20 / 42
去就
しおりを挟む
依田信蕃「氏政が織田の目を気にする事無く、勢力拡大へ進むために必要な事となると……。」
曽根昌世「簡単に言えば、織田が無くなってしまう事。これに尽きる。しかしこれが実現する事はもはやあり得ない。」
依田信蕃「そうだな。家督は既に信忠様に継がれている。信長様にもしもの事態が発生したとしても織田家が乱れる事は無い。そうなると織田が北条の力を必要とする事態を発生させれば良い?」
曽根昌世「その要因になる可能性とあるものが北条の周囲には残されている。甲斐だ。あそこには去就を決めていない者が多く存在する。織田に恨みを抱いている者もいれば、織田を恐れている者もいる。ただ甲斐国に入った河尻様に逆らうだけの力は無い。錦の御旗となり得る人物もいない。尤も今、反織田として甲斐で立ち上がった所ですぐ鎮圧されてしまう事にはなるが。」
依田信蕃「もし穴山様や其方が甲斐を治める事になっていたら?」
曽根昌世「穴山様も私も事前に内通を申し出ていた身。裏切り者である我らが甲斐に入ったとなれば……。今頃、我らの命は無かったであろう。」
依田信蕃「そうなる前に信長様は……。」
曽根昌世「兵を出すとは思えぬ。乱れに乱れ、制御不能になった所で大軍を送り込む手筈となっていたであろう。しかし穴山様が断ったため、甲斐は河尻様が多くの兵と細心の注意を払いながら治めている。甲斐国内で組織立った行動をする事は出来ない。しかし甲斐の旧武田家臣の中に織田の事を良く思っていない者が多数いる事は間違いない。」
依田信蕃「氏政が彼らに手を回し、甲斐を搔き乱そうと考えている?」
曽根昌世「あくまで可能性の話である。甲斐は今、織田の領国であり河尻様が治めている。私が探りを入れる事が出来る状況には無い。」
依田信蕃「北条も同じ……。」
曽根昌世「確かに。ただ北条はまだ織田と同盟関係にあり、主従関係が結ばれているわけでは無い。その分、行き来し易い状況にはある。」
依田信蕃「調略の手を伸ばしている可能性は?」
曽根昌世「『わからない。』
としか答える事は出来ない。ただ氏政が今の状況に満足していないのは事実であり、信長様も氏政を信用しているわけでは無い。」
依田信蕃「何かが起こる可能性がある。それも甲斐で。」
曽根昌世「織田の主力は西へ向かう事になる。信長様信忠様共々毛利攻めに参加する事が決まっている。四国にも部隊を展開する。その間、東国は滝川様や河尻様だけで見なければならない時期が必ず来る。その期間が短いもので終われば問題無いのだが……。」
曽根昌世「簡単に言えば、織田が無くなってしまう事。これに尽きる。しかしこれが実現する事はもはやあり得ない。」
依田信蕃「そうだな。家督は既に信忠様に継がれている。信長様にもしもの事態が発生したとしても織田家が乱れる事は無い。そうなると織田が北条の力を必要とする事態を発生させれば良い?」
曽根昌世「その要因になる可能性とあるものが北条の周囲には残されている。甲斐だ。あそこには去就を決めていない者が多く存在する。織田に恨みを抱いている者もいれば、織田を恐れている者もいる。ただ甲斐国に入った河尻様に逆らうだけの力は無い。錦の御旗となり得る人物もいない。尤も今、反織田として甲斐で立ち上がった所ですぐ鎮圧されてしまう事にはなるが。」
依田信蕃「もし穴山様や其方が甲斐を治める事になっていたら?」
曽根昌世「穴山様も私も事前に内通を申し出ていた身。裏切り者である我らが甲斐に入ったとなれば……。今頃、我らの命は無かったであろう。」
依田信蕃「そうなる前に信長様は……。」
曽根昌世「兵を出すとは思えぬ。乱れに乱れ、制御不能になった所で大軍を送り込む手筈となっていたであろう。しかし穴山様が断ったため、甲斐は河尻様が多くの兵と細心の注意を払いながら治めている。甲斐国内で組織立った行動をする事は出来ない。しかし甲斐の旧武田家臣の中に織田の事を良く思っていない者が多数いる事は間違いない。」
依田信蕃「氏政が彼らに手を回し、甲斐を搔き乱そうと考えている?」
曽根昌世「あくまで可能性の話である。甲斐は今、織田の領国であり河尻様が治めている。私が探りを入れる事が出来る状況には無い。」
依田信蕃「北条も同じ……。」
曽根昌世「確かに。ただ北条はまだ織田と同盟関係にあり、主従関係が結ばれているわけでは無い。その分、行き来し易い状況にはある。」
依田信蕃「調略の手を伸ばしている可能性は?」
曽根昌世「『わからない。』
としか答える事は出来ない。ただ氏政が今の状況に満足していないのは事実であり、信長様も氏政を信用しているわけでは無い。」
依田信蕃「何かが起こる可能性がある。それも甲斐で。」
曽根昌世「織田の主力は西へ向かう事になる。信長様信忠様共々毛利攻めに参加する事が決まっている。四国にも部隊を展開する。その間、東国は滝川様や河尻様だけで見なければならない時期が必ず来る。その期間が短いもので終われば問題無いのだが……。」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
小童、宮本武蔵
雨川 海(旧 つくね)
歴史・時代
兵法家の子供として生まれた弁助は、野山を活発に走る小童だった。ある日、庄屋の家へ客人として旅の武芸者、有馬喜兵衛が逗留している事を知り、見学に行く。庄屋の娘のお通と共に神社へ出向いた弁助は、境内で村人に稽古をつける喜兵衛に反感を覚える。実は、弁助の父の新免無二も武芸者なのだが、人気はさっぱりだった。つまり、弁助は喜兵衛に無意識の内に嫉妬していた。弁助が初仕合する顚末。
備考 井上雄彦氏の「バガボンド」や司馬遼太郎氏の「真説 宮本武蔵」では、武蔵の父を無二斎としていますが、無二の説もあるため、本作では無二としています。また、通説では、武蔵の父は幼少時に他界している事になっていますが、関ヶ原の合戦の時、黒田如水の元で九州での戦に親子で参戦した。との説もあります。また、佐々木小次郎との決闘の時にも記述があるそうです。
その他、諸説あり、作品をフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。物語を鵜呑みにしてはいけません。
宮本武蔵が弁助と呼ばれ、野山を駆け回る小僧だった頃、有馬喜兵衛と言う旅の武芸者を見物する。新当流の達人である喜兵衛は、派手な格好で神社の境内に現れ、門弟や村人に稽古をつけていた。弁助の父、新免無二も武芸者だった為、その盛況ぶりを比較し、弁助は嫉妬していた。とは言え、まだ子供の身、大人の武芸者に太刀打ちできる筈もなく、お通との掛け合いで憂さを晴らす。
だが、運命は弁助を有馬喜兵衛との対決へ導く。とある事情から仕合を受ける事になり、弁助は有馬喜兵衛を観察する。当然だが、心技体、全てに於いて喜兵衛が優っている。圧倒的に不利な中、弁助は幼馴染みのお通や又八に励まされながら仕合の準備を進めていた。果たして、弁助は勝利する事ができるのか? 宮本武蔵の初死闘を描く!
備考
宮本武蔵(幼名 弁助、弁之助)
父 新免無二(斎)、武蔵が幼い頃に他界説、親子で関ヶ原に参戦した説、巌流島の決闘まで存命説、など、諸説あり。
本作は歴史の検証を目的としたものではなく、脚色されたフィクションです。
鵺の哭く城
崎谷 和泉
歴史・時代
鵺に取り憑かれる竹田城主 赤松広秀は太刀 獅子王を継承し戦国の世に仁政を志していた。しかし時代は冷酷にその運命を翻弄していく。本作は竹田城下400年越しの悲願である赤松広秀公の名誉回復を目的に、その無二の友 儒学者 藤原惺窩の目を通して描く短編小説です。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
信長の秘書
にゃんこ先生
歴史・時代
右筆(ゆうひつ)。
それは、武家の秘書役を行う文官のことである。
文章の代筆が本来の職務であったが、時代が進むにつれて公文書や記録の作成などを行い、事務官僚としての役目を担うようになった。
この物語は、とある男が武家に右筆として仕官し、無自覚に主家を動かし、戦国乱世を生き抜く物語である。
などと格好つけてしまいましたが、実際はただのゆる~いお話です。
尾張名古屋の夢をみる
神尾 宥人
歴史・時代
天正十三年、日の本を突如襲った巨大地震によって、飛州白川帰雲城は山津波に呑まれ、大名内ヶ島家は一夜にして滅びた。家老山下時慶の子・半三郎氏勝は荻町城にあり難を逃れたが、主家金森家の裏切りによって父を殺され、自身も雪の中に姿を消す。
そして時は流れて天正十八年、半三郎の身は伊豆国・山中城、太閤秀吉による北条征伐の陣中にあった。心に乾いた風の吹き抜ける荒野を抱えたまま。おのれが何のために生きているのかもわからぬまま。その道行きの先に運命の出会いと、波乱に満ちた生涯が待ち受けていることなど露とも知らずに。
家康の九男・義直の傅役(もりやく)として辣腕を揮い、尾張徳川家二百六十年の礎を築き、また新府・名古屋建設を主導した男、山下大和守氏勝。歴史に埋もれた哀しき才人の、煌めくばかりに幸福な生涯を描く、長編歴史小説。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる