上 下
15 / 625

村上義清の

しおりを挟む
村上義清の夜は早い。

 午後8時には床につくことにしている。

 「年寄りだから?」

とか言わないでおくれ。私が夜の早い時間に寝るのには3つの理由がある。



 1つは電気など存在しない戦国時代において、夜の明かりに油は必須。しかもその油は必ずしも安いものではない。出来れば使わないに越したことはない。

 「それでは仕事が滞ってしまうのでは?」

と思われるかもしれない。それは現代人の思い過ごし。戦国時代にはお金を費やすことなく獲得することの出来る明かりが存在していた。そうお日様の光。時間にして10~15時間。この恵みを有効に使えば仕事を終えることが出来るだろう。そのためにも必要となるのが?そう。朝早くに起きること。スッキリとした気分で仕事を始めるためにも夜は早く眠るに限るのだ。これが理由の1つ。



 2つ目の理由は健康管理。

 「新型ウイルスが存在しない戦国時代にそこまで神経を使わなくても?」

と思っている諸君。浅はかな考えだ。それを今から紹介しよう。現代にあって戦国時代には無いものがある。それは何だと思う?答えは勿論

『ワクチンと言う概念そのものが存在しない。』

と言うことだ。もし私が今。……そうだな。疱瘡を患ったとしよう。戦国時代でそうなった場合。私に処方されるものは次の2つだ。それは『自助』もしくは『祈祷』。前者は無料。後者は有料の違いはあれど、結果的には自分がその疫病に耐えることが出来るか否かにかかっている。故に私は今。夜8時に寝ることにしている。



 ……何が楽しくて戦国大名をしているのだろうか?自分のやりたいことを思う存分やるために権力者を目指しているはずなのに。21世紀の今でこそ、上に立つものに対する規制や罰則が設けられてはいるけれども、村上義清が居るのは中央政府がほとんど存在しない土地の権力者=その土地の法の時代。常に首を狙われる。周りに気を遣わなければならないとは言え。これでは楽しみと言えるものが何もない。

 ……自粛生活を経ての転生で良かった。あの時は、自宅で、ある程度の仕事を行うことは出来たけれども印鑑だけはどうすることも出来ず、危険を承知で電車を使って会社へ。とは言え今の電車は良く出来ていて、空調を使えば2、3分。使わなくとも5、6分で空気の入れ替えが可能であること。加えて『自粛要請』。そこから派生した『自粛警察』なるものが効果を発揮したのか。必要な人のみが必要な時だけ利用していたこともあり、ストレスに感じるような密な状態では無かった。街中も同様。ただそうなると心配になるのが今乗った鉄道会社の経営。平素15両にも及ぶ編成が時間10本以上。それも満員で走っていたものが、一両に数人居れば良いほうに……。

「別に通勤しなくても仕事が出来るじゃん。」

と言うことを気付かせるきっかけにはなったけれどもその一方、気付いてしまったが故に

「『安泰』と言えるところは一つとして存在しないんだ。」

と言うことを突き付けられることにもなった。勿論今、村上義清になった私が居る戦国時代に比べれば安全なのは言うまでも無いが……。

 仕事が終わったら終わったで立ち寄ろうとした飲み屋も軒並み休業。やっと見つけた開いている店を覗いたら

「ラストオーダーです。」

と言われる始末。

「……じゃあメロンソーダ。」

アルコールを入れる気にもならないよ。

 午後9時台の電車で家路へと向かう緊急事態宣言中の私なのでありました。



 最後、3つ目の理由については幸隆からのレクチャーが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...