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帰国

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8月。上杉輝虎が越後に帰国。



私(村上義清)「本人不在の時ばかり狙われて輝虎も忙しいな。まぁこれで西を気にすることなく関東を見据えることが出来るようになったのかな?」

真田幸隆「……殿。」

私(村上義清)「どうした?」

真田幸隆「輝虎が帰国した理由がわかりまして……。」

私(村上義清)「ん!?神保を鎮めることが出来たからだろう?」

真田幸隆「そのことなのでありますが、まだ燻っています。」

私(村上義清)「偽りの降伏だった?」

真田幸隆「いえ。神保の降伏自体は事実なのでありますが、裏で焚き付けているものがいます。」

私(村上義清)「一向宗か?」

真田幸隆「間違いではありません。輝虎もそのことはわかっていますので、本来でありましたらもう少し越中に残りたかったのが本音のようであります。」

私(村上義清)「北条が動いたのか?」

真田幸隆「いえ。輝虎による今回の越中遠征を北条は『陽動作戦』と見ているようであります。今のところこれと言った軍事作戦を展開しているわけではありません。」

私(村上義清)「では何があったのだ?」

真田幸隆「……関白様が……京に戻られました。」

私(村上義清)「輝虎の了承のもとにか?」

真田幸隆「いえ違います。無断で帰った模様であります。」

私(村上義清)「輝虎は(京への通り道となる)越中に居たよな?」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「それもほぼ制圧した状態で。」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「船を使うにしても出発地点は越後だよな?」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「関白は春日山に居たんだよな?」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「(関白が)囚われの身では無いとは言え、どうやって抜け出したのだ?」

真田幸隆「たぶんでありますが、ほぼ無警戒であったと思われます。」

私(村上義清)「敵では無いからな……。」

真田幸隆「輝虎の一番の協力者でありますし、身分が身分でありますので関白様が『ちょっと行って来る。』と言われれば、警護のものも止めることは出来ないでしょう。」

私(村上義清)「『輝虎に用事があるから越中まで船を出してくれないか?』で出航して、しばらくしてから『これで頼む。』と船頭に駄賃渡して敦賀か小浜まで行ってしまったのかな……。」

真田幸隆「その船の持ち主。二度と越後で商売することは出来ませんね。」

私(村上義清)「黙って越中で降ろせば良かったのに。」

真田幸隆「(上杉輝虎と対立する一向宗が支配する)加賀で捨てるのも面白かったかもしれませんね。」

私(村上義清)「船ってそうされる危険があるんだよな……。しかし何で関白は越後を離れたのだ?」
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