上 下
4 / 42

責務

しおりを挟む
徳川家康「なかなか出来る事では無いぞ。」

依田信蕃「ありがとうございます。」

徳川家康「そしてもう1つ我らを苦しめたのが先の田中城。」

依田信蕃「はい。」

徳川家康「正直な事を言って良いか?」

依田信蕃「はい。」

徳川家康「私や織田。そして北条に至るまで高天神落城後における武田の混乱ぶりを知っていた。原因は

『武田勝頼は、(武田に従っている者共が)危機に陥ったとしても助けに来てはくれない。』

と言う認識を植え付ける事に成功したから。間違い無いか?」

依田信蕃「はい。高天神には領内全域から選りすぐりの者が入り。長い間交代する事も出来ない中、最後の最後まで戦い抜いた事。皆が知っています。(依田信蕃が城将を務める田中城がある)駿遠国境を守る私としましても、もどかしい限りでありました。」

徳川家康「故に織田に北条。そして我らが同時に兵を動かせば、(武田の備えは)勝手に崩れ落ちていくものと考えていた。そして実際にそうなった。ただその中にあって最後の最後まで戦い、そして帰還を果たした人物が1人だけいた。それが其方。依田信蕃殿である。」

依田信蕃「攻めなかっただけでありましょう?」

徳川家康「いや。攻める事が出来なかったが正しい。我らは二俣での其方の働きを体験している。田中城は駿河の入口。ここで兵を損耗させるわけにはいかない。10日だったか?」

依田信蕃「そうでしたね。朝起きて見たら、徳川様の部隊の大半は何処かに消えていました。」

徳川家康「信忠様の進出が速かった。

『(信濃における武田の重要拠点)高遠深志の攻撃に取り掛かっている。』

との報告が入った事。そして……。」



 北条氏政が駿河に乱入。



徳川家康「このままでは駿河は北条に奪われる事になってしまう。甲斐信濃における戦闘が終結してしまう。(駿河の入口にある)田中城で足止めを喰らっている状況では無くなってしまった。故に其方に開城の依頼をした事。覚えているよな?」

依田信蕃「はい。」

徳川家康「しかし其方は。」

依田信蕃「殿(武田勝頼)の命令が全てでありますので。」

徳川家康「愚痴って良いかな?」

依田信蕃「構いません。」

徳川家康「何とか富士川より西を確保する事は出来たよ……。ただその時には既に(富士川以)東は北条に占拠され、信濃のいくさも終わっていた。しかし其方は田中城を守り続けていた。」

依田信蕃「殿から

『退去せよ。』

の命令が届いていない以上、田中城を守るのは当然の責務でありますので。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦国を駆ける軍師・山本勘助の嫡男、山本雪之丞

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。

武田信玄の奇策・東北蝦夷地侵攻作戦ついに発動す!

沙羅双樹
歴史・時代
歴史的には、武田信玄は上洛途中で亡くなったとされていますが、もしも、信玄が健康そのもので、そして、上洛の前に、まずは東北と蝦夷地攻略を考えたら日本の歴史はどうなっていたでしょうか。この小説は、そんな「夢の信玄東北蝦夷地侵攻大作戦」です。 カクヨムで連載中の小説を加筆訂正してお届けします。

真田幸村の女たち

沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。 なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

覇者開闢に抗いし謀聖~宇喜多直家~

海土竜
歴史・時代
毛利元就・尼子経久と並び、三大謀聖に数えられた、その男の名は宇喜多直家。 強大な敵のひしめく中、生き残るために陰謀を巡らせ、守るために人を欺き、目的のためには手段を択ばず、力だけが覇を唱える戦国の世を、知略で生き抜いた彼の夢見た天下はどこにあったのか。

処理中です...