大将首は自分で守れ

俣彦

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海野平の戦い

海野平の戦い3

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家臣「海野平は少々特殊な地域でありますね。」

村上義清「通常は国の直轄地以外は『荘園制』を採用し、その時代その時代の有力者が徴税権を獲得する。足利の時代となり、その役目を担っていたのが守護であり、守護は基本。京在中であるため守護代がその任にあたっていた。と……。」

家臣「ただそのシステムも応仁の乱により崩壊。」

村上義清「訴え出て勝訴を勝ち取ったところで、それを執行できるだけの力が無ければ意味がない。実行力のある人物が求められ、その中から勢力を拡大することになった1つが我が村上家。」

家臣「そんな時代でありますから荘園主や守護に頼ってばかりはいられない。と自立へと舵を切るものが農業生産者の中からも登場。それが『郷村』。」

村上義清「大抵の郷村は1つの入会。1つの用水によって完結する生産共同体の域を出ない。ただし海野平のそれは他の郷村と異なり……。」

家臣「郷村同士が結び付くことにより地域を代表する勢力に成長するのでありました。」

村上義清「海野十二郷を主体とした彼らは千曲川を西進。上田庄と常田庄も制圧。我が村上と境を為すまでになった。」

家臣「村落共同体をベースに置いているとは言え、兵農未分離の時代。当然彼らにも戦闘力があるのは確か。ただ幕府の権力が有名無実となっている戦国の世でありましても、裏書きと言うものが無ければ相手に大義名分を与えることになります。そんな彼らの後ろ盾なっている人物が関東管領を輩出する山内上杉家。」

村上義清「山内上杉が絡む。と言うことは、海野平に手を出す=後ろ盾の山内上杉の上野。山内上杉と関係の深い越後。更には山内上杉と良好な関係にある甲斐を敵に回すことになるので厄介。」

家臣「既に敵に回しておりますが……。」

村上義清「……確かに。父などはその辺りは上手に手綱を捌き佐久への侵攻路を確保していたのであるが。如何せん在地領主任せだと振り回される……。」

家臣「振り回されるのは郷村にも言えるようでありまして。」

村上義清「まとまれば油断ならない勢力ではあるが、元を辿れば別々の共同体。いつ何時バラバラとなってもおかしくはない。」

家臣「山内上杉はともかくとして、周りには直轄地の拡大を目論む勢力がひしめいております。」

村上義清「その中の1つが我が村上なのではあるが……。」

家臣「バラバラにならぬよう。郷村集合体の中で1人代表者を出さなければなりません。それも権威と言うものに対しても負けぬだけの家格を有するものであり、かつ各村の利益を侵害しない人物を……。」

村上義清「最後の1つが無ければ代表者になれるんだけどな……。」

家臣「でもそうなりますと上杉に頭を下げなければならなくなりますよ。」

村上義清「……そうなるんだよな……。で。奴らが是非にと誘致した人物がいるんだけどさ……。それがよりによってあいつとはな……。」
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