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ネックは三成自身の人件費

3杯目には小ぶりの茶碗に熱いお茶を

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 中央政界のことには目もくれず。領内の活動に余念のない石田三成こと私。そんな私(三成)に対し、大坂城から一通の書状が届くのでありました。

所員:(増田長盛からですね……。)

増田長盛:1573年。まだ信長の家臣であった羽柴秀吉に見出された長盛は、各地を転戦し活躍。本能寺後における秀吉の天下取りの過程の中で、越後の上杉景勝との折衝並びに関東の諸勢力と秀吉とのパイプ役を担うなど外交担当者としての成果を修めた長盛は、橋の建設や河川改修。更には城の築城にもその才を発揮するなど秀吉の奉行としての地位を確立することになるのでありました。その長盛と太閤検地や朝鮮出兵における占領政策。現地との兵站などで苦楽を共にして来たのが石田三成。

私(三成):(薩摩に行った勘兵衛が何か仕出かしたのかな……?)

長盛:『三成元気か?こっちは相変わらず上司に振り回されているよ。もっとも今の上司(家康)は前(秀吉)と違って独裁者で無いだけまだマシなのかもしれない。ただ先年の朝鮮での一件の見直しを使って家康が勢力を伸ばそうとしているのが少し気になるところではあるが……。』

私(三成):(……まぁ……そうなりますわな……。続きがあるぞ……。)

長盛:『ところで最近。お前の領内で変な動きが見られているとの噂が流れているぞ。急に大量の牢人を雇い入れたり、国友村の鉄砲鍛冶使って大量の武器を製造したり……。それらを使って美濃との国境地帯で軍事演習を繰り返している。と……。もっともお前がこぶしを振り上げたところで家康をどうこう出来るわけでは無いことぐらいお前もわかっているであろうし、家康は家康で。大坂での影響力を失った三成のことなんか気にもしていない様子。急に攻め込まれるようなことは無いから心配するな。ただ奉行の立場として気になるのが、牢人の採用に加えあれだけの武器弾薬を使っての軍事演習をお前の所領。19万石で賄える規模では無いし、これまでお前がやって来たことを見ると、豊臣本家から横領していたわけでも無い。更には京や堺の商人から借りているわけでも無く、領内に重税を課している様子も見られない。にもかかわらずあれだけ派手なことが……その資金の出所がわからないのであるが。……まぁ間違っても家康に弓を引くような真似だけは辞めておけよ。じゃあな。』

私(三成):(実弾が飛び交っても問題が無い人気の無い場所を選んで行っているのでありますが、さすがに国境地帯はまずかったようですね……。)
所員:(まぁ家康が相手にしていない様子でありますので気にしなくても良いでしょう。)
私(三成):(……ただ長盛に疑われてますね。資金の出所について……。)
所員:(贋金つくりに手を染めることが出来るような金山や銀山も近江には……でありますから尚更のことでありましょうね……。)
私(三成):(佐和山の蔵ひっくり返しても三成はそんな資金を遺してはいませんからね。実際のところ……。)
所員:(まぁこういう時は逆に派手なことをやったほうが、紛れるものでありますよ。)

……と所員が提案して来たのがかつての上司。太閤秀吉が北野で開催した大茶会。これは身分国籍に関係なく全ての民に対し、秀吉がお茶を点てる。と言うイベント。日本全国に告知したこともあり遠方からの客も考慮し、10日もの開催期間を設けたのでありました。

所員:(……このイベントを佐和山で再現しましょうか?)
私(三成):(利家逝去直後の一件でもわかりますように……三成。人気ありませんよ……。)
所員:(いや。その人気が無い。とか奉行として一分の隙も見せない三成だからこそ。『あの三成が!!』と思わせることが出来ると思いますよ。)
私(三成):(でも……21世紀から湯水の如く資金を大量に導入することが出来たとしましても、規模をあそこまで持って行くのは大変なことでありますし、……イベントごとは準備から片付けまでを予定通りに出来ることは、まずありませんから……。)
所員:(まぁその点は、佐和山は京の都ほど人口が居るわけではありませんし、失脚している三成の催し事でありますので。心配されるような来客数を怖がることはありません。『ノスタルジーに駆られて。』で来場されるかたが居るかも?ぐらいで思って頂ければ。)
私(三成):(……全く来ないのも、それはそれで辛いところがありますね……。)
所員:(その辺りは一工夫致しましょう。)

で。企画されたのが

『北野大茶会から12年。この佐和山の地で復活。来場された全てのかたに対し漏れなく、堅物で名高い石田三成が太閤秀吉を篭絡したあの3杯のお茶を完全再現致します。』

当日。
私(三成):(……誰だよ。『3杯のお茶を完全再現』とか謳った奴は……。ちっとも捌けやしないよ……。)
所員:(最初は大きな茶碗にぬるめのお茶を。次は最初よりやや小さい茶碗に少し暑めの茶。そして最後。小ぶりの茶碗に熱いお茶でありますよ……。)
私(三成):(……北野の時は確か秀吉のほかに3人の茶人が居て……。くじ引きで決めていたよな……。なんで俺独りなんだよ……。)
所員:(こちらも武器弾薬にお金を使い過ぎてしまいまして……。本部からの締め付けが少々厳しく……。)
私(三成):(俺独りでこれだけの人数相手にしなきゃいけないのか……。『はい!!飲み終わったお茶碗はこちらのほうにお願いします。』……昔の大店法時代の定休日に、会員様限定で催した特別招待会を思い出すよ……。無茶苦茶振り回された挙句、次の日客が来やしねぇ……。どっちが定休日なのかわかったもんじゃないよ……。)
所員:(思ったより人が来ていますね……。)
私(三成):(……面倒くさいから『松永流』に切り替えようか……。)
所員:(……『松永流』とは?)
私(三成):(松永久秀のことだけど……。『あぁ。お茶が下にとぼんじゃったよ……。次の湯足して誤魔化すか……。』)
所員:(……利休と同門の松永久秀でありますか……。してどのようなお茶を点てるのでありますか?)
私(三成):(浮世のことを全て忘れさせるような濃いお茶の中に隠し味を一粒……。)
所員:(……それは家康が来た時だけに致しましょう。とりあえず今は、目の前の客に集中してください。)
私(三成):(客『どこのお茶だって?』私『佐和山で採れたお茶ですよ。』客『歓心しないねぇ。お茶と言えば宇治だろう?』私『あぁ……はい。すみませんねぇ。』……琵琶湖挟んだだけだろうに……。)

しばし転生前の記憶を思い出す私でありました。
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