本の脚で上半身を支えるだけの体力は残されていたために、体裁は何とか保てそうだったが、彼女をあれだけ貪欲に抱いても、どこ吹く風で平気そうな面持ちの恋人を、香はやや恨みがましく見た。
すると、唐突に呼び鈴が入り口の方から鳴り響き、同じくバスローブに身を包み、タオルで濡れた髪を拭いていた夕貴がドアへ向かって応対した。
続いて少し間を置いてから、男女含めた五人の従業員らしき人物たちがぞろぞろと部屋の中へ入ってきて、ぼんやりしていた香をびっくりさせた。
彼らは揃ってフォーマルな黒いスーツを着用し、銘々その手に、頑丈で丈夫そうな箱やカバン、また衣装を包んだ、大きな長い袋を抱え持っていた。
次いで、彼らは対象の香を発見すると、箱やカバンを床へ置いて、失礼致しますと一言断ってから、各々作業に取り掛かった。
「!?」
事前に何も聞かされていなかった香は、一体自分の身に何が起きているのかと、ひどく慌てた。
「あ、あの~。これは・・・?」
だがしかしながら、故意か偶然か、彼女の疑問は聞き流され、従業員の一人が、開けた箱から取り出した、色とりどりのメイクパレットを、彼女の手前のドレッサーの机へ置くと、無知だった香にも、ようやく状況が飲み込めてきた。
香一人の当惑は、まるで始めからなかったことのようにまるきり無視され、頭髪担当の男性がドライヤーのスイッチを入れて、彼女の長い黒髪を温風で乾かし始めた。
正面の鏡の中に、衣装と装飾品担当の男女二人が何やら相談しながら、背を向けて話し合っている姿が見えた。
そして横目には、一人だけ通常のスーツを着込んだ男性職員が総支配人と並んで、別室へ共に足を運んでいる様子が窺えた。
それからのことは、複数の動作が同時に進行していたために、香が完璧に追い付くためには、二つの目だけでは不十分だった。
「それでは、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しく」
別室の会議室で、祝賀会の最終的な段取りをグループの後継者と話し合っていた男性は、恭しく頭を下げてから部屋を後にした。
続いて、夕貴はそのまま隣り合わせになっている隣の小部屋へ移り、予め準備しておいたタキシードへ着替え始めた。
蝶ネクタイを締めた時、扉をノックする音が背後から聴こえ、夕貴は入室を許可した。
「どうぞ」
すると、香の支度を手掛けていた従業員の一人が、彼女の準備が整ったことを伝えに来た。
「オーナー、志筑香様のお支度が整いました」
「ありがとう。今行きます」
鏡越しに、夕貴はドアが再び閉じられたのを見て取りながら、ハンガーへ掛けてあった黒いジャケットを、純白のワイシャツの上からバサッと豪快に渡し、ボタンを閉めてから、着替えを完遂させた。
その後、整髪は後でいいかと、彼は姿見の中に映り込んだ髪へ、くしゃっと無造作に指を通した。
それから扉を開けて、光で煌々と照らされた明るい室内へ戻ると、夕貴は恋人がドレスアップした、
煌びやかで麗しい姿を初めて目の当たりにして、目を奪われただけでなく、心まで一瞬でその美貌にかっさらわれてしまった。
彼女の艶やかな長い黒髪は、ヘアアイロンで伸ばされ、ゆったりと大きめのウェーブを作った後、ヘアピンとヘアスプレーを駆使して、しっとりした印象の夜会巻きにまとまり、薄化粧しかしたことのない顔面は、温泉で磨き上げられた素肌を生かして、保湿効果の抜群な色付き化粧下地で基礎を固めた後、パウダーファンデーションをブラシで軽く載せられていた。
眉は派手になりすぎない程度に色を僅かに載せ、目元は淡いベージュを下地に、シャンパンゴールドのラメで輝きを増し、アイラインはきっちり引いた上に、同じく黒のマスカラで睫毛の存在を主張してから、目尻に付け睫毛をちょこっと足し、華やかさを補助していた。
小さな唇は目元を際立たせるために、自然な肌色のペンシルで形を整えた後、ピンクの混じった淡い口紅でほんのりと色づき、頬はさり気なく、唇と同系色の桃色が薄く染まっていた。
少し前まで彼の腕の中にあった、華奢で柔らかい抱き心地の好い肢体は、上品で華麗な黒のロングドレスに覆われ、光を反射する生地で仕立てられたドレスは、微かな動きでさえも、照明の光を正確に受けて、キラキラと、輝きが鱗の如く瞬いた。
更に、ほっそりと伸びた両腕には、同様に黒のベルベットで作られた長い手袋が胸元まで嵌められ、しっとりと光沢のある生地が淑女らしさを漂わせていた。
仕上げに、二つの敏感な耳朶には、模造と本物のダイアモンドでこさえられた雫型のイヤリングが燦然と輝き、これらもまた同様に、電灯の光を受けて、眩しく乱反射していた。
「? 夕貴さん?」
香は、息をするのも忘れて、ひたすら食い入るように自分を見つめる恋人を呼んだ。
しかしながら、呼んでも反応がなかったため、香は言葉を続けた。
「あの、凄く高そうなものばかりですけど、本当にお借りしてもいいんですか?」
「黙って。・・・一回転して」
指示された通り、香は口をつぐむと、その場でゆっくりと回った。
すると、急に背後から抱き寄せられ、香は小さく吃驚した。
「わっ」
「・・・表現するのに相応しい言葉が見つからないくらい、美しいです。とても綺麗だ・・・」
夕貴はうっとりと、心酔しきった如く呟くと、ドレスのデザイン上、大きく開いて剥き出たうなじから背中にかけて、チュッと軽い音を立てて、キスした。
次いで、夕貴は顔を上げると、香しか聞き取れない小声で、耳元へひそひそと囁いた。
「もしこの場に彼らがいなかったら、今すぐベッドへ押し倒していたところです」
「!」
再考や長考する間もなく、香は瞬時に耳を疑った。
自分に対する彼の欲求は天井知らずで、際限がないのか?
喜ぶと同時に、香は恐怖に戦慄した。
明日葉グループ創立七十五周年を記念したパーティーが始まり、会場は盛況を極めた。
香が初めて参加した、オープニングパーティーとは比べ物にならないほど、宴は大々的で華々しいものだった。
著名人も数多く出席し、女優や俳優、モデルに芸能人、歌手、学者、棋士、スポーツ選手、政治家、芸術家、映画監督など、錚々たる面々が顔を連ねた。
彼らは皆一様に、施設と明日葉グループに所縁のある人物たちばかりだった。
明日葉のホテルで挙式やディナーショーを敢行したり、会見・撮影場所や催し会場として使用したり、またコマーシャルに出演するなど、彼らとグループ会社は、持ちつ持たれつの間柄にあった。
むろん、宴会場には一般の招待客たちが大勢押し掛けており、中でも、媒体拘わらず、記者たちの幾人かは、重たい機材を広間の片隅であちこちへ巡らせ、明日葉の栄華を取材していた。
全国的に有名な同業者連中を始め、明日葉の海外系列からも、重役とその家族が祝杯に駆け付けた。
明日葉筋の者は、各ホテルのブライダル・宴会、飲食、購買(リネンや寝具、備品などの自社製品を展開する子会社もあった)、プールやテニスコート、ジムなどの内外施設部門の責任者を筆頭に集結し、日々の尽力を労い合っていた。融資元の銀行員幹部や、旧財閥出身で潤沢な財産を所有する富豪、投資家など、主要株主たちもこぞって同伴者を引き連れ、各々愉快な時間を過ごしていた。
「きゃ~、ほら見て!明日葉ジュニアのお出ましよ!」
「ああ~ん、超カッコイイ~!アメリカ帰りの長身でハンサムな御曹司!」
「でも見て!女連れてる~!ショック~!」
とある一つの円卓の周りで、華やかにドレスアップした複数の女性招待客たちが、それぞれシャンパンを片手に、父親へ恋人を紹介するために、香を伴って、人波を軽やかに通り抜け、別の円卓を目指す、明日葉の後継者を遠くからもてはやした。
しかし、彼女たちは御曹司と連れ立った香をよく見ると、上げていた熱を途端に下げた。
「見かけない女ね」
「そうね。ねぇ、絵莉花。あの女知ってる?」
すると、絵莉花と呼ばれた、軽くパーマを当て、ふんわりしたショートボブの頭に、可憐な花のコサージュを付けた小柄な女性は、向かいの円卓で、明日葉の長へ息子伝いに紹介される香をちらと一瞥してから、答えた。
「知らない」
「うっそ、絵莉花が知らないはずないじゃな~い」
「そうよ~。ねぇ、意地悪しないで教えてよ~」
女性たちは朗らかに絵莉花へ縋った。
だが、絵莉花は手に持っていたグラスから、シャンパンをぐいと一息にあおって、ぴしゃりと言い放った。
「知らないものは知らないの!」
「うっそ、まじぃ?」
「ねぇ。絵莉花でも知らないなんて、あの女一体何者かしら?」
「ちょっと、でもって何よ。でもって」
すかさず、友人たちの台詞の端をピクリと耳に留めた絵莉花は、聞き捨てならないといった面持ちで、ぷんすかと訊き返した。
「だって~。絵莉花、ジュニア一筋の大ファンだし♡」
「は!?」
「そうそう。絵莉花はジュニアが推しで、ぞっこんなんだよね~?」
「はぁ!?」
二人の女性は軽口をたたき合い、背の低い友人をからからと冷やかした。
「だから、ジュニアのことなら何でも知ってるかと思って♪」
「そうそう。健全なストーカー!」
上手い例えだと言わんばかりに、女性たちは大口を開けて笑い、顔の赤い、いじらしい友人を揶揄った。
「も、もう!適当なことばかり言って!(シャンパンの)お代わり貰ってくる!」
ばつの悪い絵莉花は一時退避を余儀なくされ、空のグラスを持ったまま、白いテーブルクロスの掛けられた円卓を後にした。
酒の満ちたグラスをお盆に載せた給仕係が、人波の中に紛れ込んではいたが、近くに見えなかったため、絵莉花は大広間の片隅に置かれたテーブルまで移動し、空のグラスと、ズラリと並んだぶどう酒入りのグラスを交換した。
しばしの間、絵莉花は一人その場で佇み、ぼんやりと物思いに耽った。
そうだ、友人たちの言っていたことは、あながち嘘というわけではなかった。
事実、彼女は一目見た時から、明日葉の御曹司に心恋うてきた。
だがしかしながら、次期頭取と名高い、大手銀行幹部の娘でもあった彼女は、幸いなことに、彼と面識は一応あったのだが、奥手が過ぎた故に、恋心は見事に行く手を失っていた。
とはいえ、深々と降り積もる雪の如く、彼に対する思慕は日々だんだんと膨れ上がっていき、彼女は気持ちを打ち明けられない代わりに、彼の生い立ちや、仕事に関する様々なことから、身辺や女性関係など、私的な事柄(紳士で清廉潔白な彼は、スキャンダルは一つも見当たらなかった。たとえ見つけたとしても、恐らく彼女は黙認しただろうが)まで探偵並みに一通り調べ上げて、切ない想いを満たしてきた。
彼女は正に敬虔な信奉者で、彼を心から崇拝していた。
これが、友人たちの冗談交じりに茶化した、彼女が彼の「大ファン」であり、「健全なストーカー」である所以だった。
だから、推しがいきなり何の前触れもなく、文字通り彼女の目の前に現れた時、絵莉花は危うく口にしていたシャンパンを驚きのあまり、全て吐き出してしまいそうだった。
「絵莉花さん」
同じくシャンパンを取りに来た夕貴は、隣で呆然と突っ立った知り合いに気が付き、柔和に微笑んだ。
「!!あっ、あし、明日葉さん・・・!」
「久しぶりですね。オープニングパーティー以来でしょうか」
「は、はっ、はい!え、えと、あの。お、~~創業七十五周年、おめでとうございます・・・!」
「ありがとうございます。楽しんでいただけていますか?」
「はっ、はい!」
「それは何よりです。今日は雄二さんと一緒に?」
「は、はい!父と一緒に来ました・・・!」
「ちょうど良かった。うちの父がご挨拶したいと言っているんですが、どこへ行かれたか心当たりはありますか?」
「はっ、はい!えっと、多分、あっちで部下の人と喋っていると思います・・・」
絵莉花は合わせていた視線を逸らし、父親がいるらしき方向を見た。
それから、夕貴もつられて会場の中心辺りへ顔を移すと、絵莉花へ穏やかに語り掛けた。
「どうぞ絵莉花さんもご一緒に。紹介したい人がいるんです」
「川端さん。どうもご無沙汰しております」
明日葉の後継者は、彼の娘と同じく背の低い、小太りの中年男性へ声をかけた。
「おお、夕貴くん!何だ、絵莉花も一緒か」
香り高いウィスキー片手に、側近の部下と話し合っていた絵莉花の父は、事業にまつわる密談を中断して、主催一族の令息と自分の娘へ向き直った。
「お話の途中すみません。ですが、うちの父が一度ご挨拶を申し上げたいと言っておりまして」
「いやいや。挨拶せねばならんのはこっちの方だよ!全く、こんな景気の良いパーティーに招待してもらって、礼の一つも言わないとなぁ!」
恰幅の良い行員はワハハと腹の底から陽気に笑った。
「それじゃあ、高柳くん。また後でな」
「戻りました」
夕貴は明日葉グループを代表する取締役の父親と香へ話しかけた。
「ああ、どうも、川端さん!本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます!」
宴主は馴染みの行員を見て取ると、すかさず彼の手を取って、馴れ馴れしく握った。
「いえいえ、明日葉さん!こちらこそ、このような盛大な会に娘共々招待いただき、誠に恐縮です!」
「ああ、絵莉花さんも!」
明日葉グループの代表者は、川端氏の令愛にも親しい眼差しを向けて、手を差し伸べた。
「どっ、どうも。本日はおめでとうございます」
「ありがとう。どうぞ心行くまで楽しんでいってください」
「ところで明日葉さん、この美しい方はどこのどなたですかな?」
美人に目がない、でれ助の川端氏が香について尋ねたので、訊かれた父親に代わって、息子が答えた。
「俺の恋人です」
「おお、夕貴くんの!いや全く、こんな美人さん、一体どこで捕まえたんだい?」
「志筑さんは、夕貴が支配人を務めている、最近オープンしましたリゾートホテルの近くで、温泉旅館の若女将をされているんですよ」
次は明日葉氏が問いに答えた。
「ほお!温泉旅館の!女将さんですか!」
感嘆した小太りの中年がじろじろと自分を見回したため、香はぎこちない笑顔で挨拶した。
「こ、こんにちは」
「いや~、さすが!夕貴くんは立派な男だものなぁ!うちの絵莉花と取り替えてもらいたいくらいだよ!」
謙遜した川端氏はガハハとがさつに笑い、明日葉の令息に向かって、自分の娘を揶揄的に卑下した。
突如、自身の名前が話題に上がった絵莉花は、控えめな性分のために、カアッと頬を染めて恥じ入った。
「絵莉花さん。こちらは志筑香さんです。香さん、こちらは川端絵莉花さん」
夕貴によって互いを紹介された二人は、頭を軽く下げ合った。
「ど、どうも」
「こ、こんにちは」
それから夕貴は父親へ向き直ると、辞退を申し出た。
「父さん。俺たち一寸失礼します。まだ挨拶が済んでいないので」
するとパーティーの主催者は小さく頷いて、許可を下した。
「そうか。行ってきなさい」
「はい。川端さん、失礼します。絵莉花さんも、また後ほど」
そして、明日葉の御曹司は再び川端親子へ向き直り、愛想良い会釈と共に一瞥を投じると、紳士らしくスマートに香を連れ立って、人の波間へ消えていった。
「・・・絵莉花。今から父さんは明日葉さんと大事な話をするから、少し向こうへ行っていなさい」
夕貴ら両人が完全に去ってしまうと、川端氏は娘に命じた。
「うん。芽衣子たちのところに戻ってるね」
絵莉花は了解すると、明日葉の首領へペコリと頭を下げた後、テーブルを後にした。
「今時見かけない、清楚で礼儀正しいお嬢さんですね、絵莉花さんは」
人混みの中、小さくなっていく絵莉花の後ろ姿を見届けながら、夕貴の父は独り言ちた。
「いや、あの子は私に似て引っ込み思案でして、どうも積極性に欠けるんですよ」
行員幹部は冗談めいた発言を口に上げ、長年のビジネスパートナーであり、親しい友人でもある明日葉氏を快活に笑わせた。
氏は彼が引っ込み思案どころか、その反対である事実を知っていたからだ。
「本当ですよ。だから真面目な話、親としては将来が心配でね。夕貴くんのようなしっかりした男に任せたいものです」
「でしたら、絵莉花さんは今は誰とも?」
「そこまで器量が悪い訳じゃないんだけどねぇ・・・。誰かうちのエリート行員でも捕まえてくれればいいのに」
「そうでしたか・・・」
「ああ、本当にね。夕貴くんとだったら安心できるんだが。彼とだったら、絵莉花も前から知っているし、何より明日葉ホテルグループと、家柄がきちんとしているしね」
ずんぐりした男は琥珀色のウィスキーを嗜みつつ、友人の企業をさり気なく褒めた。
「それは息子共々光栄ですが、言うならば、絵莉花さんも次期頭取と名高い名士の素敵なお嬢さんですし、夕貴にとって最適なパートナーだと思いますが」
「そうかね。全く君は口が上手いね」
結局、中年の紳士たちは合致している点については直接触れずに、互いを朗らかに称賛し合った。
一方、祝宴へ一緒に出席した友人たちのもとへ戻った絵莉花は、彼女たちが根掘り葉掘りと訊く、遠慮会釈のない尋問に遭った。
「絵ー莉ー花~、見たわよぉぉ!何ちゃっかりジュニアと一緒になっちゃってんのよぉぉ!わたしたちにも紹介しなさいよぉぉ!」
「で、どうだったの!?どんな女だった!?やっぱり彼女!?」
絵莉花は鼻息荒い女性たちの勢いに圧倒されながらも、ささやかな情報を提供した。
「う、うん。温泉旅館の若女将なんだって」
「は!?温泉旅館!?」
「・・・何で?訳分かんない。イミフ」
世間的に名の知れた名家や要人らの令嬢たちは眉根を寄せ合い、困惑した。
それから、ああでもないこうでもないと、友人たちが香について憶測を飛び交わしている中、絵莉花はしょんぼりと目線を落として省みた。
(・・・綺麗な女だったな。背も高くて、モデルさんみたいだったし)
身長が低いために、成熟した一人前の女性として見られないことが多々あった絵莉花は、悩みから自信を失いつつあった。
(やっぱり彼女と結婚するのかな・・・。でも、いつかは・・・)
「絵ー莉ー花~?何ボーッとしてんのぉ!?」
突然、彼女の静かな内省は、最も親しい友人の一人である芽衣子という女性に破られ、絵莉花は急いで面を上げた。
「うっ、ううん。何でもない!」
「大丈夫~?ジュニアに彼女いたの、そんなにショックだった?」
「ううん、大丈夫。ショックではないよ」
絵莉花は微笑みを口元に浮かべて、首を横へ振った。
「ならいいけど・・・。元気出しなよ~?」
「ありがとう」
そう、若干落ち込んではいたが、絵莉花は確かにショックではなかった。
それは何故かというと、平凡な自分に比べ、長身で利発、眉目秀麗かつ紳士、また成功した事業一家の後継者という、並々ならぬ輝かしい肩書を持つ明日葉の御曹司は、世界を股にかけて、多くの美女たちと交際してきたので、言い換えれば、彼女はショックの受けようがなかった。
だがしかし、一つ意外だとすれば、彼女は長年夕貴だけを一心に想い続けていたせいか、彼の香に対する熱の入れようが、どことなく今までの女たちとは違う気がした。
それはまるで、彼女との結婚を念頭に入れている真摯な男のように、絵莉花の目に映った。
しかしながら、まだ希望の持てることに、彼は婚約者とは言わず、恋人と香を銘打った。
したがって、彼女が夕貴に対する特別な感情を、永遠に封印しなければならない日は、そう近くはないようだった。
パーティーの開かれる宴会場では、従業員たちが最終調整に追われ、東奔西走、縦横無尽に辺りを忙しく駆けずり回っていたが、他方、催しの顔とも言えるホテルの御曹司は、そうした外の世界へ気を留めることもなく、ただひたすら、目の前で情熱的に乱れる恋人へ盲目的に耽っていた。
「あァ・・・ッ♡♡!~~ゆき、さ・・・♡♡!!」
泡風呂から上がった二人は休憩を少々挟んでから、大きなベッドの上へ移動して、引き合う磁石のように互いを熱心に貪り合っていた。
バネの効いたマットレスへ寝そべった香の目前で、白いタオル生地のバスローブが、著しい摩擦運動のために双肩からずり落ち、男の逞しい浅黒い皮膚の下で、隆々と盛り上がった筋肉質の上半身を露わにした夕貴が、彼女を無心で求めていた。
先の浴室で愛し合って以来、彼らは今まで数えきれないほど交接してきたために、香の頭と身体は大いに沸き上がって、正常に機能していなかった。
確かに風呂から出た後、バスローブに身を包んだ恋人たちは冷たい水を飲んだり、団扇の代わりにした備品で扇ぎ合ったりと、休息は入れたのだが、落ち着く間もなく、またしても口伝いに水を飲ませた夕貴が隙を突いて、香をベッドへ押し倒し、狼狽える彼女をよそに、上着の紐を解いて曲線的な肉体を晒すと、問答無用で覆い被さり、今に至ったという次第だった。
「あッ♡♡ん♡♡!もぅ・・・ッ♡♡!そ、んなに・・・♡♡!突かないで・・・ぇッ♡♡!!―――ッ♡♡!!」
刹那、ビクン!と、身体の自由を利かなくするほど凄まじい快楽の爆発が内側で巻き起こり、香はもう何度目か分からないオーガズムへ達した。
「可愛い・・・。これで何回イったか覚えていますか?」
クスッと微笑む夕貴もまた、彼女同様に乱れた呼気を整えながら、香の汗ばんだ額へコツンと額を当てた。
「お、覚えてな―――♡♡っん・・・♡♡!」
その時、唇へ唇が吸い付いた瞬間、言葉は空気ごと密接に封じられ、香の台詞は途絶えた。
今日の恋人はやけに節度が欠けているような、いないような。
香には何故だかそういう気がしてならなかった。
例えば、開宴まで残り数時間を切ったというのに、最初から最後まで彼は飢えた獣の如く、一段と精力的かつ激しく彼女を抱いていた。
もしこの調子が続けば、彼女の腰は確かに音を上げるだろうし、きっと彼女は立つことすらままならず、パーティーへ出席できなくなってしまうだろう。
それは実現するには余りにも不名誉な事実だった故に、是が非でも避けたい香は、唇が離れて息がまともにつけるようになってから、口に出して指摘した。
「ゆ、夕貴さ・・・♡♡もう・・・♡♡さすがに、これ以上は・・・~~立てなくなっちゃいます・・・♡♡!」
「すみません。頭では分かっているんですが、あと数時間であなたを無差別の男たちの前でお披露目すると思うと、皆あなたの虜になってしまうのではないかと、神経が昂ってくるんです。・・・しかし香さん。本当にやめていいんですか?」
夕貴は暑そうに、はだけたバスローブを傍らへ脱ぎ捨てると、寝台へ両手をついて香の間近へ接近してから、思わせぶりな態度で訊いた。
たとえ言葉で言い表さなくとも、頑丈な体躯から匂い立つ雄の濃厚なフェロモンが、彼女を欲しいと全身で体現しており、むせ返る色香に中てられた香の喉が、堪らず上下にゴクッと動いた。
「や、やめないで・・・♡♡」
どうしたことか、思惑を裏切って、まるで妖艶な何かに魅せられた如く、香の口から勝手に懇願が漏れ出た。
「・・・次は、あなたの好きな後ろから。嫌というほどたっぷり愛して差し上げます・・・」
夕貴は耳の中へぼそぼそと低く囁き、声はひどく蠱惑的に聴こえた。
続いて、体勢を変えた後ろから、恋人の昂ぶりが容赦なく彼女の淫靡な内部を貫くと、度重なる熾烈な求愛のために、体力が尽きかけていた香は意識が遠のきながらも、甘美な快感に制圧された。
「~~~ッッ♡♡!!」
夕貴は動くと同時に口火を切った。
「考えたのですが、あなたを普段にもまして離せない理由は、恐らく、あなたが俺だけに夢中でいるよう、あなたの身体に刻み込ませるためではないかと」
しかしながら、雄と雌が激しく擦れ合う熱いまぐわいの最中、言葉を悠然と受け取ってきちんと消化できるほど、切羽詰まった香には余裕がなかった。
「あッ、あ♡♡!だめッ♡♡!そこ♡♡!~~だめ・・・ッ♡♡!!」
「香さん・・・。あなたは俺だけのものです・・・」
シャワーを浴びた香は再び白いバスローブを着込み、ぐったりと椅子に腰かけていた。
火照りの冷めやらぬ身体には、今しがたまで抱かれていた感触が未だ残っていた。
それはあまりの生々しさ故に、まだ身体の中に入って居残っているような感じがした。
実はあれから、永遠とも思える熱烈な求愛の後、激しい肉体労働のために汗をたくさんかいたという理由で、香は夕貴と一緒にシャワーを浴びる羽目になったのだが、温かいシャワーで汗を流している最中も、飽くことを知らない無垢な雄は、抑止もろくに聞かず、またしても彼女を一方的に求めたのだった。
一体香は今日の午後だけでどれくらい愛され、かつ満たされたのだろう。
香の考えるところでは、この半日だけで、少なくとも十日分は愛された気が十二分にした。
そして、懸念していた、足腰が立たなくなる点については、幸運にも、二本の脚で上半身を支えるだけの体力は残されていたために、体裁は何とか保てそうだったが、彼女をあれだけ貪欲に抱いても、どこ吹く風で平気そうな面持ちの恋人を、香はやや恨みがましく見た。
すると、唐突に呼び鈴が入り口の方から鳴り響き、同じくバスローブに身を包み、タオルで濡れた髪を拭いていた夕貴がドアへ向かって応対した。
続いて少し間を置いてから、男女含めた五人の従業員らしき人物たちがぞろぞろと部屋の中へ入ってきて、ぼんやりしていた香をびっくりさせた。
彼らは揃ってフォーマルな黒いスーツを着用し、銘々その手に、頑丈で丈夫そうな箱やカバン、また衣装を包んだ、大きな長い袋を抱え持っていた。
次いで、彼らは対象の香を発見すると、箱やカバンを床へ置いて、失礼致しますと一言断ってから、各々作業に取り掛かった。
「!?」
事前に何も聞かされていなかった香は、一体自分の身に何が起きているのかと、ひどく慌てた。
「あ、あの~。これは・・・?」
だがしかしながら、故意か偶然か、彼女の疑問は聞き流され、従業員の一人が、開けた箱から取り出した、色とりどりのメイクパレットを、彼女の手前のドレッサーの机へ置くと、無知だった香にも、ようやく状況が飲み込めてきた。
香一人の当惑は、まるで始めからなかったことのようにまるきり無視され、頭髪担当の男性がドライヤーのスイッチを入れて、彼女の長い黒髪を温風で乾かし始めた。
正面の鏡の中に、衣装と装飾品担当の男女二人が何やら相談しながら、背を向けて話し合っている姿が見えた。
そして横目には、一人だけ通常のスーツを着込んだ男性職員が総支配人と並んで、別室へ共に足を運んでいる様子が窺えた。
それからのことは、複数の動作が同時に進行していたために、香が完璧に追い付くためには、二つの目だけでは不十分だった。
「それでは、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しく」
別室の会議室で、祝賀会の最終的な段取りをグループの後継者と話し合っていた男性は、恭しく頭を下げてから部屋を後にした。
続いて、夕貴はそのまま隣り合わせになっている隣の小部屋へ移り、予め準備しておいたタキシードへ着替え始めた。
蝶ネクタイを締めた時、扉をノックする音が背後から聴こえ、夕貴は入室を許可した。
「どうぞ」
すると、香の支度を手掛けていた従業員の一人が、彼女の準備が整ったことを伝えに来た。
「オーナー、志筑香様のお支度が整いました」
「ありがとう。今行きます」
鏡越しに、夕貴はドアが再び閉じられたのを見て取りながら、ハンガーへ掛けてあった黒いジャケットを、純白のワイシャツの上からバサッと豪快に渡し、ボタンを閉めてから、着替えを完遂させた。
その後、整髪は後でいいかと、彼は姿見の中に映り込んだ髪へ、くしゃっと無造作に指を通した。
それから扉を開けて、光で煌々と照らされた明るい室内へ戻ると、夕貴は恋人がドレスアップした、
煌びやかで麗しい姿を初めて目の当たりにして、目を奪われただけでなく、心まで一瞬でその美貌にかっさらわれてしまった。
彼女の艶やかな長い黒髪は、ヘアアイロンで伸ばされ、ゆったりと大きめのウェーブを作った後、ヘアピンとヘアスプレーを駆使して、しっとりした印象の夜会巻きにまとまり、薄化粧しかしたことのない顔面は、温泉で磨き上げられた素肌を生かして、保湿効果の抜群な色付き化粧下地で基礎を固めた後、パウダーファンデーションをブラシで軽く載せられていた。
眉は派手になりすぎない程度に色を僅かに載せ、目元は淡いベージュを下地に、シャンパンゴールドのラメで輝きを増し、アイラインはきっちり引いた上に、同じく黒のマスカラで睫毛の存在を主張してから、目尻に付け睫毛をちょこっと足し、華やかさを補助していた。
小さな唇は目元を際立たせるために、自然な肌色のペンシルで形を整えた後、ピンクの混じった淡い口紅でほんのりと色づき、頬はさり気なく、唇と同系色の桃色が薄く染まっていた。
少し前まで彼の腕の中にあった、華奢で柔らかい抱き心地の好い肢体は、上品で華麗な黒のロングドレスに覆われ、光を反射する生地で仕立てられたドレスは、微かな動きでさえも、照明の光を正確に受けて、キラキラと、輝きが鱗の如く瞬いた。
更に、ほっそりと伸びた両腕には、同様に黒のベルベットで作られた長い手袋が胸元まで嵌められ、しっとりと光沢のある生地が淑女らしさを漂わせていた。
仕上げに、二つの敏感な耳朶には、模造と本物のダイアモンドでこさえられた雫型のイヤリングが燦然と輝き、これらもまた同様に、電灯の光を受けて、眩しく乱反射していた。
「? 夕貴さん?」
香は、息をするのも忘れて、ひたすら食い入るように自分を見つめる恋人を呼んだ。
しかしながら、呼んでも反応がなかったため、香は言葉を続けた。
「あの、凄く高そうなものばかりですけど、本当にお借りしてもいいんですか?」
「黙って。・・・一回転して」
指示された通り、香は口をつぐむと、その場でゆっくりと回った。
すると、急に背後から抱き寄せられ、香は小さく吃驚した。
「わっ」
「・・・表現するのに相応しい言葉が見つからないくらい、美しいです。とても綺麗だ・・・」
夕貴はうっとりと、心酔しきった如く呟くと、ドレスのデザイン上、大きく開いて剥き出たうなじから背中にかけて、チュッと軽い音を立てて、キスした。
次いで、夕貴は顔を上げると、香しか聞き取れない小声で、耳元へひそひそと囁いた。
「もしこの場に彼らがいなかったら、今すぐベッドへ押し倒していたところです」
「!」
再考や長考する間もなく、香は瞬時に耳を疑った。
自分に対する彼の欲求は天井知らずで、際限がないのか?
喜ぶと同時に、香は恐怖に戦慄した。
明日葉グループ創立七十五周年を記念したパーティーが始まり、会場は盛況を極めた。
香が初めて参加した、オープニングパーティーとは比べ物にならないほど、宴は大々的で華々しいものだった。
著名人も数多く出席し、女優や俳優、モデルに芸能人、歌手、学者、棋士、スポーツ選手、政治家、芸術家、映画監督など、錚々たる面々が顔を連ねた。
彼らは皆一様に、施設と明日葉グループに所縁のある人物たちばかりだった。
明日葉のホテルで挙式やディナーショーを敢行したり、会見・撮影場所や催し会場として使用したり、またコマーシャルに出演するなど、彼らとグループ会社は、持ちつ持たれつの間柄にあった。
むろん、宴会場には一般の招待客たちが大勢押し掛けており、中でも、媒体拘わらず、記者たちの幾人かは、重たい機材を広間の片隅であちこちへ巡らせ、明日葉の栄華を取材していた。
全国的に有名な同業者連中を始め、明日葉の海外系列からも、重役とその家族が祝杯に駆け付けた。
明日葉筋の者は、各ホテルのブライダル・宴会、飲食、購買(リネンや寝具、備品などの自社製品を展開する子会社もあった)、プールやテニスコート、ジムなどの内外施設部門の責任者を筆頭に集結し、日々の尽力を労い合っていた。融資元の銀行員幹部や、旧財閥出身で潤沢な財産を所有する富豪、投資家など、主要株主たちもこぞって同伴者を引き連れ、各々愉快な時間を過ごしていた。
「きゃ~、ほら見て!明日葉ジュニアのお出ましよ!」
「ああ~ん、超カッコイイ~!アメリカ帰りの長身でハンサムな御曹司!」
「でも見て!女連れてる~!ショック~!」
とある一つの円卓の周りで、華やかにドレスアップした複数の女性招待客たちが、それぞれシャンパンを片手に、父親へ恋人を紹介するために、香を伴って、人波を軽やかに通り抜け、別の円卓を目指す、明日葉の後継者を遠くからもてはやした。
しかし、彼女たちは御曹司と連れ立った香をよく見ると、上げていた熱を途端に下げた。
「見かけない女ね」
「そうね。ねぇ、絵莉花。あの女知ってる?」
すると、絵莉花と呼ばれた、軽くパーマを当て、ふんわりしたショートボブの頭に、可憐な花のコサージュを付けた小柄な女性は、向かいの円卓で、明日葉の長へ息子伝いに紹介される香をちらと一瞥してから、答えた。
「知らない」
「うっそ、絵莉花が知らないはずないじゃな~い」
「そうよ~。ねぇ、意地悪しないで教えてよ~」
女性たちは朗らかに絵莉花へ縋った。
だが、絵莉花は手に持っていたグラスから、シャンパンをぐいと一息にあおって、ぴしゃりと言い放った。
「知らないものは知らないの!」
「うっそ、まじぃ?」
「ねぇ。絵莉花でも知らないなんて、あの女一体何者かしら?」
「ちょっと、でもって何よ。でもって」
すかさず、友人たちの台詞の端をピクリと耳に留めた絵莉花は、聞き捨てならないといった面持ちで、ぷんすかと訊き返した。
「だって~。絵莉花、ジュニア一筋の大ファンだし♡」
「は!?」
「そうそう。絵莉花はジュニアが推しで、ぞっこんなんだよね~?」
「はぁ!?」
二人の女性は軽口をたたき合い、背の低い友人をからからと冷やかした。
「だから、ジュニアのことなら何でも知ってるかと思って♪」
「そうそう。健全なストーカー!」
上手い例えだと言わんばかりに、女性たちは大口を開けて笑い、顔の赤い、いじらしい友人を揶揄った。
「も、もう!適当なことばかり言って!(シャンパンの)お代わり貰ってくる!」
ばつの悪い絵莉花は一時退避を余儀なくされ、空のグラスを持ったまま、白いテーブルクロスの掛けられた円卓を後にした。
酒の満ちたグラスをお盆に載せた給仕係が、人波の中に紛れ込んではいたが、近くに見えなかったため、絵莉花は大広間の片隅に置かれたテーブルまで移動し、空のグラスと、ズラリと並んだぶどう酒入りのグラスを交換した。
しばしの間、絵莉花は一人その場で佇み、ぼんやりと物思いに耽った。
そうだ、友人たちの言っていたことは、あながち嘘というわけではなかった。
事実、彼女は一目見た時から、明日葉の御曹司に心恋うてきた。
だがしかしながら、次期頭取と名高い、大手銀行幹部の娘でもあった彼女は、幸いなことに、彼と面識は一応あったのだが、奥手が過ぎた故に、恋心は見事に行く手を失っていた。
とはいえ、深々と降り積もる雪の如く、彼に対する思慕は日々だんだんと膨れ上がっていき、彼女は気持ちを打ち明けられない代わりに、彼の生い立ちや、仕事に関する様々なことから、身辺や女性関係など、私的な事柄(紳士で清廉潔白な彼は、スキャンダルは一つも見当たらなかった。たとえ見つけたとしても、恐らく彼女は黙認しただろうが)まで探偵並みに一通り調べ上げて、切ない想いを満たしてきた。
彼女は正に敬虔な信奉者で、彼を心から崇拝していた。
これが、友人たちの冗談交じりに茶化した、彼女が彼の「大ファン」であり、「健全なストーカー」である所以だった。
だから、推しがいきなり何の前触れもなく、文字通り彼女の目の前に現れた時、絵莉花は危うく口にしていたシャンパンを驚きのあまり、全て吐き出してしまいそうだった。
「絵莉花さん」
同じくシャンパンを取りに来た夕貴は、隣で呆然と突っ立った知り合いに気が付き、柔和に微笑んだ。
「!!あっ、あし、明日葉さん・・・!」
「久しぶりですね。オープニングパーティー以来でしょうか」
「は、はっ、はい!え、えと、あの。お、~~創業七十五周年、おめでとうございます・・・!」
「ありがとうございます。楽しんでいただけていますか?」
「はっ、はい!」
「それは何よりです。今日は雄二さんと一緒に?」
「は、はい!父と一緒に来ました・・・!」
「ちょうど良かった。うちの父がご挨拶したいと言っているんですが、どこへ行かれたか心当たりはありますか?」
「はっ、はい!えっと、多分、あっちで部下の人と喋っていると思います・・・」
絵莉花は合わせていた視線を逸らし、父親がいるらしき方向を見た。
それから、夕貴もつられて会場の中心辺りへ顔を移すと、絵莉花へ穏やかに語り掛けた。
「どうぞ絵莉花さんもご一緒に。紹介したい人がいるんです」
「川端さん。どうもご無沙汰しております」
明日葉の後継者は、彼の娘と同じく背の低い、小太りの中年男性へ声をかけた。
「おお、夕貴くん!何だ、絵莉花も一緒か」
香り高いウィスキー片手に、側近の部下と話し合っていた絵莉花の父は、事業にまつわる密談を中断して、主催一族の令息と自分の娘へ向き直った。
「お話の途中すみません。ですが、うちの父が一度ご挨拶を申し上げたいと言っておりまして」
「いやいや。挨拶せねばならんのはこっちの方だよ!全く、こんな景気の良いパーティーに招待してもらって、礼の一つも言わないとなぁ!」
恰幅の良い行員はワハハと腹の底から陽気に笑った。
「それじゃあ、高柳くん。また後でな」
「戻りました」
夕貴は明日葉グループを代表する取締役の父親と香へ話しかけた。
「ああ、どうも、川端さん!本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます!」
宴主は馴染みの行員を見て取ると、すかさず彼の手を取って、馴れ馴れしく握った。
「いえいえ、明日葉さん!こちらこそ、このような盛大な会に娘共々招待いただき、誠に恐縮です!」
「ああ、絵莉花さんも!」
明日葉グループの代表者は、川端氏の令愛にも親しい眼差しを向けて、手を差し伸べた。
「どっ、どうも。本日はおめでとうございます」
「ありがとう。どうぞ心行くまで楽しんでいってください」
「ところで明日葉さん、この美しい方はどこのどなたですかな?」
美人に目がない、でれ助の川端氏が香について尋ねたので、訊かれた父親に代わって、息子が答えた。
「俺の恋人です」
「おお、夕貴くんの!いや全く、こんな美人さん、一体どこで捕まえたんだい?」
「志筑さんは、夕貴が支配人を務めている、最近オープンしましたリゾートホテルの近くで、温泉旅館の若女将をされているんですよ」
次は明日葉氏が問いに答えた。
「ほお!温泉旅館の!女将さんですか!」
感嘆した小太りの中年がじろじろと自分を見回したため、香はぎこちない笑顔で挨拶した。
「こ、こんにちは」
「いや~、さすが!夕貴くんは立派な男だものなぁ!うちの絵莉花と取り替えてもらいたいくらいだよ!」
謙遜した川端氏はガハハとがさつに笑い、明日葉の令息に向かって、自分の娘を揶揄的に卑下した。
突如、自身の名前が話題に上がった絵莉花は、控えめな性分のために、カアッと頬を染めて恥じ入った。
「絵莉花さん。こちらは志筑香さんです。香さん、こちらは川端絵莉花さん」
夕貴によって互いを紹介された二人は、頭を軽く下げ合った。
「ど、どうも」
「こ、こんにちは」
それから夕貴は父親へ向き直ると、辞退を申し出た。
「父さん。俺たち一寸失礼します。まだ挨拶が済んでいないので」
するとパーティーの主催者は小さく頷いて、許可を下した。
「そうか。行ってきなさい」
「はい。川端さん、失礼します。絵莉花さんも、また後ほど」
そして、明日葉の御曹司は再び川端親子へ向き直り、愛想良い会釈と共に一瞥を投じると、紳士らしくスマートに香を連れ立って、人の波間へ消えていった。
「・・・絵莉花。今から父さんは明日葉さんと大事な話をするから、少し向こうへ行っていなさい」
夕貴ら両人が完全に去ってしまうと、川端氏は娘に命じた。
「うん。芽衣子たちのところに戻ってるね」
絵莉花は了解すると、明日葉の首領へペコリと頭を下げた後、テーブルを後にした。
「今時見かけない、清楚で礼儀正しいお嬢さんですね、絵莉花さんは」
人混みの中、小さくなっていく絵莉花の後ろ姿を見届けながら、夕貴の父は独り言ちた。
「いや、あの子は私に似て引っ込み思案でして、どうも積極性に欠けるんですよ」
行員幹部は冗談めいた発言を口に上げ、長年のビジネスパートナーであり、親しい友人でもある明日葉氏を快活に笑わせた。
氏は彼が引っ込み思案どころか、その反対である事実を知っていたからだ。
「本当ですよ。だから真面目な話、親としては将来が心配でね。夕貴くんのようなしっかりした男に任せたいものです」
「でしたら、絵莉花さんは今は誰とも?」
「そこまで器量が悪い訳じゃないんだけどねぇ・・・。誰かうちのエリート行員でも捕まえてくれればいいのに」
「そうでしたか・・・」
「ああ、本当にね。夕貴くんとだったら安心できるんだが。彼とだったら、絵莉花も前から知っているし、何より明日葉ホテルグループと、家柄がきちんとしているしね」
ずんぐりした男は琥珀色のウィスキーを嗜みつつ、友人の企業をさり気なく褒めた。
「それは息子共々光栄ですが、言うならば、絵莉花さんも次期頭取と名高い名士の素敵なお嬢さんですし、夕貴にとって最適なパートナーだと思いますが」
「そうかね。全く君は口が上手いね」
結局、中年の紳士たちは合致している点については直接触れずに、互いを朗らかに称賛し合った。
一方、祝宴へ一緒に出席した友人たちのもとへ戻った絵莉花は、彼女たちが根掘り葉掘りと訊く、遠慮会釈のない尋問に遭った。
「絵ー莉ー花~、見たわよぉぉ!何ちゃっかりジュニアと一緒になっちゃってんのよぉぉ!わたしたちにも紹介しなさいよぉぉ!」
「で、どうだったの!?どんな女だった!?やっぱり彼女!?」
絵莉花は鼻息荒い女性たちの勢いに圧倒されながらも、ささやかな情報を提供した。
「う、うん。温泉旅館の若女将なんだって」
「は!?温泉旅館!?」
「・・・何で?訳分かんない。イミフ」
世間的に名の知れた名家や要人らの令嬢たちは眉根を寄せ合い、困惑した。
それから、ああでもないこうでもないと、友人たちが香について憶測を飛び交わしている中、絵莉花はしょんぼりと目線を落として省みた。
(・・・綺麗な女だったな。背も高くて、モデルさんみたいだったし)
身長が低いために、成熟した一人前の女性として見られないことが多々あった絵莉花は、悩みから自信を失いつつあった。
(やっぱり彼女と結婚するのかな・・・。でも、いつかは・・・)
「絵ー莉ー花~?何ボーッとしてんのぉ!?」
突然、彼女の静かな内省は、最も親しい友人の一人である芽衣子という女性に破られ、絵莉花は急いで面を上げた。
「うっ、ううん。何でもない!」
「大丈夫~?ジュニアに彼女いたの、そんなにショックだった?」
「ううん、大丈夫。ショックではないよ」
絵莉花は微笑みを口元に浮かべて、首を横へ振った。
「ならいいけど・・・。元気出しなよ~?」
「ありがとう」
そう、若干落ち込んではいたが、絵莉花は確かにショックではなかった。
それは何故かというと、平凡な自分に比べ、長身で利発、眉目秀麗かつ紳士、また成功した事業一家の後継者という、並々ならぬ輝かしい肩書を持つ明日葉の御曹司は、世界を股にかけて、多くの美女たちと交際してきたので、言い換えれば、彼女はショックの受けようがなかった。
だがしかし、一つ意外だとすれば、彼女は長年夕貴だけを一心に想い続けていたせいか、彼の香に対する熱の入れようが、どことなく今までの女たちとは違う気がした。
それはまるで、彼女との結婚を念頭に入れている真摯な男のように、絵莉花の目に映った。
しかしながら、まだ希望の持てることに、彼は婚約者とは言わず、恋人と香を銘打った。
したがって、彼女が夕貴に対する特別な感情を、永遠に封印しなければならない日は、そう近くはないようだった。
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