大将首は自分で守れ

俣彦

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担がれた神輿

南か北か

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武田晴信「……どちらとも同盟を結んでいるんだよな……。」



 今川、諏訪共父信虎の代に縁戚関係を結び、特に諏訪との間では両家の当主自らが互いの本拠地を訪問し合う間柄。



板垣信方「ただこのままですと武田の発展が止まることになってしまいます。」

武田晴信「……そうなんだよな……。それに……。」



 今川義元の妻は武田晴信の姉。諏訪頼重の妻は武田晴信の妹。血縁関係を結ぶことにより有事の際。共同で事にあたることが出来る一方。



武田晴信「敵対するとなると……。」



 真っ先に報復の対象となる人質の側面も持つ。



武田晴信「時間を掛けず。こちら優位の状況で和睦へ持って行かないことには……。」



 身内を失うことにもなりかねない。



武田晴信「それだけは避けねばならぬ。かと言って、その同盟に安住し続けるわけにも……。」



 重臣が静かに晴信を見据える。



武田晴信「……いかないよな。」

板垣信方「左様に御座いまする。」



 ではどちらと手を切るのが良いのか。



甘利虎泰「今川義元は、我が武田と同盟を結んだことにより北条と対立。これに乗じ義元が家督を相続した際、対立した勢力が義元から離反したため混乱状態となっています。ただ北条の当主氏綱が亡くなったことにより今は沈静化。」

飯富虎昌「ただ北条に駿河の東部を抑えられ、遠江では井伊などが不穏な動きをみせており、必ずしも盤石と言うわけではありませぬ。」

板垣信方「とは申せ駿河は大国。簡単に攻略することは出来ませぬ。むしろ今は、この混乱を収める手助けをすることにより、今川に恩を売るのが得策。」

武田晴信「親父も世話になっているからな……。」





 一方の諏訪のほうは?



甘利虎泰「信虎様追放により、一時的に我が武田家の影響力が及ばなくなった隙を突き攻め込んで来ました山内上杉に対し、諏訪頼重はこちらに対し無断で講和を結んでしまいました。」

飯富虎昌「しかもその際、取引条件として山内上杉に差し出したのが。」



 海野平の戦いにおいて武田が手に入れた佐久郡の権益。



板垣信方「これは諏訪が我が武田を蔑ろにしたも同然のこと。」

甘利虎泰「今後頼重がこのことに味をしめ、他国の兵を用い甲斐へ乱入することになるかもしれませぬ。」

武田晴信「飯富はどう思う?」

飯富虎昌「……私はその件についてのコメントは差し控えさせていただきます。」



 飯富はかつて信虎と敵対した際、協力を取り付けた相手が諏訪。



武田晴信「いつでも甲斐に攻め込むことが出来る位置に表裏者が居るのは面白くない。加えてこちらの了承なしに我らの権益を他国に売り渡した件は報復に値する。故に兵を出す理由が立つ。佐久の国人を動かすことも出来る。ただ心配なのは……。」



 妹の安全。



板垣信方「ことが佐久の権益。諏訪本体のことではありませぬ故、大事になることはありませぬ。」

武田晴信「そうなると甲斐の北西部が諏訪頼重に脅かされ続けることになるのは変わらないと思うのであるが。」

甘利虎泰「なら攻め滅ぼすまでのこと。」

武田晴信「そうなると妹の身の安全が……。」

板垣信方「この件につきましては、私に考えがございます。」
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