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37話

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今まで何度も思ってきた、嫌になったら冒険者になって逃げる。

言うだけなら簡単なのよね。

フェーリにしか言っていないから、あまり深く考えてこなかったけれど…起きてから寝るまで侍女に世話をされて、料理も掃除もした事がないのに生きていけるのかしら?

前世の記憶があるからといって、知識はあっても自分の事は思い出せないから、前世家事が出来たのかも分からないわ。

それに私が嫌がる人と無理やり結婚させるなんて、お父様がするのかしら?

でも…貴族なら家のためなら無くは無い?

アリアーヌ様と2人、帰りの馬車へ向かいながら考えていると。

「ミュリエル様、どうかされましたの?」
「来年は私達も婚約するのかと…」
「そうですね。シャルロット様とソフィア様は確実でしょうね」

シャルロット様は婿候補が絞られてきて、デビュタントに合わせて婚約する。ソフィア様は幼馴染の伯爵子息との婚約が、近々両家で話し合われるそう。

「アリアーヌ様は?」
「私はお見合いになりそうですわ。気の合う方と出会えると良いのですが」

皆様デビュタントまで1年以上あるのに、ちゃんと考えているのね。

「ミュリエル様は、そういうお話はまだですか?」
「ええ。まだ何も…」
「不安ならご両親に聞いてみては?」
「そうですね。アリアーヌ様ありがとうございます」
「ふふ、こんな事くらい何時でも聞きますわ」

アリアーヌ様と話したら、何だかすっきりしたわ。



*****



結婚かぁ…前世の私はしていたのかな?

貴族令嬢として育ってきたから、この生活を少し窮屈だと感じるけれど逃げ出すほど嫌ではないわ。

やっぱり…お見合い結婚になるのかしら?

恋愛といっても前世みたいに自由では無いし、私の行動範囲が狭すぎて、これ以上の出会いは望めそうにないものね。 

数日後、執事のテランスにお願いしてあった両親との話し合いの日になった。

「ミュリエルから話したい事があるなんて初めてだね」
「お時間を頂き、ありがとうございます」
「良いのよ。執務室なのが残念だけれど、久しぶりのティータイムを楽しみましょう」

お父様とお母様とティータイムなんて何時ぶりかしら?

「それで、話したい事とは何かな?」
「周りのお友達から婚約についての話が出始めて、私の婚約についてお父様達が、どのように考えているのかお聞きしたくて」
「そうだね。ミュリエルが思う方が居るのなら働きかけるが、まだそういう方が居ないのであれば、焦って婚約する必要は無いと思うよ」
「そうね。夜会に出るようになれば、素敵だと思う方が現れるかもしれないわ。学園やお茶会とは違うもの。お友達から話が出ると焦るかもしれないけれど、焦って婚約しても良い事なんて無いわ」
「私が好ましいと思う方で良いのですか?家の利益とか…」

両親は顔を見合せ笑い出す。

「色々と考えさせてしまったね。それだけミュリエルが大人に近づいたんだね」
「ふふ、そうね。子供の成長は早いわね」
「今の我が家は利益のために婚姻を結ぶ必要は無いんだよ。派閥の力関係を考えると力のありすぎる家とは、むしろ避けたいくらいだ。だからフェリクスにも好きな人を選んで良いと言ってあるよ」

派閥は一応習ったけれど、殺伐としたものでは無いし、各公爵家の傘下同士で多少のマウントが合戦があるくらい。

我が家はお母様のシャルトル公爵家の傘下で、領地も貿易のお陰で栄えているし防衛の意味で武力もある。

「もちろん、選んだ相手が有力な家だったからといって反対はしないよ。ただ、あまりにも愚かな者だったら認めるのは難しいね」

それはそうよね。苦労すると分かっている相手を簡単には認められないわよね。

「婚約期間を考えると、デビュタントして1年くらいで決まるのが理想ね。1年あれば大体の方とは顔を合わせるから、選ぶのにも良い時期よ」

一通り知り合って決めるのなら、1人くらい惹かれる方が出来るのかしら?

「あまり考えすぎなくても大丈夫よ。どんな方か気になったらフェリクスに聞くと良いわ。幅広く交流しているから、大体の子息の事は分かるわ」
「確かにフェル兄様が良いと言う方なら、間違いがなさそうですね」
「だから焦らずに決めなさい。でも、お相手がいる方は、どんなに心惹かれても駄目よ」
「それは当たり前かと…。それに複数の女性を相手にするような方は信用出来ませんわ」

両親とのティータイムはとても楽しかったし、久しぶりだから嬉しかったわ。

でも、好きな人を選んで良いなんて…逆に困るわね。

とりあえず、デビュタントしてから考えようかしら。夜会で会ったら、皆様違って見えそうだもの。



*****



2年生ももうすぐ終わる。

最近はフェーリとの夜のお散歩も随分減ったわ。

『ねぇ、フェーリはどんな人と結婚して欲しい?』
『君が気に入ったなら誰でも良いよ』
『フェーリも一緒に居る事になるのよ?』
『相手に見える訳じゃないからね』
『そうだけれど。フェーリも気に入る人が良いわ』

守護精霊だけれど、フェーリは大事な友達だもの。

今の所、誰だか分からない将来の相手より、フェーリの方が大事だわ。

『分かったよ。どうしても気に入らなければ言うよ』
『絶対よ。約束だからね』
『はいはい』

いまいち信用出来ない返事だけれど、約束は約束だものね。

『デビュタントを面倒くさいと思っていたけれど、少し楽しみになってきたわ』
『頑張っ結婚相手を見つけなよ』
『それは…程々に頑張るわ』

だって、まずは話せるようにならないと無理だもの…。



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