上 下
534 / 625

しおりを挟む
 北条氏照に滝山城が包囲される前に……。



真田幸隆「今、城門に居る兵を帰しましょう。」

私(村上義清)「もしも時の大事な人質だぞ?」

真田幸隆「(氏照からの)『戦いを止めよ。』の指示の時、本当の指令が出されているのは容易に想像出来ます。彼らは人質にはなり得ません。そんな奴らにいつまでも城門近辺を屯されてはこちらの用兵にも支障を来します。それに……。」

私(村上義清)「それに?」

真田幸隆「彼らを戻す事によって、氏照の動きを遅らせる事が出来ます。」

私(村上義清)「実働部隊を戻すんだぞ。むしろ逆では無いのか?」

真田幸隆「いえ。氏照は既に武蔵の国人に動員を掛けていると思われます。目的は包囲するためであり、力攻めをするわけではありません。実戦で役に立つ立たないは問いません。ただ数を揃えてしまえば済む話。故に城門付近に居る将兵を手元に戻す必要はありません。」

私(村上義清)「見殺しか?」

真田幸隆「いえ。氏照は和議に違反したわけではありません。『鉢形と滝山を結ぶ線を渡す。』と言っただけであります。『鉢形は譲ります。滝山も譲ります。その間を結ぶ線も村上様の物であります。それ以外は北条のままでありますので、そこに兵を展開する事に問題はありませんよね。その線と言うのは……。』」



 木の枝で引いた一本線。



真田幸隆「『どうぞこの線を使って人と物を動かしてください。何か御不満でも?』と言われましてもこちらが文句を述べる事は出来ません。」

私(村上義清)「それを承知で条件を飲んだのか?」

真田幸隆「実際、こちらも苦しい状況にあります。周囲は全て北条領。北条の本拠地側からの攻撃に弱点を抱えた城。補給地点となる鉢形へ辿り着くには、北への備えとして活用している多摩川を越えなければなりません。その北側の大半も北条領。連携した運用はほぼ不可能であります。兵糧玉薬にも限りがありますし、兵站に問題を抱えていますので、物の補給は勿論の事。兵の後退も難しい。いづれ厭戦気分が蔓延する事になるのは目に見えています。長きに渡るいくさに耐える事は出来ません。」

私(村上義清)「それも見越して氏照は……。」

真田幸隆「はい。和議を打診したものと思われます。」

私(村上義清)「こちらが油断をしている隙を衝いて、鉢形との行き来が出来ない態勢を構築する?」

真田幸隆「はい。ここからは時間との戦いであります。故にうちの動きが見える城の眼前に北条の兵が居るのは邪魔でしかありませんし、氏照に『受け入れる』と言う余分な手間を課すために彼らを帰すのであります。氏照に彼らを拒絶する事は出来ませんので。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...