大将首は自分で守れ

俣彦

文字の大きさ
上 下
1 / 33
海野平の戦い

後ろ盾あれど1

しおりを挟む
 1521年10月村上氏の当主義清は朝廷より従四位下昇叙に伴い左衛門佐に転任。

家臣「殿。おめでとうございます。」

村上義清「うむ。父が亡くなり1年。建武以来続く中央との関係に問題はない。ただ……。」

家臣「ただ……?」

村上義清「幕府との関係が朝廷のようにならなかったのは残念でならない。」

家臣「はい。直臣になる夢は叶わぬままにございます。」

村上義清「まぁよい。もはや幕府の顔色を伺う必要もあるまい。自らの手で家を守っていかねばならぬ。」

家臣「……とは言え手当たり次第にぶつかっていますね……。」

村上義清「北は井上に高梨。東の海野に大井。更には長年辛酸を舐めさせられている小笠原と……。」

家臣「その小笠原の言うことを聞かなかったことが幕府との……。」

村上義清「守護大名の傘下にはなりとうない!!」

家臣「直臣になりたかったのでありましょう。そのお気持ち。重々承知しております。承知おりまするが殿。」

村上義清「なんじゃ。」

家臣「その小笠原が我が家に害を為そうとしたことは一度としてありましたか?」

村上義清「我ら信濃の国人の要求に応じなかったとき奴は武器を手に取ったのではないか。」

家臣「確かに。ただそれは小笠原を守護として認めないと言う無理難題であったからでありましょう。小笠原が信濃に来てかなりの年月が経ちまする。その間、我らを含め信濃国人の権益を脅かしたことはありましたか?」

村上義清「……無いな……。」

家臣「ですよね。」

村上義清「そうなるとなんだ。お前の言いたいことはこうか?小笠原に頭を下げよと……。」

家臣「いえ。そこまでへりくだる必要はありませぬ。小笠原は今。家の中で分裂しておりまする。」

村上義清「……と言うことは分裂している小笠原の中の1人との関係を強化すればよい。」

家臣「左様に御座いまする。」

村上義清「誰か目星はついておるのか?」

家臣「林城の(小笠原)長棟殿は如何かと……。」

村上義清「我らが今目指しているのは信濃北部の掌握。小笠原の居る中南部に手を拡げる気は無いから中部の林城に居る長棟殿と喧嘩する理由は無い。」

家臣「加えて小笠原殿の目は信濃の中南部であります故、林城の長棟殿にとっても背後の安全を確保したい。その背後にいるのが……。」

村上義清「我が村上家であると。」

家臣「左様に御座いまする。」

村上義清「……ただこれまでがこれまでであるからな……。」

家臣「昔は昔。今は今でありまするぞ。」

村上義清「わかった。長棟殿との関係を深めることと致そう。ところで……。」

家臣「何でござりましょうか?」

村上義清「あとの段取りは頼んだぞ。」

家臣「(……え!?)はっ!!!(……丸投げかよ……。)」



こうして長年村上家が一方的に抗争を続けて来た小笠原との関係は修復へと向かい、村上義清は小笠原長棟の娘を正室に迎えるのでありました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

江戸の夕映え

大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。 「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三) そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。 同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。 しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

赤の系譜

濯見 羊佑
歴史・時代
戦国最強軍団『赤備え』にまつわる短編です。表紙はフリー素材です。

梅すだれ

木花薫
歴史・時代
江戸時代の女の子、お千代の一生の物語。恋に仕事に頑張るお千代は悲しいことも多いけど充実した女の人生を生き抜きます。が、現在お千代の物語から逸れて、九州の隠れキリシタンの話になっています。島原の乱の前後、農民たちがどのように生きていたのか、仏教やキリスト教の世界観も組み込んで書いています。 登場人物の繋がりで主人公がバトンタッチして物語が次々と移っていきます隠れキリシタンの次は戦国時代の姉妹のストーリーとなっていきます。 時代背景は戦国時代から江戸時代初期の歴史とリンクさせてあります。長編時代小説。長々と続きます。

処理中です...