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29話
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長いと思っていた夏季休暇ももうすぐ終わる。
お兄様と領都を楽しんだ後、騎士団の転移塔を使って領内の街を巡ったわ。
領都は魚介類が食事でよく出てきたけれど、地方は魔獣のお肉が多かったわ。街や街道近くに出た魔獣を討伐して流通するから手に入りやすいそう。
村だと皆でお肉を分けて毛皮とかは商人に売り、村に必要な物を買うらしい。
小さな街や村まで視察に向かうことは出来なかったけれど、思ったよりも裕福で何だかほっとしたわ。だって領都だけ栄えていても、それはそれで問題のような気がするもの。
「ミュリー。もうすぐ王都へ戻るけれど、初めての領地はどうだった?」
「領都と地方でかなり違いはありましたが、だからといって地方が寂れているわけでもなく、小さな村にもきちんと商人が定期的に訪れ、何かあれば街に伝わる様になっているのは良い事だと思いましたわ」
「そうだね。でも、あれは商人達の助けがあるから成り立っているんだ。何かあった時に直ぐに知らせを受けられると良いのだけれどね」
「そういう魔道具はありませんの?」
「あるにはあるが、村に設置するのは難しいね。使うにもある程度魔力が必要だから」
平民は日常生活に初級の魔法を使う事はあるけれど、魔力量が多い訳では無いわ。
魔力が多かったり勉強が出来る子供は、最低限の基礎を習ったら各ギルドで見習いになる事が多いと教わった。
「才のある者は村を出てしまいますものね」
「魔力を溜められる魔石は高価だしね」
「あまり高価な物を村に置くと、盗もうとする人が出るかもしれませんね」
「そうだね。設置するとしたら警備隊が居なければ危ないだろうね」
魔道具があれば直ぐに連絡が取り合えるけれど、これでは簡単には設置できないわね。
「魔道具を設置するのは簡単だが、その事で領民が危険に晒されては意味が無いからね」
「難しいのですね…」
「魔法や魔道具は便利だけれど万能では無い、そして人も善人ばかりでは無いからね」
領都は治安が良いけれど私には知らされないだけで、国外とを繋ぐ街だから悪い人も入ってくるのだと思う。
領地は楽しい事が多かったけれど、考えさせられる事も沢山あったわ。
*****
領地から王都へ戻る日。
転移塔前でランベール魔法騎士団のジラール団長とミュレー副団長に見送られる。
「フェリクス様、ミュリエル様。またお会い出来る事を楽しみにしております」
「ジラール団長、ミュレー副団長。領をよろしく頼む」
「「畏まりました」」
今度来た時は騎士の訓練とか見てみたいわ。
お兄様や護衛の鍛錬は早朝だから、見たことが無いのよね…リュカとの手合わせくらいだわ。
今日も護衛をしてくれているリュカを見上げ。
「リュカ、魔法を教えてくれてありがとう」
「無事使いこなせるようになって良かったですね」
リュカとアンによる仮想の敵を相手にすごく頑張ったわ。結局、何処の誰が敵なのか分からなかったけれど…。
「ええ。実際に人に使うような事がないと良いけれど」
「練習は怠ってはいけませんよ。いざと言う時に使えなくては意味がありませんからね」
「気をつけるわ…」
仮想の敵訓練は続けなきゃいけないのね…。
「ミュリエル、そろそろ行くよ」
「はい。皆様ありがとうございました」
馬車に乗ると転移塔で王都へと戻った。
*****
邸に着いたら何だか懐かしい気持ちになったわ。私にとっての「家」はやっぱりこの邸って事かしら?
手を借りて馬車を降りて、ふと手を借りた先に違和感を覚える。
「リュカ?何故まだ居るの?」
先程別れたと思っていたリュカが立っていた。
「今日からこちらでの任務となりましたから」
「そうだったのね。これからもよろしくね」
「はい。よろしくお願い致します」
執事のテランス達が出迎えてくれて、サロンでお兄様とゆっくりお茶を頂く。
やっぱりテランスは普通の執事って感じね。将来はマクシムさんみたいに戦う執事にテランスもなるのかしら?
「ミュリー、疲れたかな?」
ちょっとぼんやりしていたら、お兄様に心配されてしまったわ。
「大丈夫です」
「そう?体調が悪ければちゃんと言うんだよ」
「はい」
心配そうに顔を覗き込まれ頬を撫でられる。
「フェル兄様、大丈夫ですわ。起きられるようになってから体調を崩した事は無いでしょう?」
「そうだね」
寝たきり状態を脱してから1度も体調を崩した事は無いわ。だって愛し子の力の練習で、風邪のひき始めとか自分で治していたもの。
「ミュリー。リュカはミュリーの護衛騎士にしようと思って連れて来たんだ。どうかな?」
「護衛騎士ですか?」
屋敷の外に出る時はいつも護衛は居るけれど専属ではないわ。
「学園の行き帰りやお茶会くらいしか外出しませんが、専属が居た方が良いのでしょうか?」
「まだ1年生だからね。でも1年後2年後、行動範囲が広がれば気心の知れた者の方が良いだろう」
この先を考えてって事ね。でもリュカは結構なイケメンよ。連れ歩いたらご令嬢方の視線が凄そうね…。
「分かりましたわ。リュカにお願いします。フェル兄様と通学出来るのも今年だけですものね」
自分で口にしたのに何となく寂しいわ…来年から1人で通学するのね…。
「そんなに悲しそうな顔をしないで、ミュリー」
「だって…王宮で働くようになったら、お父様みたいに忙しくなるのでしょう?」
「さすがに父様程じゃないよ。食事くらいは一緒に食べられるんじゃないかな」
「本当ですか?」
「約束は出来ないけれど、僕もミュリーと過ごす時間が減るのは寂しいからね」
お兄様に撫でられると安心するわ。
領地に居る間やたら撫でられていたから、これが普通な感じがするのよね。子供扱いみたいで最初は嫌だったのに。
何だか夏季休暇で益々ブラコンになってしまったような…。
お兄様と領都を楽しんだ後、騎士団の転移塔を使って領内の街を巡ったわ。
領都は魚介類が食事でよく出てきたけれど、地方は魔獣のお肉が多かったわ。街や街道近くに出た魔獣を討伐して流通するから手に入りやすいそう。
村だと皆でお肉を分けて毛皮とかは商人に売り、村に必要な物を買うらしい。
小さな街や村まで視察に向かうことは出来なかったけれど、思ったよりも裕福で何だかほっとしたわ。だって領都だけ栄えていても、それはそれで問題のような気がするもの。
「ミュリー。もうすぐ王都へ戻るけれど、初めての領地はどうだった?」
「領都と地方でかなり違いはありましたが、だからといって地方が寂れているわけでもなく、小さな村にもきちんと商人が定期的に訪れ、何かあれば街に伝わる様になっているのは良い事だと思いましたわ」
「そうだね。でも、あれは商人達の助けがあるから成り立っているんだ。何かあった時に直ぐに知らせを受けられると良いのだけれどね」
「そういう魔道具はありませんの?」
「あるにはあるが、村に設置するのは難しいね。使うにもある程度魔力が必要だから」
平民は日常生活に初級の魔法を使う事はあるけれど、魔力量が多い訳では無いわ。
魔力が多かったり勉強が出来る子供は、最低限の基礎を習ったら各ギルドで見習いになる事が多いと教わった。
「才のある者は村を出てしまいますものね」
「魔力を溜められる魔石は高価だしね」
「あまり高価な物を村に置くと、盗もうとする人が出るかもしれませんね」
「そうだね。設置するとしたら警備隊が居なければ危ないだろうね」
魔道具があれば直ぐに連絡が取り合えるけれど、これでは簡単には設置できないわね。
「魔道具を設置するのは簡単だが、その事で領民が危険に晒されては意味が無いからね」
「難しいのですね…」
「魔法や魔道具は便利だけれど万能では無い、そして人も善人ばかりでは無いからね」
領都は治安が良いけれど私には知らされないだけで、国外とを繋ぐ街だから悪い人も入ってくるのだと思う。
領地は楽しい事が多かったけれど、考えさせられる事も沢山あったわ。
*****
領地から王都へ戻る日。
転移塔前でランベール魔法騎士団のジラール団長とミュレー副団長に見送られる。
「フェリクス様、ミュリエル様。またお会い出来る事を楽しみにしております」
「ジラール団長、ミュレー副団長。領をよろしく頼む」
「「畏まりました」」
今度来た時は騎士の訓練とか見てみたいわ。
お兄様や護衛の鍛錬は早朝だから、見たことが無いのよね…リュカとの手合わせくらいだわ。
今日も護衛をしてくれているリュカを見上げ。
「リュカ、魔法を教えてくれてありがとう」
「無事使いこなせるようになって良かったですね」
リュカとアンによる仮想の敵を相手にすごく頑張ったわ。結局、何処の誰が敵なのか分からなかったけれど…。
「ええ。実際に人に使うような事がないと良いけれど」
「練習は怠ってはいけませんよ。いざと言う時に使えなくては意味がありませんからね」
「気をつけるわ…」
仮想の敵訓練は続けなきゃいけないのね…。
「ミュリエル、そろそろ行くよ」
「はい。皆様ありがとうございました」
馬車に乗ると転移塔で王都へと戻った。
*****
邸に着いたら何だか懐かしい気持ちになったわ。私にとっての「家」はやっぱりこの邸って事かしら?
手を借りて馬車を降りて、ふと手を借りた先に違和感を覚える。
「リュカ?何故まだ居るの?」
先程別れたと思っていたリュカが立っていた。
「今日からこちらでの任務となりましたから」
「そうだったのね。これからもよろしくね」
「はい。よろしくお願い致します」
執事のテランス達が出迎えてくれて、サロンでお兄様とゆっくりお茶を頂く。
やっぱりテランスは普通の執事って感じね。将来はマクシムさんみたいに戦う執事にテランスもなるのかしら?
「ミュリー、疲れたかな?」
ちょっとぼんやりしていたら、お兄様に心配されてしまったわ。
「大丈夫です」
「そう?体調が悪ければちゃんと言うんだよ」
「はい」
心配そうに顔を覗き込まれ頬を撫でられる。
「フェル兄様、大丈夫ですわ。起きられるようになってから体調を崩した事は無いでしょう?」
「そうだね」
寝たきり状態を脱してから1度も体調を崩した事は無いわ。だって愛し子の力の練習で、風邪のひき始めとか自分で治していたもの。
「ミュリー。リュカはミュリーの護衛騎士にしようと思って連れて来たんだ。どうかな?」
「護衛騎士ですか?」
屋敷の外に出る時はいつも護衛は居るけれど専属ではないわ。
「学園の行き帰りやお茶会くらいしか外出しませんが、専属が居た方が良いのでしょうか?」
「まだ1年生だからね。でも1年後2年後、行動範囲が広がれば気心の知れた者の方が良いだろう」
この先を考えてって事ね。でもリュカは結構なイケメンよ。連れ歩いたらご令嬢方の視線が凄そうね…。
「分かりましたわ。リュカにお願いします。フェル兄様と通学出来るのも今年だけですものね」
自分で口にしたのに何となく寂しいわ…来年から1人で通学するのね…。
「そんなに悲しそうな顔をしないで、ミュリー」
「だって…王宮で働くようになったら、お父様みたいに忙しくなるのでしょう?」
「さすがに父様程じゃないよ。食事くらいは一緒に食べられるんじゃないかな」
「本当ですか?」
「約束は出来ないけれど、僕もミュリーと過ごす時間が減るのは寂しいからね」
お兄様に撫でられると安心するわ。
領地に居る間やたら撫でられていたから、これが普通な感じがするのよね。子供扱いみたいで最初は嫌だったのに。
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