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問題は

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高坂昌信「問題は焙烙玉の調達とそれに掛かる費用か……。」

本多正信「それだけではありません。」

高坂昌信「と言われますと?」

本多正信「九鬼の舟を御覧になった事は?」

高坂昌信「残念ながら、まだありません。」

本多正信「先程、焙烙玉を舟内部目掛けて投げ込むと申しました。」

高坂昌信「はい。」

本多正信「『投げ込む』

と申したのには理由があります。矢は弓により遠くに飛ばす事が出来ます。弾薬も鉄砲の助けを借りる事により同様の効果を産み出す事が可能となっています。一方の焙烙玉でありますが、これを遠くに飛ばす術は……。」



 人の力しかありません。



本多正信「南蛮では鉄砲のような方法で焙烙玉を放つ道具があると聞いています。しかし大変高価であるため、毛利の経済力を以てしても手に入れる事は出来ていません。ならば鉄砲のように造ってしまえば良いのかも知れませんが、そこまでの技術が確立されているわけでもありません。しかも重く運ぶのに難儀する上、壊れやすい。実戦で投入する事が出来るのは、据え付けたまま活用する事が出来る籠城戦のみであります。」

高坂昌信「毛利は危険を承知で……。」

本多正信「自らの手で以て、点火した焙烙玉を敵舟目掛け投げ込んでいます。」

高坂昌信「海の上でだろ?」

本多正信「はい。相当の訓練を積まなければ……。」



 自分の舟を沈めてしまう危険な代物。



本多正信「加えて九鬼の舟には高い防御壁が設けられています。」

高坂昌信「小浜の舟よりも高いか?」

本多正信「小浜様の舟でありますか……。良い勝負かも知れません。」

高坂昌信「不安定な足場で、失敗したら乗っている舟を沈めてしまう危険性がある火が点いた焙烙玉を敵の高い防御壁を越え、中に投げ入れなければならない。一向宗や雑賀の方々が採用しなかった理由は……。」

本多正信「はい。限られた費用を効果的に利用する事を考え、焙烙玉の使用を見送っています。」

高坂昌信「その分を鉄砲に回している?」

本多正信「はい。」

高坂昌信「しかしその鉄砲では九鬼の舟を沈める事は出来ない?」

本多正信「はい。長島の陥落。並びに九鬼の動きを雑賀の者が止める術を持っていない事が物語っています。残念でありますが、これが我ら一向宗の実力であります。」

高坂昌信「焙烙玉を用いれば、九鬼と渡り合う事が出来る?」

本多正信「九鬼がまだ焙烙玉の存在に気付いていなければ。でありますが。」

高坂昌信「その可能性は?」

本多正信「舟の備えを見る限り十分にあります。」

高坂昌信「もし知っていたら、その備えを施している可能性がある?」

本多正信「はい。」

高坂昌信「わかった。焙烙玉。使わせていただきます。」
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