大将首は自分で守れ

俣彦

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海野平の戦い

海野平の戦い4

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家臣「『海野平』と呼ばれるだけありまして、本領と言えば本領なのではありますが……。」



 村上義清が『あいつ』呼ばわりした相手。その人物の名は海野棟綱。家臣の言う通り義清が狙っている海野平は海野氏にとって本貫地とも言える場所。それだけ見れば村上と海野間には、これまで接点が無かったようにも思われるのでありますが。



村上義清「海野は、我が村上にとって仇敵とも言える相手。」



 海野氏は海野平のほかにも信濃国内。特に北信濃の様々な場所に飛び地を領有。足利将軍の力が安泰な時代はそれで問題無かったのでありましたが、6代将軍足利義教が暗殺されたあたりから雲行きが怪しくなり。9代目を決める応仁の乱以後続く足利将軍家の内紛を利用し、勢力を図る不届きな輩が全国に跋扈。その1人が……。



村上義清「……俺ん家のことか!?」



 現在、村上義清が治める埴科郡と小県郡(青木郷)はもともと海野氏が領していた場所。この海野氏の土地を簒奪、横領することにより村上氏は戦国大名に成長していくのでありました。



村上義清「海野平だって荘園制が崩壊した時点で海野支配は終わっているハズなんだけどな……。」



 海野平は郷村の集合体。



家臣「なぜ郷村無勢が旧来のシステムを排除するだけの力を有したのでありましょうか。」



 室町時代になり、中国などから灌漑・排水の技術が導入されることにより耕作地が拡大。これに地力を回復させる肥料に裏付けられた二毛作が全国に普及。更には耕作に牛や馬を導入することにより労働力の集約が可能となったこと。加えて稲の品種改良により収穫量の安定。それに商品作物の生産や手工業の発展により農村でも現金収入を得る術を得たことにより、農業に従事しなくても良くなったもの=政治や軍事に特化することが出来る人員を出すことが出来るようになったこと。現金収入を得ることが出来るようになったため、武装が容易となったことが重なり、海野平ではこれまでの秩序を打破する組織が出現したのでありました。



村上義清「で。なんでまた、よりによって旧主の海野を迎え入れたんだ……。」



 ……担ぐ神輿は軽いに越したことは無い。



家臣「海野には、もはや帰る場所はここしか残っていません。残っていないと言うことはこちら(郷村)の言うことを聞いてくれるに違いない。実際、その条件を海野が呑んだ。と……。担いだほうが担いだほうで自らの手で作った組織でありますから、元々あるものの中で育った組織に比べ、飢えています。更に裕福になってやろう。と外へ外へと目を向けていくことになるのは、ある意味自然な流れ。関東にしか目が向いていない。信濃の事なんか気にしていない山内上杉に付け届けをしておくことにより東側の安全を確保。全勢力でもって千曲川を下り、我が村上と境を為すことになった。と……。」

村上義清「その山内上杉と誼を通じる時に役に立つのが海野のネームバリュー。」

家臣「得体の知れぬ耕作者集団。それも武装をしている。では、なかなか相手にはしてくれないし、不気味な存在でしかないですからね……。」

村上義清「境を為しているとは言え、おいそれとは攻め込むことが出来ない相手ではある。」

家臣「その海野を攻めるのでありますか。」

村上義清「そうじゃ。」

家臣「それも共同で。」

村上義清「確かに。」

家臣「この近隣勢力と喧嘩ばかりをしている我が村上家と共闘する相手なんかいるのでありますか。」

村上義清「喧嘩ばかりしているからこそ出来るのである。まぁ出陣の準備を致すぞ。」
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