大将首は自分で守れ

俣彦

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担がれた神輿

志賀城の戦い3

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 翌日、志賀城。前日に舞い込んだ「山内上杉の援兵来る」の報に沸き立った城内。水の手が断たれる中、10日にも及ぶ武田晴信の城攻めに耐えて来た城兵は、援兵の到来を今か今かと待っていました。やがて東の空が白み始め。かがり火が無くとも周りを視認できるようになった城兵たちはそこで。前日までには無かった。城の外の光景を目にするのでありました。

 前日。小田井原で山内上杉の兵の殲滅に成功した板垣、甘利両隊は諏訪衆などの兵達に本来の目的を伝え、実行へと移すのでありました。その指示の内容とは……。



志賀城兵「あれはなんなんだ!!」



 彼が発見したのは城の外に整然と並べられた無数の円い物体。信越国境に阻まれ、なかなか姿を見せなかったお日様が徐々に徐々に顔を出し始め、これまで黒一色であった円い物体に様々なコントラストが映し出されるようになったその時。



志賀城兵「……首……。首だ!!」



 前日。板垣信方と甘利虎泰が出したその指示。それは……。



板垣信方「よおし。お前たち良くやった!!」

配下「(歓声を上げる。)」

甘利虎泰「お前たちが疲れておることはわかっておる。わかっておるがお前たちにはもう1つ仕事をしてもらおうと思っておる。。」

配下「(あちらこちらからざわめきの声が。)」

板垣信方「今からここに転がっている山内上杉の兵。全ての首を刈ってもらう。」

配下「(どよめきの声。)」

甘利虎泰「身分の大小は問わない。とにかく首を刈ってくれ。その全てがお前たちの恩賞の対象となる。」

配下「(本当なのか?)」

板垣信方「さあ時間が無い!早速取り掛かるぞ!!」



 半信半疑の中、実行に移す配下の兵達。数刻後。集められた3000にも山内上杉方の首を見た板垣信方は。



板垣信方「よし!!これを運ぶぞ。」

配下「(ざわめきの声。)」

甘利虎泰「それも御館様に気付かれぬようにな。」



 意味も分からず首を隠し持ちながら包囲している志賀城へと戻る板垣・甘利の両隊。



 夜。再び配下の兵を集めた板垣信方は



板垣信方「今からは隠密行動である。くれぐれも物音を立てぬように。」

配下「(静かに頷く。)」

甘利虎泰「持ち帰った首を全て……。」

板垣信方「志賀城に並べるぞ。」



 夜を徹して志賀城に3000にも上る山内上杉方の首を並べる板垣・甘利の両隊。

 迎えた朝。それらの首を志賀城の城兵は目にしたのでありました。最初。あまりに現実離れした光景に何が何だかわからなかった城内でありましたが。武田晴信による包囲が続いている。と言うことは、ここに並べられた首は武田方の兵ではない。……となるとここに並べられた幾千にも及ぶ首の持ち主は……。



板垣信方「お前たちよおく聞け!!」

甘利虎泰「ここに並べられた首の全ては、お前たちを助けるためにやって来た山内共の首であるぞ!!!」



 包囲されてから10日。水を失いながらも懸命に戦う中、待ちに待った山内上杉の後詰。武田を上回る兵数に上杉憲政の本気度を感じ、勇気をもらった城兵の頼みの綱は今。……胴から切り離され。城の目の前に並べられている。……もはや援軍は来ない。希望から絶望へ一気に急降下するジェットコースターに城兵の士気は著しく低下。これを確認した板垣・甘利の両隊は総攻撃に入り外曲輪と二の曲輪を焼き討ち。全てを焼き尽くした翌日。本曲輪へと突入し、城主の笠原清繁と城に入っていた山内上杉家臣・高田憲頼を討ち取り落城させるのでありました。



 志賀城落城により戦いは終わるのでありましたが、城内に残された人々の地獄はこれからが本番なのでありました。
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