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夏・入院
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「じゃ、暫くご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします。」
「えぇ、こちらは大丈夫よ。焦らずに、充分休んでから、戻ってらっしゃい。お大事にね。」
看護士長に丁寧に頭を下げて、Sはナースステーションを出た。
そこに診察終えて戻ってきたE先生、カルテを片付けながら、士長に尋ねた。
「何かあったんですか?」
「あ~いえ。先生だからお話しますけど、実は。Sさん、卵巣嚢腫で手術することになって、今から入院なんです。」
「今から?」
「えぇ。長期に休むから、ここんとこは詰めて勤務してくれてたんです。みんなのシフトを気にかて。」
「ふ~ん。」
「私も経験あるんですけど、術後も結構長いこと身体がしんどくて…。先生、彼女が復帰してもコキ使わずに優しくして下さいよ。それから、この事は内密に。若い女の子だから男性に知られるのは嫌かも知れないんでね。頼みますよ。」
と、士長はEの目を見て、返事を聞かずとも様子を確認してから去った。
数日後、勤務中の小児病室の窓から、院内の中庭ベンチにSが座ってるのが見えた。Eは缶コーヒーを片手に向かった。
「飲むか。」
「え?先生。ありがとうございます。」Sは缶コーヒーを受取り、両手で握った。
術後の傷で力むと痛いから、自分で缶を開けることは出来なかった。
隣りに座ったE先生、それに気付いた。自分の缶を横に置き、Sの缶を開けてから、また渡した。
「気分はどうだ。」優しい声で訊ねた。
「お陰様で、良くなってると思います。」と決して明るくないトーンで答えた。
「退院はいつだ。」
「来週末くらいだと。」
「そぉか。」
退院日は予定より少し遅くなった。
小さいスーツケースを引いて、病院を出た。まだ少し傷が痛む。
病院敷地を出た所に、小さめだが立派な車が止まっていた。中からE先生が下りてきた。
「お疲れ。」
「先生、どうしたんですか?」
「傷痛むだろ。送るよ。」と、スーツケースを受け取った。
Sは、ただただ驚くばかり。
「勤務はいいんですか?」
「今日は終わった。」
Sが入院してた科には、Eの同期がいて病状など聞いていた。だから勤務時間を調整できたのだ。
「帰り道、スーパーにでも寄るか?家で療養する間の食材がいるだろ。」運転しながら言う。
「そんなことまで、良いんですか?」
「車だし、俺もいる。たくさん買えるだろ。」
Sのマンションまで、Eは送り、荷物を運んだ。
「キッチン借りるぞ。」玄関先でそう言いながら、食材を出し料理を始めた。
「そんな申し訳ないです。後は自分でやりますから。」
「病み上がりだろ、大人しくしてろ。俺も手伝えるのは今日だけだ。」
日保ちするメニューをたくさん作り、冷蔵庫になおし、後片付けもした。
「長居して悪かったな。後はゆっくり休め。」と靴を履いた。
「色々とありがとうございました。」と玄関先で深々とSは頭をさげた。
その二日後、E先生の作り置きで食事して、のんびりしていると、E先生が訪ねてきた。
「デザート食べるか。」
「あ、はい。どうぞ上がって下さい。」
「体調はどうだ。」
「先生のお蔭で、楽に過ごしてるので、休まりました。」
「そぉか。休暇はまだ取ってるのか。」
「はい。後二日。」
「それで間に合うのか。」
「ん~、まだ元通りとはいかないかも知れないですけど…」
E先生は納得するように軽く数回頷いた。
研修での事、退院した日の事、今日の事。二人だけの時間が増えた分、それ以上にSのE先生への想いは大きくなってきた。もしかして、この状況って、、、まるで恋人だ。
「今日は夜勤だ。そろそろ行くよ。」
「そうなんですか、わざわざスミマセン。ケーキ、美味しかったです。」
玄関へ送り、靴を履くSに、たまらず聞いてみた。
「あの先生。あの、どうして、ここまで親切にして下さるんですか。」SはE先生を見つめる。
「えっ、あっ、いやっ、それは…。い、妹みたいなもんだ。」と、思わず【妹】と答えてしまった。それだけ親しい、と言う気持ちを込めていた。
が、Sは振られたのだと思った。
「えぇ、こちらは大丈夫よ。焦らずに、充分休んでから、戻ってらっしゃい。お大事にね。」
看護士長に丁寧に頭を下げて、Sはナースステーションを出た。
そこに診察終えて戻ってきたE先生、カルテを片付けながら、士長に尋ねた。
「何かあったんですか?」
「あ~いえ。先生だからお話しますけど、実は。Sさん、卵巣嚢腫で手術することになって、今から入院なんです。」
「今から?」
「えぇ。長期に休むから、ここんとこは詰めて勤務してくれてたんです。みんなのシフトを気にかて。」
「ふ~ん。」
「私も経験あるんですけど、術後も結構長いこと身体がしんどくて…。先生、彼女が復帰してもコキ使わずに優しくして下さいよ。それから、この事は内密に。若い女の子だから男性に知られるのは嫌かも知れないんでね。頼みますよ。」
と、士長はEの目を見て、返事を聞かずとも様子を確認してから去った。
数日後、勤務中の小児病室の窓から、院内の中庭ベンチにSが座ってるのが見えた。Eは缶コーヒーを片手に向かった。
「飲むか。」
「え?先生。ありがとうございます。」Sは缶コーヒーを受取り、両手で握った。
術後の傷で力むと痛いから、自分で缶を開けることは出来なかった。
隣りに座ったE先生、それに気付いた。自分の缶を横に置き、Sの缶を開けてから、また渡した。
「気分はどうだ。」優しい声で訊ねた。
「お陰様で、良くなってると思います。」と決して明るくないトーンで答えた。
「退院はいつだ。」
「来週末くらいだと。」
「そぉか。」
退院日は予定より少し遅くなった。
小さいスーツケースを引いて、病院を出た。まだ少し傷が痛む。
病院敷地を出た所に、小さめだが立派な車が止まっていた。中からE先生が下りてきた。
「お疲れ。」
「先生、どうしたんですか?」
「傷痛むだろ。送るよ。」と、スーツケースを受け取った。
Sは、ただただ驚くばかり。
「勤務はいいんですか?」
「今日は終わった。」
Sが入院してた科には、Eの同期がいて病状など聞いていた。だから勤務時間を調整できたのだ。
「帰り道、スーパーにでも寄るか?家で療養する間の食材がいるだろ。」運転しながら言う。
「そんなことまで、良いんですか?」
「車だし、俺もいる。たくさん買えるだろ。」
Sのマンションまで、Eは送り、荷物を運んだ。
「キッチン借りるぞ。」玄関先でそう言いながら、食材を出し料理を始めた。
「そんな申し訳ないです。後は自分でやりますから。」
「病み上がりだろ、大人しくしてろ。俺も手伝えるのは今日だけだ。」
日保ちするメニューをたくさん作り、冷蔵庫になおし、後片付けもした。
「長居して悪かったな。後はゆっくり休め。」と靴を履いた。
「色々とありがとうございました。」と玄関先で深々とSは頭をさげた。
その二日後、E先生の作り置きで食事して、のんびりしていると、E先生が訪ねてきた。
「デザート食べるか。」
「あ、はい。どうぞ上がって下さい。」
「体調はどうだ。」
「先生のお蔭で、楽に過ごしてるので、休まりました。」
「そぉか。休暇はまだ取ってるのか。」
「はい。後二日。」
「それで間に合うのか。」
「ん~、まだ元通りとはいかないかも知れないですけど…」
E先生は納得するように軽く数回頷いた。
研修での事、退院した日の事、今日の事。二人だけの時間が増えた分、それ以上にSのE先生への想いは大きくなってきた。もしかして、この状況って、、、まるで恋人だ。
「今日は夜勤だ。そろそろ行くよ。」
「そうなんですか、わざわざスミマセン。ケーキ、美味しかったです。」
玄関へ送り、靴を履くSに、たまらず聞いてみた。
「あの先生。あの、どうして、ここまで親切にして下さるんですか。」SはE先生を見つめる。
「えっ、あっ、いやっ、それは…。い、妹みたいなもんだ。」と、思わず【妹】と答えてしまった。それだけ親しい、と言う気持ちを込めていた。
が、Sは振られたのだと思った。
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