紳士は若女将がお好き

LUKA

文字の大きさ
上 下
11 / 31

11

しおりを挟む
       








 道無き道を大陸地図に表示される矢印だけを頼りに進む。
 【本】が無ければ恐らくはあっという間に遭難していたかもしれない。それ程に山中は人の手が入っていない様子だった。
 そう言えばスタ・アトの村周辺ですら切り株を見なかった。山間やまあいにありながら林業を営んでいない村って有り得るのだろうか?
 もしかするとミッション1の世界設定に関する未設定部分が影響しているのかもしれない。

「もうすぐだヨ。上手い事モンスターにも見つからなかったし運が良かったよね♪」

 あ、そう言えばもう一つ忘れていた。

「【怪物モンスター】と言うのは敵対生物の事ですよね?」

「ん? そうだヨ。他にも魔物だとかクリーチャーとか呼ばれる事もあるけど」

 『魔』物───。『魔』の文字は煩悩ぼんのう凶事きょうじ執着しゅうちゃくを表す文字でもあり、サンスクリット語で障害・破壊・殺す者などの意を持つmāraマーラの略ともされる。いずれにせよいい意味では無い文字だ。
 彼が選択した歴史ルートによりこの世界に出現した敵対生物は確かに命をあやぶむ存在ではあるが…しかし果たしてそれが本当に『魔』物と称されてもいい理由になるのだろうか。ゲームやファンタジーの中では当たり前の存在であるのならば、

「どうして『魔物』なんでしょうね」
「えっ? どうして?って…」
「確かに放っておけば人や動物に害を及ぼすかもしれません。でもそれはあくまでもであり、彼等にしてみたら野生の動物が生きる為に命を食らうのと同じ行為なのではないでしょうか」
「イヤ…さすがにそこまで考えた事は無かったヨ…。相変わらずキミすごい事言うよネ…」

 神々廻ししばさんは腕を組んであごの下をボリボリ掻いた。

「敵だから倒す、倒して経験値にしてレベルを上げる、レベル差があり過ぎるとやられる、だから強くなるために勝てるヤツを大量に倒す…。ゲームではずっとそういう扱いだったし、そういうシステムのひとつでしかないって思ってたからなァ…」

 だからと言って同じ命だから無下むげに殺すなんてやめましょう、なんて言わない。
 本のシステムは絶対だろう。つまりとして召喚されてしまった以上、こちらが手を出さなくても向こうはきっと存在意義にのっとって命を奪いに来る。衝突を回避出来ればなどという考えは恐らくは通用しない。

「まさか…みさキン、敵は倒すな!って言うつもり?」
「いいえ、それは有り得ません」

 ピシッと言い放つ。
 人類は生き残り歴史を紡ぐ為に彼等をあやめ続けるだろう。それはこの星の歴史の為の必要ななのだ。誰にも手を合わせてもらう事の無い───
 ならば、せめてそのごうだけは背負おう。産み出してしまった側として。

「敵対生物の総称ってまだ未設定のままですよね?」
「え? …ああ、うん、決まってないヨ」

 彼が本を開いて確認する。

「お願いがあるのですが、それ…私が決めてもいいですか?」
「えっ? マジ!? なんかイイ名前あるの?」
「ええ…。名称は───」

 その名を聞く度に私は思い出し、いつまでも忘れないだろう。そしてその意味を誰も知らずとも、この星に生きる人々の中に永遠に刻まれて欲しい。
 自分達が生きる為に犠牲になるモノ達がいるという、その意味を。



《 世界設定/名称/敵対生物総称:ヴィクティム犠牲者 が世界に登録されました。世界設定の一部名称に修正が入ります。》








   (次頁/22-2へ続く)






        
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...