もし春日信達が本能寺の変の報せを聞いた直後。真田昌幸に相談を持ち掛けていたら……。

境目

春日信達「……書いた方が早いかな？（紙を取り出し）簡単に書くぞ。上が美濃で下が尾張。この両国の境を為しているのが（一本横線を引き）境川。今回、この境川の上が信孝様のものとなり、下が信雄様のものとなった。」

依田信蕃「……良いですね。こんな簡単に領地を手に入れる事が出来るのは。」

真田昌幸「確かに。何処の家に生まれ、どの時代に生まれたのかによって変わるからな……。私は恵まれている方だが、兄信綱は父幸隆の失脚を経験しておる……。」

春日信達「……話を続けても良いかな？」

真田昌幸「お願いします。」

春日信達「この決定に異を唱えたのが信孝様。信孝様は

『確かに古来から美濃と尾張の境は境川。これは認める。しかし今の人と物の流れを考えた場合、（境川の下にもう一本横線を引き）木曽川を境にした方が実情に合っているのでは無いか？ここを境にすべきである。』

と主張したとの事。これに賛同したのが羽柴秀吉。反対したのが織田信雄様であった。」

真田昌幸「減らされる側が反対するのは当然だな。」

春日信達「信雄様の反対を受け、信孝様は代替地を提示。その対象となったのが土岐に恵那。そして可児の美濃東部地域。」

真田昌幸「ん！？そこって確か……。」

春日信達「我が主君である森長可の権益であります。信雄様信孝様共信長様の実の子供でありますので、どちらが上に立っても問題無いと言えば問題無いのではあります。ただこれが成立するのは双方の仲が良い場合でありまして……。」

真田昌幸「揉め事の原因になりそう？」

春日信達「はい。ただ信雄様信孝双方共美濃東部に興味が無い模様であります。」

依田信蕃「……それはそれで悲しいですね。」

真田昌幸「その感じだと信雄様は信孝様の申し出を断った？」

春日信達「はい。信雄様は元々の境目である境川を主張しています。」

真田昌幸「結論は出ていない？」

春日信達「はい。信孝様は柴田様に相談。柴田様は

『問題が生じたらその都度奉行を派遣し解決を図れば良い。』

と助言したとの事であります。」

真田昌幸「面倒くさい問題には関わりたくない？」

春日信達「でしょうね。」

真田昌幸「織田の息子同士の問題を解決する事が出来ていない。その問題に宿老筋が巻き込まれてしまっている。」

春日信達「はい。」

真田昌幸「森様がここに戻って来る事は難しい状況にあるな？」

春日信達「えぇ。

『しばらく戻る事は出来ない。』

との連絡がありました。しかし理由は信雄様と信孝様の問題では無い模様であります。」