もし春日信達が本能寺の変の報せを聞いた直後。真田昌幸に相談を持ち掛けていたら……。

丸馬出し

　長沼城は今の長野県長野市穂保にあった城で武田信玄がこの城を獲得して以降、幾度となく改修。その役目を担ったのは武田家きっての築城名人と謳われた馬場信春。城の東を千曲川で守り、川を拠点に本丸二の丸三の丸を構築。城の出入り口に丸馬出しを設ける事により、上杉の侵入が想定される三才から豊野に至る丘陵地帯からの攻撃防ぐべく縄張りが施されたのでありました。

　春日信達は、その長沼城に弟の高坂昌定を残し海津へ帰城。



高坂昌定「馬場様の想定通りになりましたね。」

依田信蕃「豊野からこちらを伺っているのが良くわかる。」

高坂昌定「兵の数は……。」

依田信蕃「この城を落とすには足りないであろうな。」

高坂昌定「はい。」

依田信蕃「そうなると注意しなければならないのが……。」



　深志からの進軍と川中島の国衆の動向。



依田信蕃「深志については真田に任すしかない。尤も深志が上杉方になった以上、彼も他人事では無くなった。それに……。」



　依田信蕃の本貫地である佐久の地が奪われようものなら……。



依田信蕃「私がここに留まる理由が無くなってしまう事を知っている。彼も必死になって取り組むであろう。」　

高坂昌定「そうで無ければ困ります。」

依田信蕃「一方、川中島の国衆についても私がどうこう出来るものでは無い。其方の兄上に託すほかない。」

高坂昌定「はい。」

依田信蕃「川中島の衆を繋ぎとめるためにも。」

高坂昌定「このいくさ。是が非でも勝たなければなりません。」

依田信蕃「高坂殿。」

高坂昌定「如何為されましたか？」

依田信蕃「此度の布陣についてなのだが……。」

高坂昌定「見せていただけますでしょうか？」



　一読する高坂昌定。



高坂昌定「……えっ！これで宜しいのでありますか！？」



　数刻後。豊野に布陣していた上杉勢に動きあり。彼らが向かった先は勿論長沼城。その間、城側に動き無し。これを確認した上杉勢は一斉に城攻めを開始。目指したのは城の入口を為す丸馬出し。到着するなり丸馬出しの攻略に乗り出す上杉勢。そんな上杉勢に……。



「放て！！」

の号令と同時に丸馬出し内部から一斉射撃。この攻撃を受けた上杉勢は一瞬怯むも、相手は森長可が去り。残るは川中島の国衆のみ。このまま相手の弾切れを狙い攻略を試みるも、城からの攻撃は留まる事を知らず。予想外の。それも間断無く繰り返される反撃に上杉勢が戸惑っている所に……。



「掛かれ！！」

の号令と共に丸馬出しの出入り口から騎馬隊が出撃。混乱する上杉勢を散々に掻き乱す事に成功。その役目を担った人物。それは……長沼城を任されている依田信蕃本人。