大将首は自分で守れ

俣彦

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担がれた神輿

表裏者4

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甲斐の国躑躅ヶ崎館。



武田晴信「何!!高遠が諏訪に攻め入ったのか!?」

山本勘助「はい。」

武田晴信「して敵方の勢力は!?」

山本勘助「高遠頼継のほか箕輪の藤沢に伊那春近衆が加わり乱入。これに頼継が占拠した諏訪西方の衆が合流した模様。」

武田晴信「戦況はどうなっておる?」

山本勘助「板垣様の力添えもあり、幸い下諏訪の衆並びに諏訪満隆は我がほうにあります。ただ……。」

武田晴信「ただ?」

山本勘助「高遠頼継が『諏訪の解放』を旗印に掲げているため、いつ彼らが反旗を翻すことになるかわかりませぬ。特に満隆は頼重の叔父。心から殿に服しているとは思えませぬ。」

武田晴信「諏訪のほかの衆は?」

山本勘助「いくさの行方を見守っている様子。」

武田晴信「このままでは板垣を見殺しにしてしまう。直ちに兵を出さねばならぬ。」

山本勘助「左様に御座います。ただ……。」

武田晴信「ただ?」

山本勘助「我らが諏訪を領するだけの大義名分が必要かと思われます。」

武田晴信「具体的には?」

山本勘助「高遠頼継は諏訪の一族であり、我らが諏訪を倒した後。権力の空白地帯となった宮川の西を占拠しています。その際、高遠は旧諏訪領の衆に歓迎されたとか。」

武田晴信「その高遠が今度。諏訪の全てを諏訪一族の地に戻すべく宮川を押し渡って来た。と……。」

山本勘助「はい。我らと高遠が共闘したことをどうやら諏訪の衆は気付いていない模様。」

武田晴信「高遠が動く前に片づけてしまったことがまずかったのか……。」

山本勘助「いえ。むしろ殿の敵となる人物が浮き彫りになり良かったと思っています。」

武田晴信「ただ現状我がほうが不利。」



 9月10日。高遠頼継は上原城を攻略。



山本勘助「我らの力で高遠めを破らねばならぬのは変わらないのでありますが、せめて諏訪の衆だけでも味方につけねばなりませぬ。」

武田晴信「そのためのカードが必要と言う事か?」

山本勘助「御意。」

武田晴信「……頼重が居ないからな……。」



 先のいくさで晴信は諏訪家当主。諏訪頼重を自害に追い込む。



山本勘助「そこでなのですが。殿……。」



 別の部屋。



武田晴信「禰々はおるか?」

禰々「兄上。如何されましたか?」

武田晴信「頼みがある。寅王丸を貸してくれ。」

禰々「寅王をどうされるのでありますか?まさか寅王まで……。」

武田晴信「いや。そうではない。ただ今回のいくさでどうしても寅王丸が必要なんだ。」

禰々「寅王は乳飲み子でありまするぞ。」



 寅王丸が誕生した年に武田晴信は諏訪へ侵攻。



武田晴信「寅王丸をいくさの真っ只中に放り込むことは断じてない。甲斐の国からは出さぬ。それは約束する。絶対に守る。少し西に異動させるだけである。頼む。」



 晴信が勘助から受けた助言。それは……。寅王丸を神輿に担ぐこと。

 甲斐から信濃へ通じる要地・若神子。



武田晴信「高遠が申しておる諏訪の解放は戯言である!我らは諏訪頼重は遺児。寅王丸様を逆賊高遠頼継から守るべくお預かりしているだけである!!大義は我にあり!!!いざ出陣じゃ!!!!」



 寅王丸を若神子に置き、武田晴信自らが兵を率い板垣信方と合流。寅王丸の代理となった武田晴信のもとには、これまで静観していた諏訪の衆が合流。大義を失った高遠頼継は宮川橋でのいくさに敗れ諏訪から敗走。勢いに乗った武田軍は兵を藤沢頼親が居る箕輪。更には伊那へと進め、10月7日。旧諏訪領の全てを武田が占拠するのでありました。
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