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44話

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デビュタントの夜会は、お父様達の挨拶回りが終わるのを待って早々に帰宅する事になったわ。

「ミュリエル。デビュタントだったのに、ごめんなさいね」
「お母様、謝らないで下さい。長居して王族から声をかけられる方が面倒ですから」

家族だけの馬車の中だから、素直に思った事を口にする。

「そうね。下手に約束を取り付けられると面倒だわ」
「ジュリエット嬢が居るんです。先にシャルトル公爵家に打診すべきでしょう」
「フェリクスの言う通りね。ジュリエットはこの2年で変わったもの。今なら確かに資格があるわ」
「しかし、今更王家がミュリエルを気にするとはね…困ったものだ。ミュリエル、婚約者を急ぎ決める事になるかもしれない」

お父様とお母様は焦らず決めて良いと言ったせいか、とても申し訳なさそう。

「お父様、お母様、そんな顔しないで。王妃様の事で私もそう考えていましたから」

笑ってそう言えば、複雑そうではあるが両親はホッとしたようだ。

「とりあえず、この件は明日話し合おう。すぐに何か起こす事も無いだろうからね」

馬車が邸に着き、あまりにも早い帰宅に使用人の皆も何かあったと察したみたい。

「お帰りなさいませ」
「ただいま。テランス、後で執務室へ来てくれ」
「畏まりました」
「フェリクス、ミュリエル、気疲れしたろう。今日は早めに休みなさい」

お父様は対策を話し合うのかしら?

「ミュリエル、部屋まで送るよ」
「ありがとうございます。お父様、お母様、おやすみなさいませ」

お兄様にエスコートされ部屋に戻る。

どうせ知る事になると、ミア達にはお兄様が説明してくれた。

「リュカ達も偶然を装っての接触に気をつけろ」
「畏まりました」
「ミュリー、今日はゆっくり休んで。デビュタントおめでとう」
「フェル兄様、ありがとうございます。おやすみなさいませ」
「おやすみ」

ドレスを脱ぎ、コルセットを外されると生き返る。

程よい疲労感で湯浴みを済ますと、すぐに眠ってしまったわ。



*****



翌朝はスッキリと目覚めた。

昨日の事が無ければ、気持ちの良い朝なのに…。

「皆が頑張って着飾らせてくれたのに、すぐに帰る事になってごめんね」
「いいえ。殿下に目を付けられず良かったですわ」

ミアの言葉に頑張って思い出すけれど、王子達とは目も合わなかったし言葉も交わしていない。

「殿下は…私に興味が無いと思うわ」
「お嬢様も興味がありませんよね」
「そうね。王子様との結婚なんて面倒だろうとは思うわ」

挨拶の時も殿下達は立っているだけだった。王妃様のせいでよく覚えていないし。

「フェリクス様が周りに目を配っていたでしょうから大丈夫ですよ」

アンは優しいわ。でも、お兄様はずっと一緒だったけれど、そんな事していたのかしら?

身支度を整え終わる頃、お父様の執務室へ呼ばれた。

王妃様のせいで面倒な事になったわ。つい足取りも重くなる。

ゆっくり考えるはずだった婚約者も、急がなくちゃいけないし…はぁ…。



*****



執務室へ入ると私が最後だったみたい。

お父様とお母様の向かい側のソファに、お兄様と並んで座る。

テランスがどうやって調べたのか、現在の妃候補等の情報を読み上げる。

全員当たり前だけれど成績は良い。婚約が決まったら王妃教育へと移る。しかし…王子達と妃候補の相性が良くない。

第一王子は王妃としての仕事が1番出来そうな公爵家の令嬢、そして側妃として侯爵家の令嬢で決まりそう。

第二王子は大公として第一王子を支える。娶るのは1人だが大公妃が全く決まる気配がない。

「第一王子の方は令嬢とは微妙な仲ですが、令嬢同士は互いの立場を弁えているので、決まったとしても問題は無いかと」

王族って忙しそうだから、夫婦として仲良くなくても仕事が出来て世継ぎさえ出来たら良いのかしら?側妃も王妃の補佐みたいな感じだし。

そして問題は第二王子。

令嬢の傲慢で派手な所が嫌いらしいけれど、第二王子も傲慢で派手好きだから同族嫌悪?

「どうやら、お淑やかで静かな女性が良いと側近に言っているそうです」
「内面が強ければ問題無いだろうが、多少傲慢くらいでないと務まらん」

私以外、眉間に皺を寄せ難しそうな顔をする。

「だから、ミュリエルなのね…」

私は(元)病弱で物静かでお淑やかという、謎の人物評が出回っている。おそらく引き籠もり気味のせいね。そして学園での成績は良い。

第二王子の好む相手に適していると王妃様は思ったらしい。

「あの、大公妃はお仕事は無いのですか?」
「第一王子が外交に強い家から選んでいるから、国内の貴族を纏めるのが大公夫妻の主な仕事だね。後は陛下達の補佐もある。普通の貴族夫人とは求められる役割が全然違うからね」
「王妃様は私にそれが出来そうと思われたのですか?」

どう考えても無理がある。

お茶会は必要最低限しか出ていないし、同年代の令嬢を纏めようと思った事もした事も無い。それに大公妃は仕事が大変そう。

本当に病弱なら無理だと思う。仲が悪くとも健康な妃の方が安心だと思うのは自然な事。

「教育すれば問題無いと思ったのかもしれないね。健康面を気にしないほど深刻かもしれない」
「お淑やかな令嬢にする教育をした方が早そうです…でも、そうなると打診される前に婚約者を決めてしまった方が良いですね」

これからお見合い三昧かと思うと憂鬱になる。

隣に座るお兄様に優しく手を握られ、下げていた視線をお兄様へ向けると。

「ミュリー。僕と婚約しようか」

お兄様にキラキラした笑顔で言われた。



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