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私(三成)大長考

人の管理って……

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私(三成):(『この人とこの人の相性は良くないから組ませないほうが良い。』とか『子供が熱を出したから休みます。』『娘の出産に伴い里帰りしてくるので、しばらく休みます。』『暴風警報のため家に子供が居ますので会社に行けません。』挙句の果てには急に辞めてしまう……。こっちのほうが辞めたいのに……。)

所員:(どうされましたか?)

私(三成):(前の仕事でパートさんのシフトを組んでいた時のことをちょっと思い出していまして……。発注して来る店は店で。通常の締め切りの発注と全く同じ用紙を『緊急発注』として再送信して来たり。原料生産の依頼を社長の趣味のお茶を仕上げることが優先されて後回しにされたり……。それに伴い生産変更を余儀なくされたら『お前の計画が悪い。』と上から下から吊し上げを喰らったり……。外回りに畑。荒茶の生産ラインの掃除に前日生産された荒茶の計量やら搬入に忙殺されながら……。身体は一つしか無いんだい。……こう言う煩わしいものが嫌だから。て言うかそれ以前に身体がぶっ壊れましたので。今の仕事に行き着いたのでありましたが。面白半分に会社の教育プログラムを学んでいく内に。段々……。)

所員:(前の職場の愚痴ですか?それとも今の職場に対する愚痴ですか?)

私(三成):(福沢諭吉5枚増やすために命を削るなら、5枚減らしてでも健康を保つことが出来るほうが良い。それが40年生きての結論ですかね……。奨学金の返済も終わりましたし。見てくれが幸いしまして義務で教育を受けさせなければいけない身内もいませんので。寝るスペースと運動をすることの出来る環境を確保することの出来るだけの収入があれば十分なんですけれども……。)

所員:(なにやらお疲れのご様子でありますが……。)

私(三成):(……退職する手続きをするにもエネルギーが要りますからね……。閑話休題。伏見の戦いが終わり、秀秋の動向がいよいよ怪しくなることへの対応策を考えている内。忘れていた昔のこと。現実逃避したい今のことを思い出してしまいまして……。)

所員:(人の管理の基本は『人を人と思わないことですよ。』)

私(三成):(それをやったから三成がああなったわけでありますし、前の職場から私も含む従業員がほとんどいなくなったのでありますから。……でも今川義元ではありませんが『これ以上のことは出来ないよ。』と言うことをしたにもかかわらず三河の豪族は。と言うことも理解することは出来ますからね……。)



所員:(大坂方の勢力を整理してみましょうか。現在大坂に集結しています大坂方の主だった勢力となりますと、大将格の毛利輝元を筆頭に五大老の1人宇喜多秀家。この両名は2万前後の兵力を持って大阪入りしています。そのほかで1万規模の兵力を持っていますのが小早川秀秋、鍋島勝茂。立花宗茂と小早川秀包。5千前後が長宗我部盛親と小西行長。そして石田三成であります。)

所員:(一方の家康方。関ヶ原に参戦した勢力を見ますと、家康の3万が気になりますが、これは家康の親衛隊。機動力はありません。実際に戦うと言うよりは、味方を督戦するための飾りでしかありません。家康子飼いで機能するのは井伊直政と松平忠吉合わせて6千のみ。残りは東山道をひた走っているところ。そのほかの部隊は全て豊臣恩顧の武将。規模にして3千から6千の部隊が名を連ねております。)

所員:(地の利は大坂方にあり。普通に行きますと大坂方優勢に事が運ぶことになるのでありましたが。)

私(三成):(小早川秀秋が家康方に通じていたこと。吉川広家と家康の間で話が付いていたため毛利は参戦しなかった。と……。)

所員:(勿論それらの話が付いていたから家康は地の利の不利を承知で。三方敵に囲まれた危険な関ヶ原に兵を進め、宇喜多、小西、石田らが陣取る部隊にのみ兵力を集中させることが出来た。)

私(三成):(そう考えていきますと、今。秀秋や広家を畿内から遠ざけるのは必ずしも得策では無いのか……。)

所員:(撒き餌ですね……。)

私(三成):(……いや待てよ。このいくさは別に家康のクビをとらなくてもいいんだよな……。秀頼と言うカードを家康に握らせなければ良いだけの話。つまり……。)

所員:(……つまり。)

私(三成):(決定的な衝突にさえ至らなければそれでよい。家康を畿内の外に封じ込めてしまえばそれでよい。家康にいくさを決断させるだけの材料。隙を与えなければよい。……となれば小早川秀秋と吉川広家が畿内に居る必要はない。秀秋の1万5千は敵に警戒感を与えるには貴重な戦力ではあるが。彼の心は常に家康方にある。そんな彼を用いるわけにはいかない。もっとも三成の力で『用いる』ことなど出来ないのであって、あくまでお伺いを立てるのでありますが。……パートさんのほうが強かったよな……。間通さず直社長だったからなあいつら……。じゃあシフト組んで。ってお願いしたら『それは社員の仕事でしょう。』とのたまいやがってさ……。)

所員:(背後からタックルをしてはいけませんよ……。)

私(三成):(戦国時代はむしろ奨励されたことでしょう。)

所員:(まぁそうではありますが。)

私(三成):(今後の方針としましては、秀秋と広家には家康との連絡を取ることが出来ない場所で別の仕事をお願いしつつ、自分の立ち位置を理解していない毛利輝元に当事者意識を持たせること。そして何より告発文に名を連ねたため不安になっている増田長盛が持っている大坂城の蔵から資金を捻出させ、持久戦に持ち込む。その持久戦に持ち込む場所を何処に定めようか……。)
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