上 下
22 / 42

騒がしい

しおりを挟む
 何やら世間が騒がしい。物々しい雰囲気と、口々に不安を語る二俣城周辺の者達。そんな中……。



曽根昌世「しばらくここに来ることは出来なくなりそうだ。」

依田信蕃「信長様が私の存在に……?」

曽根昌世「いやそう言う事では無い。心配致すな。」

依田信蕃「城の様子を見る限り、いくさが近付いているように思うのでありますが。其方も。となると相手は……。」



 北条氏政?



曽根昌世「氏政に動きは見られない。しかし私は北条との境を守る役目を仰せつかった。故にここまで足を運ぶ事は出来なくなってしまった。」

依田信蕃「いつまで続く任務になりますか?」

曽根昌世「恐らくであるが……。」



 徳川家康と穴山信君がそれぞれの領地に戻るまで。



依田信蕃「それでありましたら別に今も留守にされていますが。」

曽根昌世「いやそうでは無い。徳川様と穴山様は出陣される事になった。信長様の要請である。」

依田信蕃「となりますと行く先は……。」



 毛利攻め。



曽根昌世「その通り。徳川様と穴山様が今回信長様に呼び出された理由がそれである。勿論、信長様が甲斐から戻られる時に行われた接待の御礼でもあるが。」

依田信蕃「『ただでは帰しませんよ。』」

曽根昌世「その通り。毛利攻めの。どのような役目で何処に派遣される事になるかは決まっていないとの事。」

依田信蕃「穴山様が先兵を務められる恐れは?」

曽根昌世「先の武田攻めを見る限り、いくさの最前線は信長様の家臣が担う事になるのでそれは無いであろう。」

依田信蕃「それは何よりであります。」

曽根昌世「ただ信長様のこれまでのいくさについて聞く限り、織田のいくさで最も危険な場所は……。」



 織田信長本陣とその周辺。



曽根昌世「朝倉攻めの時もそう。長島の時も然り。亡き勝頼様が明智城を奪った時も信長様周辺は散々な目に遭っている。」

依田信蕃「徳川様は?」

曽根昌世「最前線に立つ事になる恐れが高いのは徳川様かも知れない。純粋に実績を買われてであるのだが、此度は初めての場所でしかも遠い。補給を心配する必要が無いとは言え、その分期間が読めない。それでだろ。二俣周囲がざわついているのは。」

依田信蕃「なるほど。」

曽根昌世「徳川様と穴山様の主力がここを離れる事になる。滝川様は上杉攻めに神経を使っている。その間隙を氏政が狙って来る恐れがある。故に後れを取らぬよう本拠地から離れる事は出来ない。しばらく其方に会う事は叶わなくなる。また便りを出す。」

依田信蕃「お心遣い。いつもありがとうございます。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大将首は自分で守れ

俣彦
歴史・時代
 当面の目標は長篠の戦い。書いている本人が飽きぬよう頑張ります。  小説家になろうで書き始め、調子が出て来たところから転載します。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

赤松一族の謎

桜小径
歴史・時代
播磨、備前、美作、摂津にまたがる王国とも言うべき支配権をもった足利幕府の立役者。赤松氏とはどういう存在だったのか?

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...