上 下
44 / 62

難儀

しおりを挟む
「……これは相当に厳しいぞ……。」



 声の主は滝川一益。北条方を出し抜き、鉢形城の弱点である城の南西に回り込むも北条氏邦の備えにより攻城は停滞。



滝川一益「小幡は居るか?」

小幡信真「殿。如何為されましたか?」

滝川一益「其方の願いを叶える事は難しいかもしれぬ。このままいくさを続けても悪戯に兵を損耗するばかり。城を囲み、敵の兵糧弾薬が尽きるのを待つのが上策と考えるが敵の後詰めが迫っている状況にあるため難しい。上野国の事もある。敵地に長居するのは好ましい状況では無い。」

小幡信真「兵を退かれるのでありますか?」

滝川一益「いやそうでは無い。其方の働き。秩父の調略に報いたいと考えている。」

小幡信真「勿体ないお言葉。」

滝川一益「そのためには北条方と秩父との間を分断する事の出来るここ鉢形を奪うのが最良。」

小幡信真「はい。」

滝川一益「しかし……。」



 鉢形を落とす事は出来ない。



小幡信真「滝川様で出来ぬ事は私では出来ません。撤退するのでありましたらそれに従うのみであります。」

滝川一益「申し訳ない。」

小幡信真「いえ。」

滝川一益「ただこのまま帰るのは面白く無い。それにうちへの転身を決めた秩父の国衆の今後が心配である。」

小幡信真「はい。」

滝川一益「そこで1つ提案があるのだが。」

小幡信真「と言われますと?」

滝川一益「秩父を其方に託したい。勿論兵糧弾薬の支援はする。北条の大軍が秩父に向かう事が無いよう上野国から圧迫を加え続ける事を約束する。敵は氏邦のみである。この条件で受けていただく事は可能か?」

小幡信真「……氏邦だけ。その氏邦も殿への対応に追われる事になるのでありますか?」

滝川一益「勿論、私は関東を離れる事は無い。」

小幡信真「(小幡信真の本拠地である)国峰と秩父の連絡路の確保と北条の侵入が予想される城の改修の費用は?」

滝川一益「こちらが負担する。」

小幡信真「……それでありましたら。」

滝川一益「引き受けていただけるか?」

小幡信真「わかりました。そうとなりましたら……。」



 騒ぎを聞きつけ急ぎ駆け付けた北条勢。そんな彼らが目にしたもの。それは……滝川勢が退却した後の鉢形城。少し前……。



小幡信真「ここは危険であります。少し離れた所に兵の規模を活かす事が出来ない場所があります。まずここに移動しましょう。そこでありましたら私の手勢で対処する事が出来ます。殿はゆっくり厩橋に。」

滝川一益「大丈夫か?」

小幡信真「えぇ。今頃あいつらが……。」



 その頃、鉢形城……。



伝令「申し上げます。敵兵神流川を押し渡り金窪を占拠!鉢形に向け兵を動かしています!」



 再び神流川に兵を動かす北条勢。金窪に到着し、彼らが見たものは勿論……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高天神攻略の祝宴でしこたま飲まされた武田勝頼。翌朝、事の顛末を聞いた勝頼が採った行動とは?

俣彦
ファンタジー
高天神城攻略の祝宴が開かれた翌朝。武田勝頼が採った行動により、これまで疎遠となっていた武田四天王との関係が修復。一致団結し向かった先は長篠城。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...